連載
posted:2015.3.24 from:福井県福井市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
credit
撮影:今津聡子
福井市にある〈マエダ木工〉の前田智之さんは、大学を卒業後、
京都の木工所2か所で、合計9年の修業を積んだ。
さらにドイツに1年間、木工留学し、マイスター学校で勉強。
帰国後、地元福井に戻り、マエダ木工を開設した。
現在の主な業務内容としては住宅のつくりつけ家具やリフォーム、
百貨店の什器などを製作している。
これまでは外国産材か、国産でも広葉樹を使用することがほとんどだった。
あるとき、東海地方の木工仲間で組んでいた
〈未来家具〉というグループに誘われて参加した。
“ものづくりを通して森づくりを”というテーマで、若手木工作家が地域の針葉樹を使い、
次世代に残したい家具や小物を提案するというグループだ。
この展示会に出展するのに、本格的に県産スギを使ってみたところ、
「すごく使いやすかった」という。
「やわらかすぎて難しいというイメージでしたが、
傷がつくといってもまあまあ、それなりかなと。
それよりも淡いピンクの見た目がすごくきれい」と新しい発見があった。
未来家具チームのなかでも、前田さんに子どもがいることもあり、
自然と子ども家具に注目していった。
そして〈日記家具〉という、新しい子ども向け家具ブランドを立ち上げることになる。
「当時、一生使い続ける家具をつくりたいと思っていたんですが、
実際は簡単な話ではありません。スギだと傷がつきやすいので、
家の中心に置くキャビネットのようなものはダメだろうと。
しかし子ども用家具なら、小さいころに買ってボロボロになっても、
思い出とともに味になっていくと思ったんです。
もちろん当初は、“スギだから傷がつきやすいことを大きく謳っておかないと
問題になる”と思っていました。
だけど思い切って、“傷がつきますということを特徴にしてしまおう”と、
考え方を切り替えたんです」
子どもが傷をつけないはずがない。だったらコンセプトにしてしまえばいい。
スギの傷つきやすさを逆手にとったのだ。
「むしろ傷をどんどんつけていってほしいくらいです」と前田さんが言うように、
“柱の傷”の発想。それはひとつひとつが思い出であり、子どもの“日記”なのだ。
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日記家具は現在6つの商品をラインナップ。
一番はじめにつくった〈おうちのすべり台〉は、
日記家具を代表するプロダクトになっている。
すべり台をつくっている木工作家はあまり聞いたことがない。
「当時、うちの娘が、すべり台のある公園に行きたいというんです。
でも福井は雪が積もるし、雨もすごく降る。意外と外で遊べる機会が少ないんです」
家庭内マーケティングから商品が生まれるのが、マエダ木工の強み。
商品テストも毎日行われる。
「うちでも2歳の娘が、毎朝、頭から滑ってますよ(笑)」
滑走面だけにはロウを塗っているが、ほかは無塗装。
すべり台の下をくぐれるようになっていたり、窓もたくさん開いている。
子どもの感性は自由。遊び方も無限大に広がるだろう。
ほかには〈おもちゃの家〉というキャビネットがある。
屋根の途中に穴が空いていて、屋根の斜面におもちゃを滑らせると、
穴に落ちて自然と片づけられる。お片づけが楽しくなる商品だ。
「展示会などでは、わざとブロックのおもちゃを散らかしておくんですよ。
一回やり方を教えると、みんなすすんで片づけてくれますね」
このように遊び心のある商品がたくさんある。
前田さんは子どもの視点になって考える。
「実はドイツにいるときに、子どもが産まれたんですね。
だから帰国したら“あんな家具をつくろう、こんな家具をつくろう”と、
それこそバウハウス的なデザインの想像を膨らませながら、意気込んでいたわけです。
でも子どもの行動がわかっていないとダメですね。
想像以上に、何をしでかすかわからない(笑)。
イスは背もたれ側から下りるし、ひっくり返しもする。
だから日記家具は、必ずすべて面取りをしています」
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最近では保育園からも製作の依頼が入るようになり、
スタッキングできるイスも開発した。
保育園だと、また想定外のことが起きる。
イスの前脚と後ろ脚で“コットンコットン”したことがある人も多いはずだ。
イス取りゲームもするらしい。
だから後ろ脚を座面に食い込ませることで、強度を高めている。
さらに、ご飯や手に付いたものを、イスの側面などで拭くようにして
なすりつけてしまう子が多いという。
だから保育園用は、掃除しやすいように無塗装ではなくオイル塗装を施した。
こうした子どもの行動を逐一知っていくことで、
日記家具にもフィードバックされていく。
日記家具では、スギ材を集成パネルで購入している。
木裏と木表を交互に、50ミリ幅ではぎ合わせている。
これは日記家具のオーダーメイド製材だ。
「本当はもっと幅が狭いと思うのですが、
細過ぎるとストライプ模様のようになってあまり美しくありません」
こうして日記家具でスギ材を使っていくことで、前田さんは「スギを気に入った」。
マエダ木工の住宅や内装の仕事でも、スギの使用を提案するようになってきた。
そもそも福井のスギは使いにくいという。
間伐をしていないし、枝打ちもしていないので、節が多い。水分も多いという。
それでも、地元のスギを使うということ。
福井市に新しくオープンした〈むらかみ食堂〉のテーブルでも、
すべて福井のスギを使用した。
「日記家具やお店などでスギの良さを感じてもらって、
その後、家を建てるときに木造にしようという気持ちになってほしいですね。
身近な家具で、スギの良さや山の現状を知るきっかけになればうれしいです」
日記家具の“いい感じの傷”を見れば、
将来、子どもにスギの家で育ってほしいという気持ちになってきそうだ。
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information
マエダ木工/日記家具
住所:福井県福井市細坂町18-6-2
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