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連載

時代を超えるアートを通じて
「価値観をつくる」。
株式会社studio「仕組」後編

貝印 × colocal
これからの「つくる」
vol.008

posted:2014.6.10   from:東京都渋谷区  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。

editor profile

Tetra Tanizaki

谷崎テトラ

たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。http://www.kanatamusic.com/tetra/

photographer

Suzu(Fresco)

スズ

フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/

前編:伝統に培われた日本の職人の技術や芸術性を世界へ伝えるプラットホーム。株式会社studio「仕組」前編 はこちら

studio「仕組」の仕組み

studio「仕組」はアーティストや職人からなる組合。
さまざまな技術を持つ職人やアーティストが集まっている。
前回、職人の共同工房「studio u5」を訪ね、
伝統工芸の支援・プロデュースについて伺った。
今回はstudio「仕組」の仕組みについて
代表の河内晋平さんにお話を伺う。

「studio「仕組」は全員が作家であり、職人なんです。
職人やアーティストの目線で、クライアントと直接話し合ってプロジェクトを進める。
職人やアーティスト自身が中心となって事業を行っている会社です。
素材選択、企画立案、制作、展示会、販売までワンストップで行えるのが強みです」

現在、5つのプロジェクトが走っている。

1)美術品管理(美術品の保存、アーカイブ、展覧会企画、販売)

2)仕組ワークス(映像、グラフィック、デザイン、Web、空間デザイン、プロダクトなどの制作)

3)TUKURITE(アーティストや職人のつくり手とともに商品を研究開発)

4)ORIGAMI(伝統工芸の支援・プロデユース)

5)studio u5 (職人の共同工房)

アーティストや職人のつくり手たちとともに研究開発し、さまざまなもの・ことを提供する。
なによりもアーティストや職人であることを最大限生かしていくのだという。

「たとえば素材は、ホームセンターで買うよりも職人のルートで仕入れるほうが
希望に添っていたり、価格が安かったりする。
そういうつくり手の利点を生かすものづくりを提案しています」

そして時代を超えるアートを通じて「価値観をつくる」ことも
studio「仕組」の事業のひとつだ。

「折り紙つきという言葉があります。“信用できる価値がある”ということです。
“折り紙”というのは江戸時代に日本刀などの価値を証明するために
折った紙を付けたことに由来します。
例えば、本阿弥家が“これはいい刀だ”とすることで、あらたな価値が付与される。
それが“折り紙付き”という言葉なんです。
アーティストや職人の作品に
付与されるべき価値に光を当てようとやっているのが“ORIGAMIプロジェクト”なんですね」

現代においての「折り紙」をつける。
商品であるまえに、アーティストや職人の「作品」であること。
それがstudio「仕組」のこだわりでもある。

CHACONNEの木型

職人の共同工房「studio u5」の皮製品工房 CHACONNEの木型。

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時代を超えるアートコレクション

アートや工芸作品は一般の商品と違う独自の流通がある。

美術品管理や古い時代のポスターコレクションの管理も大きな仕事だ。

「もともと私は東京国立博物館で3年ほど働いていたんです。
列品管理課というところで文化財を管理する部署にいたのですが、
ときどき個人の方から、家の押し入れから掛け軸がでてきたとか、
絵画が出てきたといって相談をされることがあったんです。

その家族や個人的にとっては思い入れのあるものであっても、
今価値が認められている基準のものでないと、
博物館や美術館としては評価が難しく購入することなどできない。
寄託としても受けられない。
そういったものはどうしようもなく、
個人の方も保管しきれずそのうち廃棄してしまう」

河内さんは作家のひとりとして、そういった状況をなんとかしたいと考えた。

「自宅で保管するには場所が無い、しかも個人では管理が大変。
そういうものをしっかり預かってひとつでも後世に残せないかと」

《「今日のルボーク」社のポスター》

カジミール・マレーヴィチ/テキスト:ウラジーミル・マヤコフスキー 《「今日のルボーク」社のポスター》1914年 Kazimir Malevich, Text by Vladimir Mayakovsky Posters of Publisher “Segodnyashny lubok (Today’s Lubok)”/37.8×55.8cm なんという軋み、なんという轟音がウォムジャ付近のドイツ兵から聞こえることか! What Crack, What Thunder Roared from the Germans Beside Łomża! 

