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港区芝 Part4
「東京だけど、ローカル。」

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.051

posted:2013.2.4  from:東京都港区芝  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:川瀬一絵(ゆかい)

東京都港区芝。東京タワーのすぐそば、大都市の真ん中に、地域コミュニティの拠点
「芝の家」はあります。山崎さんが訪れたのは、大学の講師でありながら、
このプロジェクトのコーディネイターを務める坂倉杏介さん。
今回は、都市ならではのコミュニティ形成の方法、そして東京というローカルに注目します。

芝の家の、その先にあるものは。

坂倉

港区に芝の家が一軒だけあっても効果には限界があると思っていて、
再来年、区の事業で新橋にも別のかたちでつくることになっています。

山崎

ほぉう。

坂倉

芝の家をはじめてみてわかったことは、空間があるかないかではなく、
それを運営する「ひと」がそういう場をつくれるかどうかなんですよね。

山崎

そりゃあそうですよ。まちがいない(笑)。
空間の政治学があるとはいえ、
ぼく自身がそれを設計していてそこに限界を感じた人間だから、
すごくよくわかります。必要条件だけど十分条件じゃない。
マネージングをだれがするの、ということがすごく大きい。
たとえば、坂倉さんがしゃべったこと、やってきたことを誰かが綿密に記録して、
新橋で、あるいはほかの場所でほかのだれかがそのマニュアルを実行しても、
全然別のものになると思います。

坂倉

そうですね。よかったなと思うのは、一緒にやってきて、
区役所のひとがそのことを理解してくださったということです。

山崎

とても重要なことでしたよね。

坂倉

そこで、準備のひとつとして「ご近所イノベータ養成講座」(*1)
試験的に開講します。地域づくりのための場に加えて、
「やりたいひと」を支える仕組みをつくろうという取り組みです。

山崎

いいですね。地に足がついているのが伝わります。

坂倉

山崎さんが関わっていらっしゃる海士町で、
まちづくりプロジェクトの「ひとチーム」から
「あまマーレ」という場ができた順序と、逆ですね(笑)。

山崎

おもしろいですね。

坂倉

芝って、3万4千人の地区なんです。
このくらいのちいさい活動を続けて行くと、
ほんとうに変わっていく可能性がある規模なんじゃないかなって。

山崎

東京だけど、ローカルなんですよね。

坂倉

たとえば、地方から遊びにきた方に、
「東京のひとって思ったよりいいひとだったよ」とか、
「むしろ地元よりローカルだったよ」なんて言ってもらえたらうれしい(笑)。

*1 ご近所イノベータ養成講座:ご近所イノベータとは、自分の想いを実現しながら、地域生活に豊かさと幸せを生み出す次世代のまちの担い手のこと。講座とワークショップ、プロジェクトの実践や「芝の家」でのコミュニティ体験を通して「自分のやりたいことをまちにつなげる」技法も学ぶ、少人数生の実践講座。2013年2月27日に説明会開催。開校は6月予定。http://gokinjo-i.jp/

「芝の家」事業の紹介冊子

芝の家の取り組みは、港区の委託事業。「ただ見守る、という企画を通すのは大変だったでしょう」と山崎さん。坂倉さんたちは、事例や効果を、できるだけ数字にしたり記録したり、目に見えるようにすることに注力したという。

お知らせが書かれた黒板

ちいさな地区でちいさな活動を続けていくことで、可能性が生まれていく。

それでもよかったんだ、という記憶がよみがえる場所。

山崎

マズローの「欲求階層論」(*2)でいうと、
この大都会で居場所を求めて芝の家に来るひとたちの契機って、
その多くは「欠乏欲求」だと思うんです。
そして、ここに通ううちに「なにかをはじめよう」という気分になり、
「成長欲求」に移行していく場なんだな、と。
一方、ぼくらの活動に関わろうとするひとたちのほとんどは、
そもそも自己実現や承認を求める「成長欲求」から入ってくる。
つまり「やりたいひと」ばかりが集まってくる。
ここが、ぼくらがやってることと、
坂倉さんたちがやっていることの役割の違いかな、と思いました。

坂倉

なにもなかったところに火種をつくって発火させようとすると、
「じつは地域のためになにかやりたかった」というひとが集まってくる。
おそらくほとんどの地域ではそれが正しいと思うんですよね。
でも、都心部では、「なにかやりたい」とひとがやって来ても、
すぐにはできないんです。

山崎

というと?

