料理家・細川亜衣
外から来たからこそ気づく
熊本の“特別なもの”を大切にしたい

人も植物も動物も、同じ立場で生きている

結婚を機に、生まれ育った東京から熊本へと移住し、
住まいのある泰勝寺を拠点に
料理教室や料理会などを行っている料理家の細川亜衣さん。

泰勝寺は、肥後国熊本藩主・細川家の菩提寺として
江戸時代初期に創建された寺院で、今はお寺としての機能はなく、
「泰勝寺跡」として知られる。
細川さんが暮らしている家は、その泰勝寺の元僧坊。
料理教室などを行っているアトリエ〈taishoji〉は、寺の待ち合い所だった建物で
住まいは2013年に、〈taishoji〉の厨房と食堂は16年に、
古い建物を生かしながら改装した。

〈taishoji〉の食堂から見た庭

〈taishoji〉の食堂からも庭の緑が見通せる。

熊本に暮らして12年。料理を通してこの地の魅力を
県内外に発信する活動も行ってきた細川さんだが、
「移住するまで、熊本のことは何も知らず、
暮らしながらこの場所のことを知り、惹かれていった」のだという。
細川さんが最初に好きになったのは、ここ泰勝寺の自然だ。

「引っ越してきて一番感動したのは、
庭でとれるものの豊かさでした」

庭のスダチは移住してすぐ植えたもの。

夏の終わりに収穫の時期を迎えるスダチ。移住してすぐ庭の一角に植えた果樹のひとつ。

庭の緑は、深く、濃い。
瑞々しい苔の新芽から桜の老木まで、いくつもの命と時間が折り重なり、
その深く濃い緑のグラデーションをつくっている。
自宅の周りには、昔からある梅の木や栗の木、
住み始めてから植えたスモモやスダチなど、たくさんの果樹があり、
季節ごとに実をつける。

雨上がりの泰勝寺の敷地内

泰勝寺の敷地内。雨のあとには、緑が一層濃く感じる。

「梅雨入り前は梅、梅雨が明けたらスモモやブルーベリー……
庭なので、人工的なものではあるのですが、
若葉が芽吹き、花が咲き実をつけ、枯れてまた芽吹くという
自然のサイクルに励まされることもあります」

豊かな実りを享受し、庭で長い時間を過ごすうち、細川さんのなかに
人も植物も、そして動物も、この場所を借りて生きている
同じ立場の存在なんだ、という意識が強く芽生えたという。

「庭の木々は、私よりもずっと長生きで、
その長さに比べれば、私はほんのいっとき、
ここにいさせてもらっているだけなんですよね。
庭には、猪や猿や野ウサギもいたりして、
そのへんを歩いている動物に会うと、
お互い、この土地を借りて暮らしていることに
変わりはないんだよな、と思うんです。
みんなが同じ立場で共存している。
そういう気持ちを抱かせてくれることが、
ここを心地よいと思う一番の理由かもしれません」

writer profile

岡野 民 Tami Okano
おかの・たみ●編集者、ライター。北海道生まれ。北海道と東京育ち。建築やインテリア、暮らしまわりのデザインを主に扱う。ライフワークは住宅取材。家と住み手の物語をたどること。酒が飲めない代わりに、世界各国のお茶でひと息つくのが日々の潤い。

photographer profile

白木 世志一 Yoshikazu Shiraki
しらき・よしかず●商業スチルカメラマン。大学で写真を学んだ後、ローカル雑誌の編集を経て、2007年よりフリーランス、現在に至る。熊本県熊本市育ち。https://yoshikazushiraki.com/

Recommend 注目のコンテンツ

Special 関連サイト

What's New 最新記事