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前橋 Part3
捨てるって、どういうことだろう?

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.067

posted:2013.6.21   from:群馬県前橋市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:ただ(ゆかい)

今回、山崎さんが注目したのは、産業廃棄物にあたらしい命を吹き込む
「モノ:ファクトリー」を展開している株式会社ナカダイ。
1日約50トンも運び込まれる廃棄物を「素材」さらに、「ソーシャルマテリアル」
と言い換えてみれば、リサイクルのあたらしい方法だけでなく、
これからのわたしたちの生き方までもが見えてきそうです。
そんな “リマーケティングビジネス” の仕掛人とも言える、中台澄之さんを訪ねました。

その場所に身をおいてみてはじめてわかること。

山崎

廃棄工場に来るというので、素人考えでなんとなく、
ある「ニオイ」のようなものを覚悟していたのですが……
ここはむしろ、工場全体がいい香りに包まれてますよね。

中台

いい香りでしょ? みなさんがよく知っている高級シャンプーの香りです(笑)。

山崎

シャンプー??

中台

うちで仕分けするのに大きさがちょうどいいから重宝している
四角いコンテナみたいなの、これ自体が廃棄物なんですよ。
シャンプーのタンク。海外のメーカーからこのタンク単位でやってきて、
本来は日本でボトルなどのパッケージに詰められて
商品として世に送り出されるはずだったものが、
しばらく倉庫に眠ったまま開封されることなく
何らかの理由で廃棄されて、うちに来るわけです。

山崎

在庫として抱えて高い倉庫代を支払うよりも、
廃棄したほうが安くつく、そういうパターンですね。
出版社の書籍なんかも、ある程度年数が経つと
そうやって廃棄処分されるって聞いたことがあります。

中台

ここへ来なくちゃわからないことってあるんです。ニオイも音も。
身を置いてみなくちゃわからない、「知らない環境」だから。
北海道の雪山や、沖縄の海と同じ。

山崎

ぼくもいま、それをまさに実感してます。

中台

何かをつくる工場、ものづくりの現場、つまり動脈側は
みなさんどこかで見たことがあると思うんです。
一方で静脈側はというと、一元的、効率的に処理をする
公共の巨大廃棄処理場くらいしか見ない。
だけど、きわめて一元的、合理的だから
「ああ、こうなってるんだ」「すごいね」で終わってしまう。
果たして、それでいいのかなって。

山崎

うーん……。

中台

でも、ここでは、「捨てるって、なんですか?」って問いかけたいんです。
それってどういうことだろう、って。

コンテナ代わりに使っている四角い容器

いい香りの原因は、コンテナ代わりに使っているこの四角い容器にあり。

ゴミは、格好のコミュニケーションツール!

山崎

ゴミ箱に捨てた=「捨てた」ことになるのか? って。
たしかに、ここに来たら「そうじゃない」ってことを改めて考えてみたくなります。

中台

うちで中間処理場としてやってる「分別」や「解体」「処理」って、
そう表現するとなんだか小難しいですが、蛍光灯を割りまくる! とか、
セラミックを壁に叩き付ける! とか、そんな作業なんです。
僕らがやれば一瞬で終わってしまいますが、
これを見学・体験に来た方にやってもらう。

山崎

ほかでやったら絶対怒られる類いのことばっかりだ(笑)。

中台

OLさんなんかは、ストレス発散になるって喜んでたりする(笑)。

山崎

たしかに!

中台

感じることは、なんだっていいんです。
でも、「壊す」行為を通して、廃棄物の山の間に身を置いて、
なにかを感じて、学び取ってほしいと思うんです。
そうすると、僕たちが何も言わなくても
「どうしてこんなにゴミが出たのか」
「これを使ってなにができるか」……
参加者の間から、自然とコミュニケーションが生まれる。

山崎

なるほど!

