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〈ワークス・ギルド・ジャパン〉
秋田杉の間伐材で
暮らしにやさしい響きを

木のある暮らし
ーLife with Woodー
vol.063

posted:2015.4.6   from:秋田県秋田市  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。

writer profile

Mikio Soramame

空豆みきお

そらまめ・みきお●akaoni design コピーライター。山形に生まれ、山形に育つ。のち山形を出て、やがて山形に戻る。いまは山形で学び、山形で遊ぶ日々。夏の鳥海山の麓の農園の、朝採りの枝豆収穫の手伝いが、ものすごく好き。
http://www.akaoni.org

credit

撮影:志鎌康平

ワークス・ギルド・ジャパンからつながる秋田の森のはなし

秋田県の森林面積は、県土の70%。半分は天然林、もう半分は人工林。
全国で6番目に大きい県である秋田県は、森林面積の大きさでも全国6番目。
山形県に接する県南の境界線には鳥海山がそびえ、
青森県に接する北西の境界線には世界遺産の白神山地がある。
秋田は、深く広大な森の国であった。

秋田杉は、木曽ヒノキや青森ヒバと並ぶ日本三大美林のひとつ。
秋田の天然林のほとんどはナラやブナであり、
天然秋田杉の割合はごくわずかだ。
だからこそ、この森林の存在は、東北の地の大きな財産である。
人工林だけを見ればそのほとんどがスギで、
資源量の豊かさで秋田は日本一である。秋田は、スギの王国であった。

秋田杉の木目には、物語が刻まれている。
どんな場所で、どんなふうに育ったのかを語っている。
木目の幅の揃い方。ほんのりと赤みを帯びたやさしい色合い。ほのかな香り。
間伐材の1枚にも、その素晴らしさは、生きている。
秋田杉は、秋田の宝である。

やや赤みがかった肌の色をした秋田杉。木目の幅は、成長のスピードを示している。秋田の気候のなかでゆっくりと育った木であることを無言で物語っている。

木のおもちゃで、五感を育てる

秋田県秋田市のワークス・ギルド・ジャパンは
オリジナリティあふれる木工品で、いま注目を集めている。
つくっているのは、暮らしにとけこむ木製玩具だ。
デザイナーの大野英憲さんは言う。
「伝統工芸や家具などをつくる会社や人は、秋田にはすでにたくさんいます。
この秋田の地に蓄えられた素材や、木工の知恵と技術をうまく活用しながら、
僕らにしかできないものづくりをめざしました」

ワークス・ギルド・ジャパンのデザイナー、大野英憲さん。もともと神奈川を生活の拠点としていたが、縁あって秋田に来た。いまは1か月のうちの10日間を秋田で過ごす。時間があれば、木材会社や加工会社を回り、職人さんたちとの雑談を楽しむ。

たとえば、2011年にグッドデザイン賞を受賞した〈ベント・ウッド・サイクル〉。
北欧文化にあるという、自転車の乗り方を学ぶこどものためのトレーニング自転車を、
秋田の曲げ木の技術を取り入れて開発したものだ。
家の中でベント・ウッド・サイクルで遊ぶうちに、
からだのなかでバランス感覚が自然と身につき、磨かれていく。

また、たとえば、〈モパラグ〉という名の、
スギでできた81のピースでつくるパズル式のラグマット。
菱形や三角形の木製ピースを並べていくと、幾何学模様のトリックアートができあがる。
遊び心に満ちた、フシギで楽しい知的インテリアだ。
どちらも、家のなかにあるだけで、自然とワクワク感を生み出す。
木と遊び、木で学び、木で育つ。
「木育」こそ、ワークス・ギルド・ジャパンのコンセプトなのだ。

コロカル商店でも扱っているキュートな木工自転車「ベント・ウッド・サイクル」。木のやわらかい質感がいい。曲線が美しく、家のなかにあるだけで、うれしい。

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秋田杉の間伐材を若者にも広めたい

「秋田杉の間伐材を使って、若者の暮らしになじむなにかをつくれないか」
というのが、新しい商品をつくるにあたっての、大野さんの課題だった。
若い世代の人たちに、環境への意識を高めてもらいたい。
秋田の間伐材というものの存在を、身近に感じてもらいたい。
そして、温室効果ガスの排出量削減を目的とする、
〈カーボン・オフセット認証〉を取れる商品にもしたい。

