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連載

鯨本あつこさん

PEOPLE
vol.004

posted:2012.7.2  from:東京都世田谷区  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。

editor's profile

Yu Ebihara

海老原 悠

えびはら・ゆう●エディター/ライター。埼玉県出身。海なし県で生まれ育ったせいか、海を見るとテンションがあがる。「ださいたま」と言われると深く深く傷つくくせに、埼玉を自虐的に語ることが多いのは、埼玉への愛ゆえなのです。

credit

撮影:山口徹花
撮影協力:世田谷ものづくり学校(IID)

「島の情報は探しにくい」という気づきから生まれたメディア。

「日本には6852もの島があって、そのうちの約430島が有人島なんです。
こんなに日本に島があるなんて、ですよね。
まだまだ私たちが知らない島も多いんです」
そう話すのは、離島の情報を集めたウェブサイト『リトケイ』こと『離島経済新聞
と、タブロイド紙『ritokei』の発行人・編集長の鯨本あつこさん。

さぞかし島と縁深いのかと思いきや、意外にも生まれ育ちは大分県の内陸部だそう。
そんな鯨本さんが、なぜ「島」のメディアを?
「 福岡で地方情報誌の編集者、美容学校の非常勤講師、飲食店、
販売などの仕事を経験したのち、
上京して経済誌の広告ディレクターやイラストレーターとして働いていました。
さまざまな職種を経験するうちに、
自分が本当にやりたいことはなんだろう? と考えるようになりました。
スクーリングパッド*1 のデザインコミュニケーション学部に通いだしたのもこの頃です」
デザインや編集を学べると思って通い始めたが、
ここで出会った仲間たちと、広島県の大崎上島に行ったときに、
島人の穏やかな島暮らしに魅了されたのだと言う。
「しかし、大崎上島という島をネットで調べようとしても、情報が出てこない。
それどころか、全国の島の情報を検索するのは意外と難しいということに気づいたのです」
鯨本さんの言葉のとおり、「島」という字は地名だけでなく、
人名にも多く使われる上に、島の名は読みが難しく、正確に検索をかけることが難しい。
それなら、さまざまな島の情報を集めたサイトを自分たちでつくろう。と、
大崎上島へ行ったスクーリングパッドのメンバーとともに『リトケイ』を立ち上げたのが、
2010年の秋。
編集長である鯨本さん自身も取材や執筆を行い、
「島記者」と呼ばれる、全国の離島に住まう7名ほどのライターたちとともに、
ほぼ毎日記事を更新する。
例えば、鯨本さんが執筆した「島人インタビュー」は、島人の口調が反映された文章で、
のんびりとした島の空気も文章にとじ込められているかのよう。
こうして日々アーカイブされていく記事は、島人の話以上の情報量を運んでくれる。
なるほど、「島のことは、リトケイで。」のコピーはダテではない。

*1 廃校となった旧池尻中学校の校舎を再利用した「世田谷ものづくり学校(IID)」で開催されている学生・社会人向けの学びの場。

リトケイ』トップページ。未踏の島に想いを馳せるもよし、情報収集して赴くもよし。
今年5月のサイトリニューアルで、いっそう島の情報がみつけやすくなった。

島のかたちはそれぞれ個性的で、有人島435島を並べてみると圧巻。
「離島出身者が自分の島をみつけたときに“うちの島”と呼ぶのですが、それが“うちの実家”と言うのと同じような感覚。本土のひとにはないことですよね」(鯨本さん)

紙とウェブ。ふたつの『リトケイ』がある理由。

いまでこそウェブと紙の二本柱で運営している『リトケイ』だが、
創刊した当初は、ウェブのみで展開していこうと思っていたと言う。
「紙ほどコストがかからないし、
無料で観てもらえるというウェブのメリットは、やはり魅力的。
でも、私たちはひとつひとつ大切なことをインタビューで聞き、
島人たちも真剣に話してくれているのに、
これをウェブという限定的な場だけにとどめておいていいの? と悩みました。
それに、パソコンはビーチには持っていけないし(笑)。
そこで、ウェブの『リトケイ』で公開していた、私たちが知っている島の素敵な情報を、
タブロイド紙『ritokei』で年に4回発行することにしたのです」
ウェブと紙面では、デザインも編集の手順も大きく異なるため、
両方発行すること、継続して情報を提供することはとても根気のいることのように思える。
「手間をかけて出版することで、“こちらも本気でこの情報を届けたいと思っているんだ”
という意思が伝えられればと思っています。
私たちが島々を取材しながら集める情報というのが、
島に住む人、島に興味がある人、
さまざまな人にとって大切な情報であるということを考えながら、
ふたつの『リトケイ』を制作しています」

季刊紙の『ritokei』は現在No.02まで発行されている。全国の書店、港などの売店、飲食店、雑貨店などで販売中。
(定価150円。※ノベルティ付きパッケージ定価300円〜500円)

「島本専用の本棚」を全国の書店へ。

現在、『リトケイ』は“出版社”や“メディア”という枠を越えた新しい試みに着手している。
それが、「島Booksプロジェクト」。
例えば、「料理」に関する本は雑誌も書籍もまとめて「料理本コーナー」に置かれているのに、
「島」に関する本は、雑誌も書籍もバラバラの場所に並べられていることを、
鯨本さんは以前から不思議に思っていた。
「島に関する本って、良質で数も豊富なのに、
“探したいけど探せない” “欲しいけどみつからない”
それに、つくり手としても“つくっても売る場所がない”という状況なんです。
そこで島の本やフリーペーパーが集まる場所を全国につくりたいと思いました」
そこで、クラウドファンディング「Ready For?」で、運営資金の一般募集を始めた。
目標は全国300店舗に島情報の専用本棚を設置すること。
応援してくれる人々の後押しを受けて、
離島に住む人と本島に住む人、
離島に住む人とまた別の離島に住む人、
島国日本に住むすべての島人を「情報」でつなぐべく、鯨本さんは今日も島々を渡り歩く。

profile

ATSUKO ISAMOTO
鯨本あつこ

離島経済新聞社主宰。『離島経済新聞』『季刊リトケイ』編集長。大分県日田市出身。編集者、イラストレーター、ディレクターとして、地方情報誌やビジネス誌の制作に携わった後、2010年にクリエイター仲間と離島経済新聞社を設立。離島以外の活動では編集レーベル「鯨本編緝室」として地域メディアやイベントの編集やプロデュースに携わる。趣味はお酒とコミュニケーションと考え事。
Twitter @ATSUisamoto

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