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大崎上島 Part4
この島に永住するかと聞かれたら。

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.047

posted:2012.12.27   from:広島県大崎上島  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:内藤貞保

山崎さんがワークショップのために何度か足を運んでいる瀬戸内海の大崎上島。
人口約8,300人のこの島に、築80年の古民家を購入してIターン移住した女性がいます。
カフェ&ショップを営みながら、自分らしく生活をアレンジして
島の暮らしをたのしむ森ルイさんに、そのいきさつや今の暮らしぶりをうかがいます。

島に、ひとや空気の流れをつくりたい。

山崎

「ルイの家」に宿泊するWWOOFER(ウーファー *1)を受け入れているのも、
ユニークだなあって感じます。

そうですね。販売する雑貨類もカフェメニューも、ひとも、
島にないものが入ってきて入れ替わるような、空気の流れをつくりたいんです。

山崎

なるほど。いつも違う顔ぶれがカフェにいるとなると、
島のお客さんにとってもいいはなし相手になりますね。
同じ自慢ばなしが何回もできる(笑)。

島のひとたちとコミュニケーションができることは、
WWOOFERにとってもとてもいいことだし、わたしも外からの刺激がうれしいし。
島にいながら旅をしている気分が味わえます。

山崎

一度に何人ぐらい受け入れるんですか?

泊まれる部屋はいくつもあるのですが、車での移動をケアしないといけないので、
一度に3人までと決めています。
台湾、フランスからの訪問が多いですね。滞在は、だいたいひとり1~2週間。
これまでにすでに80人以上を受け入れてます。

山崎

WWOOFER以外に、島外からの来客は予想通り2割くらい?

帰省シーズンには、少し増えますね。プチ同窓会に使ってもらえたりとか。

山崎

そういうひとたちには、ものすごくうれしい場所なんだろうなあ。
キッズスペースまであるし。

島外に暮らす子どもたちに教えてもらって、
やっと島のおとうさん、おかあさんが来てくださるというケースもあります。

山崎

気になってもじぶんだちだけではなかなか足を運べない、という方も多そうですね。
島の高校生たちは?

思ったほど来ないですね。リクエストに応えて、学割制度をつくったら、
やっと何人か来てくれるようになりましたけど(笑)。

山崎

あ、いいですね。そういうの。

*1 WWOOFER:WWOOF(ウーフ)とは、「食事・宿泊場所」と「力」を交換する仕組みで、World Wide Opportunities on Organic Farms の頭文字。地に足のついた生活を営み、温かな気持ちをもって「食事・宿泊場所」を提供する側をホスト、ホストを助け何らかの「力」を提供する側をウーファーという。

森さんが現在、月1円で借りている旧家

森さんが現在、月1円で借りている旧家。「ルイの家」とは真逆で、すいぶん手入れをしなければ暮らせない状態。「リノベーションスクールができそうだね!」と山崎さん。「ぜひ、やってください!(笑)」

月1円の借家の外観

「物件はたくさんあるんですけど、よく見て、じぶんなりにしっかり選んで決めています」と森さん。月1円の借家の外観はこんな感じ。島には、ゼロ円の家もあるという。

夏祭りのための和舟「櫂伝馬(かいでんま)」

瀬戸内海の文化遺産ともいわれる、夏祭りのための和舟「櫂伝馬(かいでんま)」。神事として今でも漕ぎ手は男性のみと決められているが、今年の夏祭のひとつには女子の櫂伝馬があり、森さんも漕ぎ手として参加したのだそう。

できればずっと「移住者」でいたいと今は思う。

若い世代にこそ、ここで、島の日常生活にないモノに触れてほしいんですけどね。
その子が一度進学や就職で島外に出ても、
将来10年後くらいにUターンしてくれたりしたら、
ちょっとうれしいじゃないですか。
Uターンを呼び込むのは、わたしの役割ではないかもしれませんけれど。

山崎

じゅうぶん、そういうきっかけにはなっていると思いますよ。

島外でブログを読んでる方たちから
「ありがとう」「懐かしい」とコメントもらったりすると、うれしいですけどね。
むしろIターンを呼び込みたい。

山崎

Iターンのほうがいろいろとむずかしいですしね。

「ずっとこの島にいるかどうか」って聞かれて、
「それは、わかんないですね」なんて答えると、なんだか誤解されちゃったりして。

山崎

正直ですね(笑)。

毎日ブログを更新して、自称・大崎上島観光大使と名乗っているくらいですから、
島のことは好きなんです。
でも、愛しているから生涯をこの地に捧げる、とはいまは言えません。
神に誓った結婚だって、3年半だったのに(笑)。正直すぎますか?

山崎

そのくらいの心持ちがちょうどいいのかもしれませんよ。
「島のために生きる」というような強い思いをもつタイプのほうが、
意外とポキッと折れやすいんです。
一方で、周りから「移住してきたからにはずっといるよね」と言われるのは、
実は相当なプレッシャーになるんだということも耳にします。

重いですね。

山崎

Iターン者を受け入れて先進的なまちづくりをしていることで知られる
島根県の海士町では、すでに町長が率先して「それは言うな」とまで言ってます。
2年でも3年でも海士町に暮らしてくれたらそれでいい、
外で「あのとき、たのしかった」と言ってもらえたらそれでいいだろうって。

ほんとうに。「Iターンしばり」をなくしたいですね(笑)。
お役所で「定住」「永住」とか言われると、すごく重く感じるんです。
わたしは、島に暮らしているけれど、
どうしたって「島人」にはなれないんですから。

山崎

たとえば、原宿や渋谷のカフェなんて、
2~3年でつぶれて入れ変わるのがあたり前です。
でも、それに比べたら、移住者による中山間離島地域のカフェは、
ぼくの知る限りおおむねもっと長く続いていますよ。
固定費が少なくて済むとか、島じゅう、あるいは近隣の島まで噂になって、
お客さんが来てくれるとか、さまざまな要因があると思うけれど、
渋谷あたりよりもずっと持続可能性が高いと感じています。

そんなカフェを営みながら、移住者のまま長くいる、
移住者のまま島とつながるということもできると思うんです。

山崎

これからの森さんの生き方も、たのしみですね。

森ルイさん

オープンマインドをもち、正直さを心がけているという森さん。「でも、そのために誤解されることも多いですよ」と本音もちらり。

山崎亮さん

森さんのはなしを聞きながら、終始「たのもしいひとなあ」と感心しきりの山崎さん。

information

map

antenna

住所:広島県豊田郡大崎上島町中野1841-12

TEL:090-2906-0930

営業時間:13:00~19:00

営業日:木曜~日曜と祝日のみ営業

Web:http://www.osaki-kamijima.jp/antenna/

profile

LOUIS MORI 
森 ルイ

1978年東京生まれ。警視庁警察官として女性白バイ隊員やロシア語通訳などの勤務を経た後、2010年ブライダルコーディネーターへの転職を目指し退職。その後の離婚を機に瀬戸内海の大崎上島に築80年の古民家を購入してIターン移住。カフェ&ショップ『antenna』オーナー、クラシックバレエ教室主宰。WWOOF(ウーフ)ジャパンホストとして世界中の人々と島暮らしをシェア。自称・大崎上島観光親善大使。

Web:http://blog.livedoor.jp/morilouis/

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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