colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

大崎上島 Part2
「ダメだったら?」の次の手は
考えておく。

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.045

posted:2012.12.14   from:広島県大崎上島  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:内藤貞保

山崎さんがワークショップのために何度か足を運んでいる瀬戸内海の大崎上島。
人口約8,300人のこの島に、築80年の古民家を購入してIターン移住した女性がいます。
カフェ&ショップを営みながら、自分らしく生活をアレンジして
島の暮らしをたのしむ森ルイさんに、そのいきさつや今の暮らしぶりをうかがいます。

「島に惚れた」という素敵物語ではないですから。

よく、「島に惚れ込んでやって来た」と語られることがあるんですけど、
実はそうじゃないんですよね。

山崎

すべてが同時に動いた、という感じだったわけですね。

それに、この家に出会わなかったら、
またちがうまちに住んでいた可能性だってあるし。

山崎

それまでに島へは何度くらい来てたんですか?

1年に1回ペースで……5回くらいですかね。

山崎

たったの5回ですか? 
ふつうは、気になっても1か月に1度くらい足を運んで
知り合いづくりやしごと探しをしたりするだろうし、
移住を決意してからもまずは借りて住んでみて、
と「段階」を踏むと思うので、かなり特殊ですよね(笑)。

特殊だと思います。先に友だちが移住してたから、ということも、
縁ではありますが、理由ではないですね。

山崎

じゃあ、即決で家を買ってすぐに島へ?

2010年の3月末に退職、秋には離婚成立という流れだったので、
半年の間は、島と東京の半々生活でした。
それで、せっかくなら東京にいる間にできることをやりたいと思って、
「スクーリング・パッド(*1)」のデザインコミュニケーションコースを
受講しました。

山崎

お、そこで「スクーリング・パッド」なんですね。

元警察官で離島に家を買って……という自己紹介だけで
「なにそれ?」っていう状況ですが(笑)。

山崎

相当のインパクトですよね(笑)。

6月には同期や代表の黒﨑輝男さんも島に遊びに来てくれたりして。
その体験が、島に焦点をあてる「離島経済新聞(*2)」が生まれる
ひとつの大きなきっかけにもなりました。
リトケイ立ち上げ当初のWebトップページが大崎上島だったのは、そのためです。

山崎

そんなつながりがあったんですね。黒﨑さんの存在ってやっぱり大きいですか?

神! みたいな感じではないですけどね(笑)。
ただ、これからの人生にデザインの力や人脈は必要だと感じていたので、
じぶんへの大きな投資という感覚でした。
黒﨑さんには当時もいまもずいぶん気にかけてもらっていて、
とても感謝しています。

山崎

いろんなところでそうやって、じんわりとひとに影響を与えている方ですね。

その間は、夜行バスで島と東京を行き来しつつ、
ついでにバックパッカー的に荷物を少しずつ移動していたという感じです。

山崎

ちいさい引っ越しを繰り返してたわけだ(笑)。

*1 スクーリング・パッド:デザイン、レストラン、映画、農業というテーマを掲げた4つの学部からなる、起業・独立・転職・スキルアップのための専門スクール。廃校を利用した「世田谷ものづくり学校(IID)」を拠点にしている。http://www.schooling-pad.jp/

*2 離島経済新聞:6852島からなる日本にある、約430島の有人離島情報専門のウェブマガジン。タブロイド紙『季刊リトケイ』も発行する。スクーリング・パッドで出会った編集者とデザイナー数名から誕生。略称・リトケイ。http://ritokei.com/ コロカル記事『PEOPLE vol.004 鯨本あつこさん』

ふれあい工房HOGALAKA

森さんが大崎上島に出会うきっかけとなった友人が店長をつとめる「ふれあい工房HOGALAKA」。

広いキッチンに立つ森さん

東京だと、このなかにお店が1軒収まってしまいそうなくらい広いキッチンに立つ森さん。

「antenna」店内

「antenna」店内のリフォームも仲間たちと手がけた。

次のステップのための余力を残したはたらき方。

山崎

この「antenna」はもともと何だったんですか?

「アンテナショップ玉手箱」という、道の駅的なお土産物屋さんでした。
当初は自宅で民宿でも……と思っていたのですが、
通っているうちにここが空いたのを知ってカフェ経営にシフトしました。
いまも町の持ちものなので、町から借りてます。

山崎

どのくらい改装したんですか?

店舗デザインは、スクーリング・パッドの同期にお願いして、
床のビニールクロスをはがしたり壁を塗ったり、できることはひとりでやりました。

山崎

材料なんかもじぶんで手配して?

そうですね。半年通ってる間にごあいさつがてら
いろいろなイベントに顔出したりしながら「余ってるペンキないですか?」
なんて言ってると、快く譲ってくれるひとが現れたりしてね。

山崎

言ってみるもんですね(笑)。

もともと「借金はしない」「ひとを雇わない」と決めて始めたんです。
貯金がなくなったら、ほかのしごとに就いてもいいし、
ご近所の知り合いから野菜いただいて釣り糸を垂れる生活でも
2か月ぐらいいけるかな、とか、欄間でも売ってしのごうか、とか。
ダメだったらこうしようと次の手は考えておきますけど、不安はなかったですね。
周りのほうが心配してくれましたけど。

山崎

そうだろうね。

しかも店は週に4日しか開いてないし、毎日午後からしか開いてないし(笑)。

山崎

そうなの?

「なにやってんの?」ってよく言われます(笑)。

山崎

その間はなにをやってるんですか?

こう見えて、バレエ教室の講師もやってたりするんですよ。

山崎

あ、そんな顔も持ってるんですね(笑)。

余力を残しておかないと、次へのステップの準備ができないなって思いがあって。
島でカフェをやることがわたしの人生の最終目標というわけではないですからね。

(……to be continued!)

「antenna」のテーブルで対談

「antenna」のテーブルは、造船所で使われる電気のケーブルを巻く木製ドラム。前の店でも使われていたものだが、「花柄のビニールクロスを剥がしたら、こんなにすてきなのが出てきたんですよ」と森さん。

別に借りている見晴らしのいいシェアハウス

森さんが自宅の「ルイの家」とは別に借りている見晴らしのいいシェアハウス。賃借契約が次の3月までなので、それぞれに、もう次のステップを考案中なのだとか。

information

map

antenna

住所:広島県豊田郡大崎上島町中野1841-12

TEL:090-2906-0930

営業時間:13:00~19:00

営業日:木曜~日曜と祝日のみ営業

Web:http://www.osaki-kamijima.jp/antenna/

profile

LOUIS MORI 
森 ルイ

1978年東京生まれ。警視庁警察官として女性白バイ隊員やロシア語通訳などの勤務を経た後、2010年ブライダルコーディネーターへの転職を目指し退職。その後の離婚を機に瀬戸内海の大崎上島に築80年の古民家を購入してIターン移住。カフェ&ショップ『antenna』オーナー、クラシックバレエ教室主宰。WWOOF(ウーフ)ジャパンホストとして世界中の人々と島暮らしをシェア。自称・大崎上島観光親善大使。

Web:http://blog.livedoor.jp/morilouis/

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

Feature  特集記事&おすすめ記事

Tags  この記事のタグ