連載
posted:2015.4.2 from:山口県長門市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
text & photograph
Yuichiro Yamada
山田祐一郎
やまだ・ゆういちろう●日本で唯一(※本人調べ)のヌードル(麺)ライター、フリーライター。製麺工場の長男として福岡で生まれ、主に麺を食べて育った。うどん・そばにおいては専門書にも連載を持つ。全国の麺の食べ歩きを記録するwebサイトを連載中。
http://ii-kiji.com
山口県長門市の〈シンラテック〉とシイノキのつき合いは長い。
昭和34年の創業以来、同社では近隣で育ったシイノキを伐採し、チップを製造してきた。
「山口県全体でいうとヒノキやスギが有名ですが、
長門市は昔からシイノキの産地だったんですよ」
そう教えてくれたのは3代目社長・近藤友宏さんだ。
ここでつくられた木材チップは、紙の原材料として
日本製紙株式会社へと納品されてきた。
そんなシンラテックが転機を迎えたのは2010年。
近藤さんは木材チップ製造に加え、新たに製材部門の立ち上げに着手した。
その背景にはこんな想いがあった。
「日本では、大部分の森が手をつけられないまま放置されています。
国産材、県産材を使いたいという声は確かにあるのですが、
価格や安定供給がネックになって叶わない。加えて、自分で調べていくうちに
日本が林業や木材産業においては発展途上国だという事実を知りました。
この仕事に誇りを持って臨んでいけるよう、
もっと林業に向き合っていく必要があると思ったんです」
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シンラテックにはチップ製造のため、日々、伐採されたシイノキが運び込まれてくる。
しかし、なかには木目が美しく、すっと真っ直ぐにのびた形状のものがあり、
それらを製材し、フローリングとして販売した。
「弊社の強みは、同じ敷地内の工場で木材チップの生産と製材の両方が行える点です。
良い素材はフローリングにし、それ以外はチップにします。
運び込まれた木材をしっかり使い切れるので、無駄がありません」
2011年、自社工場でシイノキを使ったフローリングの生産を本格的にスタート。
すると、東京で、そして地元・山口で、
このフローリングを絶賛する声があがりはじめた。
「シイノキを使いつつ、こんなに長いフローリングがつくれるなんて!」
「国産材だから安心して長く使えそう」
「高級なホワイトオークと比べても遜色ない木目と色調」
これらの声は近藤さんをはじめ、社員たちを大いに喜ばせた。
加えて、木々を伐採する人々のモチベーションにもなった。
それまでチップ用とされたシイノキは、
フローリング用となると仕入れ価格が最大2倍になることもある。
「きちんとしたモノづくりを続け、発信していくことで、
木の価値そのものが上がることを実感しました」
近藤さんのその言葉は優しくも、力強い。
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フローリング材のヒットが弾みとなり、
現在、シンラテックではシイノキを使って住宅資材、
テレビボードなどのインテリア、小物などをつくっている。
「この辺りは本当にシイノキが豊富で、天然林のうち50%くらいはあるんです。
シイノキはだいたい40年で伐採期を迎えます。
シイノキのプロダクトの需要が伸び、いままで以上に切ることになっても、
成長から伐採までのサイクルに支障をきたすことはありません。
むしろ50年以上、切らずに放置していると虫がついたり、
シイノキのドングリがイノシシやサルの餌になってしまう恐れもあります。
循環を保つためにも、ほどよく切っていかねばなりません」
近隣の山々にとどまらず、得意先である日本製紙が保有する山を預かって
伐採を請け負い、それまで放置されていた木という資源を
山の保全のために還元する取り組みも始めている。
「シイノキを身近に感じてもらうための動きも始まっています」
そういって近藤さんが見せてくれたのが、シイノキを使った小物類だった。
ボトルをインテリアの一部にとり入れられるワイン立て、
温かみのある風合いの掛け時計、
車や鳥をモチーフにした子ども用の玩具などを製造し、販売している。
「特に子ども用のプロダクトについては、安めの価格設定にしています。
小さな頃から木の魅力に触れてもらうのが第一の目的ですから」
そう話す近藤さんの目は、遠い未来を見ているようだった。
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