坂倉

その場所に愛着もないしネットワークもないひとが、
「やりたいこと」だけをやろうとしてもやっぱり難しいんです。
しばらくなにもしないでここにいて、愛着や帰属意識が芽生えてから
はじめて十全に「やりたいこと」をはじめられる。
そのために、まずじっくりじぶんと向き合う、損得なくひとと関われる、
芝の家のような場がある、東京というまちではそれが新鮮なんです。

山崎

坂倉さん、ご出身はどちらですか?

坂倉

名古屋生まれですけれど、ほとんどずっと東京です。
世田谷区なんですが、祖父母も一緒に住んでいたからか、
なにかにつけて親戚や近所のひとの出入りが多い家ではありましたね。

山崎

ぼくが幼いころに通った父の実家も、西荻でしたけれど、そんな感じでしたね。
ついつい「東京=六本木ヒルズ!」みたいなイメージを抱きますけど(笑)、
そうじゃない日常もちゃんとあった。

坂倉

そういうことが、ぼくらがこどものころ、
すなわち70年代くらいまではある程度のこっていました。
しかも、地縁の息苦しさは経験しすぎていない。
だからできるのかもしれませんね(笑)。
ご近所づきあいの記憶がまったくないひとが、
それをやろうと思っても急にはできないんです。
だから、記憶がある世代はそれをよみがえらせ、
記憶がない世代には「そういうつきあいも、アリだったんだ」という
まったく新鮮な発見がある。
そんな、あたらしいコミュニティづくりができたらいいな、と思っています。

*2 アブラハム・マズローの欲求階層論:人間の欲求は、「生理的欲求」「安全への欲求」「社会的欲求」「自我欲求」「自己実現欲求」の低次元から高次元までの5つの階層をなしていて、低次元の欲求が満たされてはじめて、高次元の欲求へと移行するという説。生理的欲求や安全への欲求を「欠乏欲求」と呼び、自己実現を求める欲求は「成長欲求」と呼んだ。

駄菓子コーナー

近所づきあいもあった、70年代の東京が原風景としてある。そこから、あたらしいコミュニティづくりが始まる。

坂倉杏介さんと山崎亮さん。縁側で対談中

「東京もローカルだったよ、なんて言ってもらえたらうれしい」(坂倉) 「ここに通ううちに、なにかをはじめようという気分になっていく場なんでしょうね」(山崎)

information

map

芝の家

住所:東京都港区芝3-26-10

TEL:03-3453-0474

営業時間

コミュニティ喫茶「月火木」:月・火・木曜 11:00~16:00

駄菓子と昔あそびのオープンスペース:水・金・土曜 13:00〜18:00

定休日:日曜・祝日

Web:http://www.shibanoie.net/about/

profile

KYOSUKE SAKAKURA 
坂倉杏介

慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所特任講師、三田の家LLP代表、NPO法人エイブル・アート・ジャパン理事。2003年、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。地域コミュニティの形成過程やワークショップの体験デザインを、個人とコミュニティの成長における「場」の働きに注目して研究。キャンパス外の新たな学び場「三田の家」、地域コミュニティの拠点「芝の家」の運営を軸に、「横浜トリエンナーレ2005」、「Ars Electronica 2011」など美術展への参加、大学内外での教育活動を通じて、自己や他者への感受性・関係性をひらく場づくりを実践中。
共著に『黒板とワイン―もう一つの学び場「三田の家」』、『メディア・リテラシー入門―視覚表現のためのレッスン』(慶應義塾大学出版会)、『いきるためのメディア―知覚・環境・社会の改編に向けて』(春秋社)など。

Web:http://kyosuke.inter-c.org/

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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