連載
posted:2015.3.18 from:大分県日田市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
text & photograph
Yuichiro Yamada
山田祐一郎
やまだ・ゆういちろう●日本で唯一(※本人調べ)のヌードル(麺)ライター、フリーライター。製麺工場の長男として福岡で生まれ、主に麺を食べて育った。うどん・そばにおいては専門書にも連載を持つ。全国の麺の食べ歩きを記録するwebサイトを連載中。
http://ii-kiji.com
家具製造会社〈アサヒ〉がある大分県日田市は、かつて幕府の直轄地・天領だった。
その広大な土地の8割を占める緑の森は、
大地に根を下ろした良質なスギが天に向かってまっすぐと伸び、
“日本三大美林”とも呼ばれている。
そんな日田市のスギは、古くから〈日田杉〉という名前で親しまれてきた。
日田杉の特徴は、表面はかたく、赤身の部分が多く、
害虫や湿気による被害を受けにくい。
木目は細かく、赤身は濃く、艶もあり、建材として用いられることが多い。
ただし、これらの特徴は、適切な乾燥方法によって処理されていることが前提だ。
日田杉の中でも大半を占める「ヤブクグリ」種は、
一般的な機械乾燥を施すと中心部が黒くなってしまい、
梁や柱といった高値で売買される構造材としては流通させられない。
中心部が黒くなったもの、根元の曲がっている部分については、
日田の伝統工芸〈杉下駄〉に加工されている。
ヤブクグリ、ひいては日田杉の価値を向上させるため、
日田では黒くさせないための方法について古くから考えられてきた。
ひとつが、風通しのいい山の斜面での天然乾燥だ。
ただし、十分に乾燥させなければならないため、広い場所、
そして何より約2年間という長い歳月が必要である。
もうひとつが技術・工夫による乾燥方法だった。
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創業からおよそ70年が経つアサヒもまた、
独自の乾燥技術を創業時から模索していた。
アサヒはもともと、丸イスをつくる小さな町工場だったが、その後、製造商品が拡大。
現在は工場で90人の社員たちが家具づくりに携わっている。
そんなアサヒが社内に木材自然乾燥場を設け、
大型木材乾燥機を導入したのは、昭和40年頃だった。
「環境が整ったことで、乾燥方法の研究は一気に本格化しました。
試行錯誤の結果、独自の乾燥方法が確立でき、
現在、スギの木が納品されてから使用できるまで約1か月半しかかかりません」
そう教えてくれたのは、この道40年のベテラン、工場長の十時裕治さんだ。
アサヒでは短期間のうちに、家具材用として木材の含水率を7~10%まで抑える。
通常のやり方では内部から割れてしまうが、アサヒの技術ではそんな惨事は起こらない。
現在、アサヒでは、ソファからテーブル、ローテーブル、チェア、
ダイニングテーブルまで、日田杉を使った幅広いプロダクトが生産されている。
特に人気を集めているロングセラーが、
耳(丸太を縦に切った際に生じる両端の皮が付いた部分)をそのまま生かした
ロングテーブルだ。
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その製造工程はいくつもの段階を経る。
大枠の形を荒取りによって削り出し、丁寧にカンナをかけ、
専門機器を使ってスギを真っ直ぐにならしていく。
それから腐れや硬化によるヒビ割れ、
抜け落ちそうな節の部分にヒノキの枝を埋め込む“節埋め”を行い、ヤスリをかける。
さらに表面の強度をアップさせるため、“夏目”という
夏場に育ったやわらかい部分だけを削る“うづくり加工”を施す。
「長さのあるテーブルだからこそ、スギならではの
美しい木目を最大限に生かすように心がけています。
このテーブルは2枚のスギ板を組み合わせる設計になっていますので、
並べたときに一体感が出るように合わせているんですよ」
十時さんはそういって、テーブルの天板を優しく撫でた。
その表面には、木目を長きにわたってきれいに保つため、
独自に開発した塗料を塗り、強度を上げているそうだ。
アサヒが掲げる“三世代で使える家具”というモットーは、
日田杉を使ったプロダクトでも変わらない。
使い込むほどに味わいの出るロングテーブルは、
家族団らんの場を美しい姿のまま、見守り続ける。
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アサヒ
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