連載
posted:2015.3.12 from:宮城県本吉郡南三陸町 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
writer profile
Sawako Numata
沼田佐和子
ぬまた・さわこ●エディター/ライター。宮城県名取市出身。震災の津波で、家に漁船が流れ着いたため、仙台に移住。大して愛着もなかった地元が急に愛おしくなり、週末ごとに通う日々。一番好きなのは娘。本と純米酒も好き。牛たんのお店も詳しいです。
credit
撮影:佐藤紘一郎(Photo516)
のどかな里山の風景が広がる宮城県南三陸町入谷地区。
その小高い丘の上、廃校になった小学校の木造校舎の中に
〈入谷Yes工房〉はある。
南三陸町は、東日本大震災の津波で大きな被害を受けた。
住宅の7割が浸水し、いまも多くの人が
仮設住宅などでの避難生活を余儀なくされている。
入谷Yes工房は、そんな方たちの働く場所をつくれないかとスタートした。
「どこかに来て、誰かと働くことは生きるための大切なモチベーションになります。
たくさんの人がこの工房でいきいき働いてくれるのは、とてもうれしいことです」
そう話すのは工房の広報を担当する大森丈広さん。
2011年5月に3名からスタートした工房は、
現在まで、のべ20人以上の雇用を生み出した。
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入谷Yes工房(南三陸復興ダコの会)では、
南三陸を元気にするために、特産品や木工製品の開発、農園の運営など、
まちに雇用を生み、復興していくための活動をしている。
その製品の中で人気が高いのが南三陸町の名産、タコをモチーフにした
南三陸町のゆるキャラ〈オクトパス君〉のグッズ。
“置く”と“パス”する、という語呂合わせで、
震災前からひそかな人気を集めていた。
「一番の売れ筋は文鎮。受験シーズンになると、
1週間で1000個売り上げることもあるんです。
震災後3年間で7万個の売り上げを達成しました」と大森さん。
文鎮以外にも、力を入れているのが木工製品の開発だ。
海のイメージが強い南三陸だが、
実は町の面積の8割を森林が占めている森のまちでもある。
間伐材などの木資源が豊富だが、被災直後は、
津波をかぶった塩害木などが大量にあった。
「塩害木や倒壊した木などの震災被害木は、活用して製品にすることで、
震災の記憶を風化させないことにもつながります。
災害廃棄物の焼却施設の解体記念品を受注したこともあります」と大森さん。
「縁があって木工製品の開発に携わることができたので、
まずは地元の木に目を向けてみようと思いました。
いろいろな製品を売り出して、南三陸に木資源があることを
多くの人に知っていただけたらと思っています」
「木工製品をつくるには、企画、デザイン、加工など、
さまざまなスキルと技術が必要です。私たちは、その工程すべてを
工房の中で完結できたらいいなと考えています」と大森さん。
当初はスタッフが手作業でちょっとしたノベルティなどをつくっていたが、
2013年には、レーザー加工機を導入。
高い品質の製品を大量に生産することが可能になった。
レーザー加工機では、イメージした絵柄を正確に焼きつけることができる。
商品の展開にも幅が生まれたという。
「木工製品は、絵やかたちを比較的自由にデザインすることができるので、
さまざまな要望に応えることができるようになりました。
小ロットのご依頼や、ちょっとユニークなデザインにも対応できます」
入谷Yes工房の依頼主は、南三陸の企業やゆかりの人などが中心。
オクトパス君をアレンジしたデザインの依頼も多い。
南三陸町役場のネームプレートも入谷Yes工房の製品。
小学校の卒業文集や結婚式のウェルカムプレート、
会社の記念品などの依頼も増えている。
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加工で出た廃材も、薪を必要とする近隣の住宅に配布したり、
学生のレクリエーションやワークショップに利用したり、
最後まで大切に利用している。
「南三陸で育った木材ですから、南三陸の人たちのために活用できたら一番いいですね。
お客さまのどんな要望にも、迅速に対応できるのが私たちの強み。
ここ数年で想いをかたちにするお手伝いが
少しずつできるようになってきたと実感しています。
南三陸町は、震災でたくさんのコミュニティがなくなってしまいました。
南三陸の木材でできたグッズを渡したり、もらったりという過程で、
もっとさまざまなコミュニケーションが生まれたらいいと思っています」
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