松本瑠樹氏のアートコレクション

河内さんが預かっている中で一番大きなコレクションが
メンズバツのデザイナーの松本瑠樹氏のアートコレクションだ。
studio「仕組」では、RukiMatsumotoCollectionの管理運営を行っている。

自らも絵筆をとった松本瑠樹氏は、目利きであり、アーティストでもあり、
そして、著名なポスター蒐集家である。
アールデコ、バウハウス、ロシア・アヴァンギャルドなどの
芸術運動を網羅したポスターコレクションは圧巻。
2013年には神奈川県立近代美術館にて
「松本瑠樹コレクション ユートピアを求めて
ポスターに見るロシア・アヴァンギャルドとソヴィエト・モダニズム展」が開催された。
2014年9月30日からは世田谷美術館にて巡回展が開催される。
ロシア・アヴァンギャルドとは、
19世紀末から、ソビエト連邦誕生時を経て1930年代初頭までの、
ロシア帝国・ソビエト連邦における芸術運動。
特にグラフィックの分野においてフォトモンタージュやタイポグラフィーなど、
前衛的手法が駆使され斬新なポスターがつくられている。

「社会革命は必然的に文化の激変を惹起する」という基本思想を信じて、
芸術の革命を崛起した。
その大胆な構図や色使いは、
その後のグラフィックアートに大きな影響を与えたとされる。

《我が国における社会主義の勝利が保証される 社会主義経済の基盤が完成される》

グスタフ・クルーツィス《我が国における社会主義の勝利が保証される 社会主義経済の基盤が完成される》1932年 Gustav Klutsis/Victory of Socialism in Our Country Is Guaranteed Foundation of Socialist Economy Is Completed

《偉大な労働計画を達成しよう》

ソビエト連邦の第一次五カ年計画と政治ポスター。グスタフ・クルーツィス《偉大な労働計画を達成しよう》 1930年 Gustav Klutsis/Let”s Fulfill the Plan of the Great Works 125.6×88.7cm

《赤い楔で白を打て》

ロシア・アヴァンギャルドを代表する作家のひとり、エリ・リシツキー《赤い楔で白を打て》1920年 El Lissitzky/Beat the Whites with the Red Wedge/51.4×61.7cm

アーカイブされたアートコレクション

都内某所に膨大なアートコレクションがアーカイブされている。

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時代が変われば、価値が変わる

「アカデミックな研究員や学芸員の想いと
アーティストや職人のつくり手側の想いを融合できるところが弊社の強みですね」

と河内さん。

「もともと東京芸大では工芸科の漆芸専攻というところで
漆を塗る勉強をしていたんです。
しかし、アーティストや職人として今後活動していくためというより、
表現を学びたくて、
大学院では映像研究科メディア映像専攻というところで
いわゆるメディアアートやメディアデザインの勉強をしたんです」

アーティストや職人の目線を基軸としながら、
メディアのあり方や伝えるということ、
そんな企画やキュレーションを手がけてきた。

「いまの市場価値では評価がされにくいものでも、時代が変わればまた違う。
人類全体で後世に伝え残していきたい」

時代を超えるアートを通じて「価値観をつくる」。
河内さんは、そんな「仕組」を考えたいという。

河内晋平さん

studio「仕組」代表の河内晋平さん。

information

map

株式会社studio「仕組」

Web:http://www.studio-shikumi.jp/

RukiMatsumotoCollectionとは、1980年代から90年代にかけて若者の間でブームを巻き起こしたDCブランドのひとつ「BA-TSU」。その創業者でデザイナーの松本瑠樹は世界的なポスター蒐集家としても知られ、アールデコ、バウハウス、ロシア・アヴァンギャルドなどの芸術運動を網羅したポスターコレクションは多岐に渡る。studio「仕組」では、RukiMatsumotoCollectionの管理運営を行っている。研究や調査、ポスター展覧会企画、資料の貸出に関するご連絡は、株式会社studio「仕組」まで。

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