連載
posted:2012.12.23 from:広島県大崎上島 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。
writer profile
Maki Takahashi
高橋マキ
たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/
credit
撮影:内藤貞保
山崎さんがワークショップのために何度か足を運んでいる瀬戸内海の大崎上島。
人口約8,300人のこの島に、築80年の古民家を購入してIターン移住した女性がいます。
カフェ&ショップを営みながら、自分らしく生活をアレンジして
島の暮らしをたのしむ森ルイさんに、そのいきさつや今の暮らしぶりをうかがいます。
山崎
島に暮らすようになったいきさつを含め、
森さんの場合、Iターン者の中でもかなり特殊なケースですね。
森
もともと、島に暮らしたかったわけでも、
カフェをやりたかったわけでもないですからね。
ただ、移住してきたらそこに閉まった店があった、と。
「そこに山があるから山に登る」みたいなことなんです。
島でできること、思いつくことは、まだほかにもあるんです。
山崎
ほぅ。
森
じぶんにしかできないことをやりたいんです。
東京で生まれ育って、海外も見てきたわたしだからできること。
だからわたしの場合は、島暮らし=農業じゃなかった。
でも、農業に携わるひとをつなぐようなことはやってみたいと考えています。
たとえば、ファーマーズマーケットだとか。
山崎
いいですね。ここなら、いい雰囲気でできそうです。
森
でもひとりでやると負荷が大きいかなと思って、
いちど役場にかけあってみたこともあるんですけど、
ちょっとどうにもなりそうになくて。
まぁいいや、そのうちじぶんでやろう。って(笑)。
山崎
たのもしいなあ。
森
島のひとのなかには、前の店のイメージが強くて、
「漬け物は置いてくれないのか」とか「商品が減った」とか
「毎日開いてない」とかいろいろ言うひともいます。
でも、「アンテナショップ」と名乗ってはいますが、
うちは行政の助成や支援を受けている事業じゃないし、
わたしひとりでできることは限られています。
うわさは気にしてもキリがないし、みんなから好かれようとしてもムリ。
慣れるまでは大変だけど、そういうことをじぶんで割り切れるようになると、
少し気持ちが楽になりますね。
山崎
とはいえ、そういうことに直面するとやはり時々、
息がつまるようなこともありますか?
森
そういうときは、すぐそこにある自然に触れて、スッキリ気分転換です。
これは東京にはない、よさですね(笑)。
山崎
カフェにはどんなメニューがあるんですか?
森
午後1時からの開店で、フードは定番のフレンチトーストと
イタリアンサンドとアメリカンワッフル。
イタリアの生ハムやうちの庭で育てたルッコラなど西洋の食材と、
島のパンやジャムなどをミックスして使っています。
外国の要素と島の要素をミックスしたものにしたいんです。
山崎
この店全体のテーマがそんなイメージですね。
森
まだまだ観光地として特別有名なわけでもないので、
島のおみやげ販売だけではむずかしい。
ビジネスの勉強をしたわけではないですが、はじめのうち、
お客さんの8割は島のひとかなって考えていました。
あとは、経歴も変わってるからメディアがおもしろがって
取り上げてくれるだろうなっていうのも読んでいたり……。
山崎
そこまで? じっくりはなしを聞いていると、
実はすべてがものすごく計画的ですよね。
森
ええ、スタンドプレイヤーに見られがちですが、実はね(笑)。
小さなことだと、あいさつは必ずするとか、
いちどお会いした方のお顔や名前はなるべく覚えるとか、
会合のお誘いには必ず顔を出すようにするとか、
東京とは違う、この島のコミュニティで暮らすために必要だと思われる心がけも、
わたしなりにちゃんと実行しています。
山崎
うん、とても大事なことですね。
森
それと、そもそも「森ルイ」っていう名前が本名じゃないんですよ。
山崎
ええっ! 名前も?
森
そうです。姓も名も、まるごと。
ほら、島に来るようになった時期と離婚(姓が変わる時期)とが
前後していたじゃないですか。
途中で名前が変わるって、いろいろ面倒だなあと思って、はじめから。
山崎
やっぱり、メチャクチャ考えてますね……。
森
そうなんですよ。勢いで家買って、勢いで島に来て、
勢いでカフェやってるみたいに見えますけど、
実は人生のどのタイミングでもずいぶんしっかり考えてるんです(笑)。
山崎
あ、でも、たしかご自宅の屋根の瓦に「森」って漢字が入ってませんでしたっけ?
森
あれが先にあって、「そうだ、森にしよう!」って。
山崎
そうだったんだ!
森
外国人にも説明しやすいし、そのうち戸籍も改名しちゃおうかなというくらい、
気に入ってます。
山崎
印象に残るというか、覚えやすいですもんね。
森
実際に、多くの雑誌やテレビに取材をしていただいて、とても助かっています。
ま、そんなわたしの戦略などおかまいなしに、
「ママさん、冷コ(アイスコーヒー)!」と言う、
愛すべき常連さんもいますけどね(笑)。
(……to be continued!)
information
antenna
住所:広島県豊田郡大崎上島町中野1841-12
TEL:090-2906-0930
営業時間:13:00~19:00
営業日:木曜~日曜と祝日のみ営業
profile
LOUIS MORI
森 ルイ
1978年東京生まれ。警視庁警察官として女性白バイ隊員やロシア語通訳などの勤務を経た後、2010年ブライダルコーディネーターへの転職を目指し退職。その後の離婚を機に瀬戸内海の大崎上島に築80年の古民家を購入してIターン移住。カフェ&ショップ『antenna』オーナー、クラシックバレエ教室主宰。WWOOF(ウーフ)ジャパンホストとして世界中の人々と島暮らしをシェア。自称・大崎上島観光親善大使。
profile
RYO YAMAZAKI
山崎 亮
1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。
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