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仏生山 Part4
じわじわゆっくり
変わっていく強み。

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.025

posted:2012.7.26   from:香川県高松市仏生山町  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:内藤貞保

高松市仏生山町に暮らし、仏生山温泉の番台を務める岡 昇平さんと
山崎さんの対談を4回にわたりお届けします。

「楽しい」と「好き」を10年がかりで増やしていく。

山崎

魅力的な「ひと」が魅力的な「まち」をつくる、という感覚はいいですね。
どんなひと、どんなお店が欲しいな、という具体的なイメージはありますか?

おいしいパン屋さん(笑)! あと、高松の市街地に
「しるの店 おふくろ」という家庭料理店があるのですが、あんな雰囲気の夜の店。

山崎

お店を始めるには、このくらいの規模のまちが実はいちばんですよね。
どうせなら、岡さんに続いて、パイオニアになれるひとがいいですね。
はじめのうちはお客さんが少なくても、
たとえば今の時代、売り上げの何割かをネットで稼ぐこともできます。
そういう方法の取れるひとなら、無理なくお店を始められそうです。

はい。

山崎

いちばんはじめに岡さんに会いに来たときに、
すでに「まちぐるみ旅館」の構想を描いたかっこいいパンフレットができていて、
ああ、いいなって思ったんですよね。

ありがとうございます。

山崎

でも、それをじわじわと時間をかけて進めているのがきっといいんですよ。
早急にやろうとすると、独裁者になってしまいかねない。

じわじわすぎるほどですけどね(笑)。
2009年からは、秋祭りの「仏生山大行列」のときに、
街道沿いの古い町家の軒先を借りて、こども、地域、手づくりを
テーマにしたお店を30店舗ぐらい出店してみる試みをはじめています。

山崎

行政でいう「社会実験」ですね。
つまり、街道が賑わうイメージをみんなで共有する。いいですね!

法然寺

讃岐高松藩初代藩主松平頼重が建てた、松平家の菩提寺「法然寺」。苔むした古い石段をゆっくりと歩いて案内してくださる岡さん。

秋には、「仏生山大行列」で賑わう門前町

秋には、「仏生山大行列」で賑わう門前町。街道沿いの町家の軒下を借りて、約30のお店が出店する試みを実行している。

このまちの、グッドネイバーズとして。

山崎

古い町家に暮らしたいひとの募集やまちぐるみ旅館のプロモーションは
どんどんやっていくんですか?

うーん、やらないと決めているわけではないのですが、
ほんとうに少しずつ、ですね。

山崎

それでいいと思いますよ。

「まちづくり」っていう大層な旗を立てたくない、というか。

山崎

studio-Lも、実はそのことばをあまり使いませんね。
あくまで「コミュニティづくりのお手伝い」。
ぼくらの場合は、まちづくりの専門家でないという理由もありますが、
岡さんは、個人的な想いから発生している活動なので、
とくにそこが徹底していますよね。

「活性化」「まちおこし」も使わないキーワードです。

山崎

「まちづくり」ということばは、80年〜90年代、法廷都市計画に対して、
市民が主体となる都市計画のことをそう呼んで、
そのころはそれがカウンターパートになれたのですが、
ぼくらはさらにその後にまちと関わり出した世代。
「まちづくり」さえも、派閥を作ったり縄張り争いをしたりしていて、
窮屈だなぁと思ったり。
だからしっくりこないのかもしれないし、いま、ぼくらの世代が使うと、
あぁそっち派ですね、という理解になっちゃうのもある。
もちろん、世代論で簡単に片づけてしまえるような話ではないのですが。

慌てず、年1%計画でゆるやかに進めていけばいいかなと。
本来、まちのあり方ってそのくらいのペースだと思うんです。

山崎

そうですね。「まちづくりプロジェクト」と称してしまうと、
なかなかそうは言っていられなくなるのが現実。
岡さんの場合は、「ニヤニヤしたい」という個人のわがままが、
閉じていなくて公に開いている感じがあるので、気持ちがいい。
滅私奉公的なまちづくりではなく、そういうのを
グッドネイバーズ(GOOD NEIGHBORS)というのかもしれませんね。

対談の様子

「10年がかりで少しずつやっていきます」(岡) 「じわじわと変わっていけるのも、強みかもしれませんね」(山崎)

information

map

仏生山まちぐるみ旅館

客室や食堂や大浴場など、さまざまな役割がまちの中に点在し、まち全体で旅館の機能を担う取り組み。既存の店やあらたに誘致する店と、時間をかけて魅力的な地域をつくり、楽しい人のつながりをつくる。現在は、「縁側の客室」と「仏生山温泉」などがオープン中。

Facebook:http://www.facebook.com/machigurumi

【仏生山温泉】

住所:香川県高松市仏生山町乙114-5

TEL:087-889-7750

Web:http://busshozan.com/

profile

SHOHEI OKA 
岡 昇平

1973年香川県高松市生まれ。物理学者を目指したのに、なぜか徳島大学工学部建設工学科に入学、卒業のころには志をすっかり忘れて日本大学大学院芸術学研究科修士課程に進学、建築を学ぶ。建築設計事務所「みかんぐみ」を経て高松へ戻り、2002年「設計事務所岡昇平」設立。仏生山温泉番台。

Web:http://ooso.busshozan.com/

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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