〈スイノカゴ〉 美瑛の森からつくる白樺かごと 暮らしの道具店

崎山さんは〈sui(スイ)〉という作家名で白樺かごづくりを行っています。
美瑛の大きな農家で生まれ育った崎山さんは、
ご主人の仕事で関東圏に長く住んだのち、
ふたりのお子さんの子育てをする環境を見つめ直し、
地元美瑛に戻ることを決意。
それと同時に、お店を開くことも決めたそうです。

せっかくなら美瑛のものを使った商品を扱おうと考えていたとき、
たまたまワークショップで体験した白樺かごづくりに魅せられた崎山さん。
しかも、白樺は美瑛町のシンボルツリー。
これなら美瑛に住みながら自分でもつくれるかもしれないと、
お店づくりと並行して本格的に白樺かごづくりの修行に入ります。
かごの素材は林業関係者にお願いして、
美瑛で間伐された白樺だけを選び、
樹皮を自らとりに行くところから始めました。

それまでものづくりをしたことがなかったとは思えないほど
崎山さんのつくる白樺のかごは美しく編み上げられ、
凛とした佇まいを放っています。
「大切に使えば、100年はもつんですよ」と教えてくれた崎山さん。
そんな白樺かごの制作風景を見せていただきました。

こちらが編まれる前の白樺の樹皮。

白樺の木が最も水分を含む6月頃に、
木肌にナイフを入れるとパッと樹皮が浮きあがります。
かごの表の色になる樹皮の内側の面は、
1本1本の木ごとに違う色を持っているそう。
なめらかで成形しやすい樹皮は油分を多く含むため、
北海道で薪ストーブを使う人には
“ガンピ”という名の焚き付けに使う素材として知られています。
崎山さんはこのときに採取した樹皮を、
1年間かけて少しずつ作品に仕上げています。

採取したあとの樹皮は木に戻ろうとして丸まってしまうので、
おもしを使いながら平らにのばします。
この1枚の樹皮には薄い紙のようなものが何層にも重なっているのだそう。
手で表皮をはがし、厚みを自分の感覚で調整したら、テープ状にカット。

カットされた白樺の樹皮。

「自然素材なので波打っている樹皮を、
ミリ以下でも狂わないように幅を合わせてまっすぐカットします。
すごく難しいですが、ここが作品のクオリティに大きく関わります」
と崎山さん。

まずかごをつくる場合は、底面から編んでいく。

底部分の大きさができたら一旦留めて次の工程へ。

作品の大きさを決めるのが、カットした樹皮の幅と長さ。
樹皮を採取できる倒木の大きさによっても違ってくるので、
できあがる作品は同じかたちでも毎年少しずつ変わるのだそうです。
底の部分が編み上がったら四隅を留めて、
今度は立体的に編んでいきます。
「デザインとかかたちをどこまで立ちあげるか、
高さをどこまでにするかを考えながら。
パターンは幾通りもあるので、ひたすらにつくっています」

次は立体的に編んでいきます。

隙間が生まれないようにおさえながら交差させていきます。
採取から編み上げる工程にいたるまでのすべてが手作業。
ひとりで手がけているため、ひとつの作品ができあがるまでには、
多くの手間と時間がかけられています。

崎山さんは店舗奥にある小さなアトリエで少しずつ編んでいる。

崎山さんが編むのはおもに日常的に使いやすいテーブルかご。
「何も敷かずに直接食べ物をのせたり、お皿として使っても大丈夫。
繰り返して水洗いができるんです。
どんどん飴色に育っていくのを楽しみながら、
次の世代に受け継いでいけるほどの耐久性も備えています」

フィンランドやスウェーデン、ロシアでも行なわれている白樺細工。
崎山さんは各国の古本を探して取り寄せ、
言葉の壁に苦戦しながらも世界各地のかごづくりを参考に、
自分のスタイルをつくり上げています。

撮影用にとつくってくれた小さな白樺かご。

かごのかたちが見えてきました。
自然が生む色合いとツヤ、
そして手仕事の美しい編み目にほれぼれしてしまいます。

「sui」とはアイヌ語で“再び”という意味。
アイヌ民族は植物ごとの特性を熟知して活かし、
必要に応じて使い分けていました。
白樺樹皮で水を汲む柄杓やお椀などをつくっていたのも、
今では記録に残るのみ。
断たれてしまったこれらの知恵や背景を
“再び”かたちにして伝えていきたいという思いと、
間伐などで間引かれた白樺の木に“再び”命を吹き込んでいく決意とが、
この作家名に宿っています。