そんな想いから、本当にエコロジカルな木製商品のカギを探るべく、
秋田の木材加工の会社をリサーチした。
そこで出会った、木箱製造を行う〈羽後傳統工芸〉の技術と考えが素晴らしかった。

価格の安い海外ものの木材ではなく、
秋田杉という素材にこだわり活用していきたいという想いが強かった。
商品に、ウレタンなどの塗装や抗菌・防菌コートをかけないが、
それでも、非常に高い衛生レベルを実現している。
作業から出た木くずも、捨てられることなく、牛舎へ運ばれていく。
牛の寝床になり、牛糞と混ざりあって、やがて最後は畑の肥料となり、土に還っていく。
これらはすべて、塗装などを使用せず、
秋田杉そのままだから可能となるエコサイクルだ。
大野さんは、羽後傳統工芸に新しい商品の制作をお願いすることに決めた。

「若者のライフスタイルに欠かせないスマホと、秋田杉のコラボはどうだろうか。
テクノロジーの最先端と、アナログな秋田杉の組み合わせは面白いかもしれない」

秋田杉の間伐材でつくる、スマートフォン向けのスピーカーの開発が始まった。

羽後傳統工芸さんの制作現場。たくさんの機械を使って、たくさんの職人さんたちが、さまざまに加工している。事業のメインは木箱の製造。ここでは、加工している木材の約6割が秋田杉だ。

加工で出たかつおの削り節のような秋田杉の木くずを、粉砕機にかけて細かくしたもの。塗装などはなにもかけていないので、添加物など一切ないピュアで安全なものだ。牛舎へ運ばれ、牛の寝床となる。牛ふんと混ざりあって発酵し、やがて肥料として土に還っていく。

大野さん(左)と、羽後傳統工芸の取締役工場長・茂内君保さん(右)。「秋田でこうして仕事をしているのだから、やっぱり秋田杉をいままで以上にもっともっと使っていきたいと考えています」と茂内さんは語ってくださった。

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ディクショナリーホーンで、暮らしにやさしい響きを

辞書のカタチをした、秋田杉でつくられた木箱〈ディクショナリーホーン〉。
本体とフタとの小さなつなぎ部分にいたるまで木製で、金属は一切使用しない。

フタをあけると、ラッパを上向きにしたような朝顔型の穴がある。
音楽の流れているスマートフォンをそこに置くと、
音が箱の下の板に反射して、音は上に飛んで広がる。
上に飛んだ音の一部は、蓋に当たって前方に反射して広がる。

スマホの小さな音を反響させるだけの構造で、そこに機械的なユニットはなにもない。
木は、スマホから出るかたい金属音を吸収して、共鳴する。
ディクショナリーホーンは、スマホ単独で聴くよりも、
ずっと大きく、やわらかく、甘い音を部屋全体に響かせることができる。

シンプルすぎるようなカタチだが、音の響きの研究を重ねた結果であり、
大学にも通って専門家のアドバイスに耳を傾け、
試行錯誤を繰り返した結果、たどりついたものだった。

ディクショナリーホーンは、もちろん、ウレタンなども塗られていない。
抗菌・防菌コートもされていない。
「秋田杉の本来のやわらかさ、香り、美しさを、
そのままに感じてほしい」と大野さん。
「せっかく秋田杉でつくったものでも、見た目をよくする目的だけの
贈答用の箱のようなものでは、すぐに捨てられてしまう。
家のなかにあるだけで存在感があって、捨てられることなく、
暮らしにとけこむようなものにしたかった」と語った。

ディクショナリーホーンは、長く使う辞書と同じだ。
使うときに取り出して開く。
使わないときには、閉じて、本棚に立てておけばいい。

木のある暮らし 秋田・ワークス・ギルド・ジャパンのいいもの

ディクショナリーホーン 価格:3,990円(税込)秋田杉の無垢材でできている。使用方法は、フタを開けて、穴にスマートフォンを入れるだけ。大抵のスマホ(縦15cm 横8cm未満)ならOK。さまざまな機種に対応する。2012年グッドデザイン賞受賞。

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ワークス・ギルド・ジャパン

住所:秋田県秋田市将軍野南2-3-29

http://www.wgj.co.jp

木のある暮らしーLife with Woodー

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