〈 この連載・企画は… 〉
ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。
editor's profile
Kanako Tsukahara
塚原加奈子
つかはら・かなこ●エディター/ライター。茨城県鹿嶋市、北浦のほとりでのんびり育つ。幼少のころ嗜んだ「鹿島かるた」はメダル級の強さです。
credit
撮影:五十嵐隆裕
昨年11月に和歌山市の片男波公園で開催された
アート&クラフトイベント「満潮祭」で大会委員長を務めた、源じろうさんこと、半田雅義さん。
本業はリノベーションカフェのオーナーだが、
和歌山市で発行される情報誌『アガサス』に連載を持ったり、
イベントを行ったり、和歌山カルチャーを発信しているひとりだ。
ちなみに、「源じろう」とは、最初のお店の屋号で、
知人たちの間で呼ばれているうちにいつのまにかそれを通称にしてしまっているのだそう。
満潮祭は、『アガサス』の25周年記念の特別イベントとして開催されたもので、
和歌山という土地の美しさと、和歌山でものづくりをする作家のことを
多くの人に知ってほしいというのがコンセプト。
和歌山県内の陶芸家やアーティストのお店のほか、
ミュージシャンの七尾旅人やU-zhaanの無料ライブも開かれ、当日は多くの人が詰めかけた。
「和歌山にもこんなに面白いものをつくる人がいたんだってわかれば、
地元の人も“和歌山も捨てたもんじゃないな”って自信がつくと思ったんです。
それくらい、やっぱり今、まちの元気がなくなってきていると思う」
和歌山市から海岸に沿って1時間ほど南下した有田市にある「rub luck cafe」は、
源じろうさんが和歌山の美しい景色をもっと多くの人に知ってほしいと、
リノベーションを手がけたカフェだ。
「和歌山の自然がありのままに見られるカフェをつくりたかったんです。
有田市に訪れてみると、海の景観がすばらしくきれいだったんですね。
この海の景色は昔から何も変わってないんやろうなって思ったんです。
以前、器を売る店を営んでいたとき、焼き物が好きで、
ずっと器を売ってきたんですが、自分の店の商品は、
他の店とどこに違いをつければいいのかわからなかった。
京都の器を扱えばいいのか、いや違う。
東京で流行った新しいものを取り入れればいいのか、いや違う。
そんな葛藤がずっとあった。
ある日、和歌浦に夕日が沈む景色を見ていて
これは和歌山の財産やないかなぁって。
和歌山の持っているもんで勝負したい。
そう、思うようになっていったんです」
そうして、源じろうさんは、海に面した倉庫を借りて、カフェを開くことを決めた。
「まわりからは反対されましたけど(笑)、人が来るのかとか、大丈夫かとか」
そう話す、源じろうさんの明るい口調からは、不安があったことなど全く感じられなかった。
きっと本人は、rub luck cafeから見える景観に自信があったのだろうし、
さらに、信頼できる多くのスタッフが支えてくれたのだと教えてくれた。
「rub luck cafeの建物は、もとは除虫菊を保存していた倉庫らしいんです。
カフェに来たお客さんが“昔、ここで働いてたんです”って教えてくれた。
そこから、有田市はもともと除虫菊の栽培が有名で、蚊取り線香発祥の地だって知って。
海に魅せられてオープンした店だったんですけど、
ここに来たことは、和歌山を勉強することにつながっていった。
場所がつくられることによって人と人とが出会って、
文化が紡がれていくって、いいなあと思いましたね。
自動販売機では人と人は出会えへんですから。
その頃から、ぼくのなかで、『場所をつくる』ということが
大きなひとつのテーマになり始めたんです」
和歌山で使われていたものを活かし、魅力ある「場所」をつくる。
源じろうさんは、最近、和歌山市内に、
リノベーションカフェ&バー「proyect g oficina」をオープンさせた。
まちなかにオープンさせた理由は、
若い人たちがカルチャーを発信していく場所が必要だと思ったから。
それくらい、市内は中心地が閑散としていると源じろうさんは嘆く。
このカフェの特長は、住宅などの解体現場から
拾ってきた廃材だけを使ってできているということ。
手間ばかりかかる廃材を使う理由を聞くと、
さらなる源じろうさんのこだわりが出てきた。
「『魔女の宅急便』に出てくるまち並みって、みんなの憧れだと思うんです。
あんな美しいまちに住みたいと思ってますよね?
それなのに、何でも新しく塗り替えられていくじゃないですか、今の日本って。
長い歴史のなかで大切にしてきたものをだんだん削りながら、身売りしてしまっている。
和歌山市だって、もとは、紀州藩の城下町として歴史ある建物がたくさんあったはず。
戦火もあったとは思うけど、歴史ある建物がどんどん変えられてしまっている気がするんです。
だから、ぼくは和歌山が培ってきたものを捨てずに、
まち並みをつくっていけたらなぁと思って、廃材をひらってきたんです。
誰もやらんなら、ぼくがいっこいっこ、つくってこかなって思ってるところなんです(笑)」
和歌山が持っている自然景観を楽しむことから、
もともとあるものを使って新しいカルチャーを編みはじめた源じろうさん。
みんなが自慢したくなるようなまち並みに、少しずつ変わっていくのかもしれない。
源じろうさんの言葉の熱さから、そんな期待を抱かせる。
最後に、源じろうさんに今後のプランを伺うと、わくわくするような答えが返ってきた。
「和歌山の田舎のほう行ったらね、いい物件がめちゃくちゃ空いてるんですよ。
それをリノベーションして安く1泊2,000円くらいのドミトリーをつくりたいですね。
それくらい、みんなが訪れたら惚れ込んでしまうような面白さが和歌山にはたくさんあると思う。
もともと和歌山が持ってたものを使って、新しい魅力をつくっていけたら楽しいですよね」
モノから場所、そして人のつながりへと、
和歌山の魅力を伝えてきた源じろうさんの挑戦はこれからも進化しながら続いていくようだ。
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GENJIRO
源じろう
1971年和歌山市生まれ。現在は「rub luck cafe」、「proyect g oficina」を手がけ、魅力的な空間をつくり出すことに日々熱意を燃やしている。 [proyect g oficina] 住所 和歌山県和歌山市十一番丁16 TEL 073-783-0028 営業時間 ランチ11:30〜14:14(平日のみ)、バー18:00〜24:00 日曜休
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