中台

捨てる側の企業とうちの関係もまた同じ。
ゴミを出すことをネガティブにとらえて、隠して燃やしちゃうより、
「こんなに出ちゃったゴミ」について一緒に考える
コミュニケーションを大事にしたい。

山崎

ゴミが、自然なコミュニケーションを生む環境をつくってくれるんですね。
興味深いなあ。

中台

あらかじめ正解の用意されていないことを考える。
これって、「冷蔵庫の残り物でなにを作るか」に似ていると思うんです。
誰かから見たら一貫性のない「残りもの」でしかないけれど、
ほかの誰かに託してみると、その素材がメチャクチャ旨い料理になる。
たしかに見た目は少々悪いかもしれないけれど、
オリジナリティがあって、ちゃんとおいしい。
そのクオリティの高さと、あらかじめ「何を何グラム」と
きっちり用意して作ることと、どっちがいいなんて、
いちがいに言えない時代なんじゃないかなって。

山崎

ブリコラージュが器用仕事って訳されるけど、
あれって「ありあわせ」ってことなのかもしれない。
そういった、ありあわせ料理的な感性が、
これまで日本の教育では大切にされてこなかったのかもしれませんね。

中台

そう感じています。
規格の素材を与えられて上手に作るということはやってきたけれど、
そこにまず環境がバーンとあってそれに対応するという応用力は
教育されてこなかった。
今回の東日本大震災でも、そのことを痛感せざるを得ません。

山崎

ぼくたちがやっているコミュニティデザインも、完全に「ありあわせ」でしかない。
毎回、現地へ入って、まず冷蔵庫を開けてみないと始まらない。
あらかじめ完成形を描いて一流の専門家をずらりと集めて
やるわけじゃないですからね。

中台

まったくおなじですね。

山崎

島にいる漁師さん、農家のおばあちゃん、廃屋……さてこれで何ができる? 
さらに、素材のよさを最大限に引き出すにはどうしたらいい? 
という順序で考えていくわけですから。
いや、ひとを人参や卵に例えるのは、大変失礼なんですけれどもね(笑)。

(……to be continued!)

基盤の廃棄物

生産や流通の過程で、さまざまな事情があって大量に廃棄されるモノたち。溶かしてリサイクルする以外に、なにか方法はないか?と考える。

工場で働く社員には、若い女性の姿も多い

工場で働く社員には、若い女性の姿も多い。ユンボや重機の操作もお手のもの。

蛍光灯は、専用の機械に差し込むようにして粉砕

蛍光灯は、専用の機械に差し込むようにして粉砕する。この作業も工場ツアーで体験させている。「壊す体験って、滅多にないでしょう。そこからなにかを感じてもらえたら」とナカダイさん。

information

map

株式会社ナカダイ

再生資源、中間処理、廃棄物コンサルティングなどを行う会社。中間処理場である前橋支店での取扱量は1000t/月程度で、リサイクル率は95%を超える。粕川工場では、リユースを目的とした中古家具をオークションする市場、“MRC(マテリアル・リバース・センター)”を運営、その他、工場やオフィスビルの管理や廃棄物削減などのコンサルティングなども行う。2010年より、新しいモノの流れと産業を創る“リマーケティングビジネス”を展開。前橋支店内に、“発想はモノから生まれる”をコンセプトにした、「モノ:ファクトリー」を併設し、様々な“マテリアル”を発見できる「マテリアルライブラリー」、そこから生まれた商品や作品などを販売する「ストア」、ワークショップのできる「工房」を整備。工場見学やリサイクル体験プログラムなども随時受け付けている。

ナカダイ前橋支店

住所:群馬県前橋市駒形町1326

TEL:027-266-5103

Web:http://monofactory.nakadai.co.jp/

profile

SUMIYUKI NAKADAI 
中台澄之

1972年生まれ。ビジネスアーティスト/株式会社ナカダイ前橋支店支店長/モノ:ファクトリー代表。東京理科大学理学部卒業、証券会社勤務を経て、ナカダイに入社。ISO14001の認証取得や中古品オークションを行う市場の立ち上げなど、総合リサイクル業として事業を拡大。“リマーケティングビジネス”を考案し、“発想はモノから生まれる”をコンセプトに、モノ:ファクトリーを創設。使い方を創造し、捨て方をデザインするビジネスアーティストとして、さまざまな研修やイベントなどの企画、運営を行っている。

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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