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港区芝 Part3
「あなたがここにいても、
いいんですよ。」

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.050

posted:2013.1.26   from:東京都港区芝  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:川瀬一絵(ゆかい)

東京都港区芝。東京タワーのすぐそば、大都市の真ん中に、地域コミュニティの拠点
「芝の家」はあります。山崎さんが訪れたのは、大学の講師でありながら、
このプロジェクトのコーディネイターを務める坂倉杏介さん。
今回は、都市ならではのコミュニティ形成の方法、そして東京というローカルに注目します。

受け入れる、という関わり方。

山崎

この場を設けて、まずはだれが訪れるようになるんですか?

坂倉

はじめの半年は、水・金・土曜だけのオープンで、
こどもたちがたくさん来てくれました。
でも、それではおとながくつろげないなあ、というので、
当初開いてなかった曜日をカフェの日に設定したんです。

山崎

なるほど。

坂倉

だれがなにをしても止めないんですけれど、同時に、
そのひとが「ここにいてもいいですよ」ということを伝える工夫は
やっぱりちゃんとしなくちゃならない。
往々にして空間のデザインというのは、
無意識に「こうしなさい」ということを伝えてしまうでしょう? 
たとえば、喫茶店ではメニューをオーダーしましょう、
教室だったら教壇に立つ先生のはなしを聞きましょう、というように。
まちづくりのプロジェクトだと、まちづくりに関わりたいひとはいてもいいけれど、
お役に立てないひと、関心のないひとには居心地が悪いんじゃないかな、と。
かといって、貼紙に「だれでもどうぞ」と書いてあっても、
それがじぶんごとだと思えるひとなんて、ほとんどいないですよね。

山崎

それをどう乗り越えるか、と。

坂倉

そこでぼくらがやっているのは、ごくあたりまえなことですけれど、
ちゃんとあいさつするとか、そのひとのようすにあわせて、
そのひとが居やすいように案内してあげるとかいうことなんです。
こんな風に大勢でたのしそうにしていると
スッと入っていきやすいだろうというのは実は逆で、
みんなが盛り上がってるからこそ、
そこに入れなかったときの疎外感は何倍も大きい。

山崎

たしかに……。

坂倉

はじめて「あそこへ行ってみよう」と勇気を出して扉を開けてくださった日に、
そんなことがあると、二度と来てもらえないと思うんですよね。
だから、「あなたがここにいても、いいんですよ」という想いが中心にあって、
そこから縁側や玄関のつくりが生まれた、という感じです。

山崎

先ほどから見ていても、縁側がとてもいい役割を果たしていますよね。

坂倉

縁側、ほんと強力です(笑)。

「芝の家」の縁側スペース

外には「ご自由にお持ちください」のコーナーが。通りかかった近所の方が、そこにあった日本人形に興味を示して声をかけていた。

犬の散歩で通りかかった人が縁側からのぞく

犬の散歩で通りかかった人も。縁側が、中と外をつなぐ。

毎日の振り返りが、次第に場にしみこんで。

山崎

ほかに気をつけていることはありますか?

坂倉

スタッフのあり方がいちばんむずかしいですね。
訪れてくださる多様な方々と、どう向き合えばいいのか。
1日5時間オープンしているんですが、朝と終わりに必ずミーティングをします。
とくに朝のミーティングでは気持ちと体調を伝え合うようにしています。

山崎

それは……?

坂倉

スタッフがまず、お互いにそれぞれの弱みをさらけ出す/それを受け入れ認める
という関係性を築いておくと、ひとりめに入ってきた方が、
やっぱりどこか安心するんじゃないかなって思うんです。
人間て、センサーでは計れない気配みたいなものをちゃんと感じ取りますからね。

山崎

たしかに、ドアを開けた途端
「あれ、いまここ、ヤバい?」みたいなことってありますね(笑)。

坂倉

終了後のミーティングは、最大1時間半。
はじめのうちは3時間近くになったこともあるんですが、
あまり長いと、かえってダメージになりますから(笑)。

山崎

長くなるの、わかります。細かいことがいろいろあるんですよね。

坂倉

そうですね。結果なにも起こらなかったけど、
こどもが危なっかしくてハラハラしたとか、
おばあさんが帰り際になんだかさびしそうな顔をしていたとか、
ひとひとつはちいさくても、1日のうちに
ものすごくさまざまな感情に向き合うわけですから。
そういう気持ちを含め、「今日1日どうだったか」を振り返ります。
いまでは、その毎日の振り返りの雰囲気が、この空間に定着している気がします。

山崎

それって、議事録は残したりしない?

坂倉

はい。

山崎

日々、別の組み合わせのスタッフが、時に時差もありながら
いつか同じことを理解したり、解決したりしていく。
それでいいんだと思います。

坂倉

ええ。完全な正解があるというモノではないですからね。

(……to be continued!)

山崎亮さん

「だれでもどうぞ、の壁をどう乗り越えるか、ですね」(山崎)

坂倉杏介さん

「ミーティングをしながら、今日1日がどうだったかを振り返る。その雰囲気がこの空間に定着している気がします」(坂倉)

information

map

芝の家

住所:東京都港区芝3-26-10

TEL:03-3453-0474

営業時間

コミュニティ喫茶「月火木」:月・火・木曜 11:00~16:00

駄菓子と昔あそびのオープンスペース:水・金・土曜 13:00〜18:00

定休日:日曜・祝日

Web:http://www.shibanoie.net/about/

profile

KYOSUKE SAKAKURA 
坂倉杏介

慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所特任講師、三田の家LLP代表、NPO法人エイブル・アート・ジャパン理事。2003年、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。地域コミュニティの形成過程やワークショップの体験デザインを、個人とコミュニティの成長における「場」の働きに注目して研究。キャンパス外の新たな学び場「三田の家」、地域コミュニティの拠点「芝の家」の運営を軸に、「横浜トリエンナーレ2005」、「Ars Electronica 2011」など美術展への参加、大学内外での教育活動を通じて、自己や他者への感受性・関係性をひらく場づくりを実践中。
共著に『黒板とワイン―もう一つの学び場「三田の家」』、『メディア・リテラシー入門―視覚表現のためのレッスン』(慶應義塾大学出版会)、『いきるためのメディア―知覚・環境・社会の改編に向けて』(春秋社)など。

Web:http://kyosuke.inter-c.org/

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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