連載
posted:2015.4.3 from:秋田県仙北市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
writer profile
Mikio Soramame
空豆みきお
そらまめ・みきお●akaoni design コピーライター。山形に生まれ、山形に育つ。のち山形を出て、やがて山形に戻る。いまは山形で学び、山形で遊ぶ日々。夏の鳥海山の麓の農園の、朝採りの枝豆収穫の手伝いが、ものすごく好き。
http://www.akaoni.org
credit
撮影:志鎌康平
〈角館伝四郎〉は創業1851年。
上質な樺細工を生みつづける革新の老舗ブランドである。
樺細工の“樺”は白樺ではなく、山桜の樹皮。
江戸時代末期、秋田支藩の城下町として栄えたまち・角館で
下級武士の手内職として始まったとされる伝統工芸である。
商品の顔が樹皮であるという強烈なインパクト。
ひとつとして同じものはない圧倒的な個性。
山桜の樹皮に宿る模様と色の美しさ。
密封性に優れた機能面。際立ったそれらの特徴を持って今日に生きている。
樺細工の伝統は、日本で唯一、角館だけで育まれたもの。
角館伝四郎の六代目である藤木浩一さんは、
その伝統の技を生かしながら樺細工の世界に幅と奥行きを与え、
自らの手で普及に取り組んでいる。
人口13,000人の小さなまち・角館にある店舗に、ぜひ足を運んでいただきたい。
茶筒、菓子皿、素箱、ランチョンマット、パン皿、コースター、
箸置き、名刺入れの数々が並ぶ。
樺細工のある暮らしの美しさと広大さに一瞬で魅了されることだろう。
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「型もの」と呼ばれる技法。それが樺細工の核心だ。
サワグルミの木をスライスした経木(きょうぎ)と、
なめした山桜の皮とを、木型に巻く。
焼きごてを使いながら、にかわで貼り合わせていく。
経木と桜皮で一本の筒ができあがる。
それを輪切りにして、茶筒の身の内芯、外芯、内蓋、外蓋をつくっていく。
樺細工職人の西宮正雄さんは、よく山に入り、樹皮の調達から自分の手でやってしまう。
「岩手の皮がいいと言う人もいるけど、秋田の皮もとてもいい。
いい皮に巡り会うことも多いです」という。
山桜の樹皮は、成長のスピードが遅い東北産のものがいい、という。
遅いからこそ、樹皮もしっかりといいものに育つ。
成長が早すぎるとそのスピードについていけず、
樹皮がダメージを受けることがあるのだそうだ。
梅雨の季節にたっぷりと水を吸った樹皮が、
8月、9月には乾いて木からはがれやすくなる。
1年のうちそのたったの2か月だけが、樹皮を採取できるチャンスである。
しかし近年は異常気象のせいか、良質な樹皮が採れなくなってきているという。
ソメイヨシノなどの桜では代用はきかない。
木を殺すこともなく、樹皮をはがしてもやがては再生する
サスティナブルな素材ではあるが、山桜の樹皮は、いま、とても貴重なものなのだ。
採取した皮は、まず、ふた夏をかけて乾燥させる。
そのくらい時間をかけて乾燥させないと、いい商品づくりはできないという。
皮をなめすのも、筒をつくるのも、磨き上げるのも、そのあとの話。
長い時間をかけた、緻密な手作業の繰り返しだ。
西宮さんの茶筒は、本体の筒と蓋とがゆっくりと
無理なく心地よくハマるようにつくりあげられていく。
その絶妙なハマり具合は、ミクロの世界を感じとる職人の手だけがなせる技だ。
「自分で採ってきた皮でいい茶筒ができると、一層うれしく感じるものですよ」
と笑った。
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藤木さんは、デザイナーと職人とともに、
若い世代に受け入れられる商品づくりに取り組んでいる。
輪筒シリーズは、茶筒の顔となる外芯に、
輪切りのさくら、かえでの木を組合わせてはめたもの。
山桜の強烈な主張が抑えられるとともに、
3種の木の表情を楽しめる、やわらかい印象のものとなった。
帯筒シリーズは、商品の顔であった山桜を内に隠しながらも、
身と蓋の間から、山桜が帯のように表情をのぞかせるもの。
いずれも、若い世代の生活空間に馴染むものをイメージして生まれた。
「山桜の茶色の表情は、非常に個性が強いものです。
やや強すぎる、かもしれません。それを少し控えて、
若い人たちの居住空間やインテリアにとけ込むようなデザインをめざしました」
と藤木さんは語る。
貴重な山桜をこれでもかと全面的に使うのではなく、抑えて、控えめに見せる。
それがかえって、樺細工の個性を際立たせている。
藤木さんのこれからの課題のひとつが、海外である。
パリの展示会〈メゾン・エ・オブジェ〉への出展はすでに4回を数えた。
ヨーロッパやアメリカへの販売も順調に伸びており、
〈DENSHIRO〉ブランドの定着が感じられる。
2013年には『International New York Times』の取材チームが角館を訪れ、
紙面にも大きく取り上げられ特集された。
日本のグリーンティーが海外のライフスタイルのなかでスタンダード化したいま、
美しい茶筒が海外で受け入れられるのは当然のことかもしれない。
「SAMURAI LEGACY」と記事に書かれたように、
武士の内職から生まれた文化というストーリーも、欧米人の想像力を刺激するのだろう。
「樺細工の山桜の美しさが、世界の名だたる名木にも負けないものであるということ。
そして樺細工の伝統の技術が、世界の最高峰のクオリティを知る人たちに
認められていくこと。そうしたことを目指して、
ここ角館からグローバルスタンダードを発信していきたい。
その先頭を私たちが走っていきたい。そして角館という産地全体が
盛り上がってくれれば、と願っています」と藤木さんは語った。
information
角館伝四郎
住所:秋田県仙北市角館町下新町45
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