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連載

〈札幌国際芸術祭2017〉は
もう始まっている!?
雪まつり会場をにぎわせた
『トット商店街』の秘密

ローカルアートレポート
vol.075|Page 3

posted:2017.3.16  from:北海道札幌市  genre:アート・デザイン・建築

sponsored by SIAF2017

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

credit

撮影:秋田英貴

Page 3

岸野雄一×クワクボリョウタによる『札幌ループライン』

自分のまちを見直すきっかけとなれば、岸野さんの想いは、
『トット商店街』のパフォーマンスの合間に、
雪像のテレビ画面に映し出された『札幌ループライン』にも通じている。
もともと岸野さんが、アーティストのクワクボリョウタさんの作品の
大ファンだったことがきっかになり、クワクボさんが技術協力として参加し、
今回のコラボレーションが実現した。

これまでクワクボさんは、『10番目の感傷(点・線・面)』といった
鉄道模型を使って影の風景を映し出す作品を制作していた。
影をつくり出すものは、床に置かれた日用品。
普段見慣れていたものに光を投影すると、
思いがけない形が浮かび上がってくるという作品だが、今回はこのアイデアに、
札幌の市電から見える現実の風景を組み合わせる試みが行われた。

『トット商店街』の雪像の脇の小屋に『札幌ループライン』が設置された。この映像が、雪像に投影されるしくみになっている。監修:岸野雄一、技術協力:クワクボリョウタ、音楽:海藻姉妹

「僕もクワクボさんも札幌の市電が大好きだったんです。
せっかくループ化されたのに、その記念的なことがあまりなされていないので、
みなさんに『ループ化ってとっても重要ですよ』という意味を込めて
やりたいとクワクボさんに言ったら、彼ものってくれました」

岸野さんは市電のなかでも、とくにループ化されている路線に愛着を感じるそうで、
世界各地の環状線をすべて制覇することを目指しているそう。

そんな岸野さんの並々ならぬ“市電愛”を感じる工夫が随所にあり、
例えばカーブを曲がる絶妙なタイミングで
ススキノ交差点にあるニッカウヰスキーの看板が現れたり、
以前は車窓から見えたという純喫茶〈声〉(2012年に閉店)の建物を
あえて加えたりなど、そのこだわりは細部にまでおよぶ。

「ただし、現実の市電の風景の再現ではないんですよ。
建物の位置関係はおおよそ合っているんですが、
市電に乗ったことを思い出しているかのような表現をしたいと思っていて、
それが独特な感じになっているんですね」

印象的だったのは、大友さんが雪まつり会場で、この作品を紹介するときに
「見ていたらなんだか泣けてきました」と語っていたことだ。
大友さんは多感な時期を福島で過ごしており、
札幌の市電に対する思い出は持ち合わせていない。
にもかかわらず、子どものときに見た原風景のような懐かしさが
こみあげてきたのだという。

札幌の市電のグッとくるポイントをたずねると「この市電は、一番最初の都市計画であった碁盤の目に沿ってつくられているんですが、そこからちょっとズレて円になっている部分があるんですよね。そこを通るときガタッと揺れるんですよ。そのときにまちづくりの成り立ちみたいなものが体感できるんです(笑)」と岸野さん。(写真提供:札幌国際芸術祭事務局)

幼少期の体験がないのにもかかわらず、不思議と懐かしい感覚を呼び起こす。
それは、『トット商店街』と『札幌ループライン』に共通するものではないだろうか。

筆者が『トット商店街』を見たとき、まわりには子どもたちがたくさん集まっていた。
目をキラキラさせながら、食い入るようにステージを見つめる子どもたちと
時間を共有しているうちに、
自分も幼少期にこんな体験をしたことがあったのではないか、
そんな感覚がわいてきたのだった(街頭テレビを見た体験などないのにもかかわらず)。

岸野さんは、この『トット商店街』をつくるときに、
「(1961年よりNHKで放映された)『夢であいましょう』という番組に、
もし影絵のコーナーがあったら、というイメージでつくっているんですよ」
とも語っていたのだが、この“懐かしさ”の正体は、
もしかしたら50~60年代に、テレビというメディアの可能性が
これから大きく広がっていく、未来へのワクワクした感じを、
もう一度人々に呼び起こすような体験を与えてくれたのかもしれない。

あるいは、「影絵を使ったのは、人々が洞窟や囲炉裏を囲んで暮らし、
火という光と影を使っていた時代に行われていた原初の表現だから」
という岸野さんの言葉から考えると、さらにもっとさかのぼり、
人間のDNAにインプットされた光と影に魅せられる感覚が刺激されたのかもしれない。

こうしたさまざまな意味がレイヤーのように重なり、
それを紐解くおもしろさが岸野さんの作品からは感じられた。

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