連載
posted:2015.4.6 from:秋田県秋田市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
writer profile
Mikio Soramame
空豆みきお
そらまめ・みきお●akaoni design コピーライター。山形に生まれ、山形に育つ。のち山形を出て、やがて山形に戻る。いまは山形で学び、山形で遊ぶ日々。夏の鳥海山の麓の農園の、朝採りの枝豆収穫の手伝いが、ものすごく好き。
http://www.akaoni.org
credit
撮影:志鎌康平
秋田県秋田市のワークス・ギルド・ジャパンは
オリジナリティあふれる木工品で、いま注目を集めている。
つくっているのは、暮らしにとけこむ木製玩具だ。
デザイナーの大野英憲さんは言う。
「伝統工芸や家具などをつくる会社や人は、秋田にはすでにたくさんいます。
この秋田の地に蓄えられた素材や、木工の知恵と技術をうまく活用しながら、
僕らにしかできないものづくりをめざしました」
たとえば、2011年にグッドデザイン賞を受賞した〈ベント・ウッド・サイクル〉。
北欧文化にあるという、自転車の乗り方を学ぶこどものためのトレーニング自転車を、
秋田の曲げ木の技術を取り入れて開発したものだ。
家の中でベント・ウッド・サイクルで遊ぶうちに、
からだのなかでバランス感覚が自然と身につき、磨かれていく。
また、たとえば、〈モパラグ〉という名の、
スギでできた81のピースでつくるパズル式のラグマット。
菱形や三角形の木製ピースを並べていくと、幾何学模様のトリックアートができあがる。
遊び心に満ちた、フシギで楽しい知的インテリアだ。
どちらも、家のなかにあるだけで、自然とワクワク感を生み出す。
木と遊び、木で学び、木で育つ。
「木育」こそ、ワークス・ギルド・ジャパンのコンセプトなのだ。
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「秋田杉の間伐材を使って、若者の暮らしになじむなにかをつくれないか」
というのが、新しい商品をつくるにあたっての、大野さんの課題だった。
若い世代の人たちに、環境への意識を高めてもらいたい。
秋田の間伐材というものの存在を、身近に感じてもらいたい。
そして、温室効果ガスの排出量削減を目的とする、
〈カーボン・オフセット認証〉を取れる商品にもしたい。
そんな想いから、本当にエコロジカルな木製商品のカギを探るべく、
秋田の木材加工の会社をリサーチした。
そこで出会った、木箱製造を行う〈羽後傳統工芸〉の技術と考えが素晴らしかった。
価格の安い海外ものの木材ではなく、
秋田杉という素材にこだわり活用していきたいという想いが強かった。
商品に、ウレタンなどの塗装や抗菌・防菌コートをかけないが、
それでも、非常に高い衛生レベルを実現している。
作業から出た木くずも、捨てられることなく、牛舎へ運ばれていく。
牛の寝床になり、牛糞と混ざりあって、やがて最後は畑の肥料となり、土に還っていく。
これらはすべて、塗装などを使用せず、
秋田杉そのままだから可能となるエコサイクルだ。
大野さんは、羽後傳統工芸に新しい商品の制作をお願いすることに決めた。
「若者のライフスタイルに欠かせないスマホと、秋田杉のコラボはどうだろうか。
テクノロジーの最先端と、アナログな秋田杉の組み合わせは面白いかもしれない」
秋田杉の間伐材でつくる、スマートフォン向けのスピーカーの開発が始まった。
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辞書のカタチをした、秋田杉でつくられた木箱〈ディクショナリーホーン〉。
本体とフタとの小さなつなぎ部分にいたるまで木製で、金属は一切使用しない。
フタをあけると、ラッパを上向きにしたような朝顔型の穴がある。
音楽の流れているスマートフォンをそこに置くと、
音が箱の下の板に反射して、音は上に飛んで広がる。
上に飛んだ音の一部は、蓋に当たって前方に反射して広がる。
スマホの小さな音を反響させるだけの構造で、そこに機械的なユニットはなにもない。
木は、スマホから出るかたい金属音を吸収して、共鳴する。
ディクショナリーホーンは、スマホ単独で聴くよりも、
ずっと大きく、やわらかく、甘い音を部屋全体に響かせることができる。
シンプルすぎるようなカタチだが、音の響きの研究を重ねた結果であり、
大学にも通って専門家のアドバイスに耳を傾け、
試行錯誤を繰り返した結果、たどりついたものだった。
ディクショナリーホーンは、もちろん、ウレタンなども塗られていない。
抗菌・防菌コートもされていない。
「秋田杉の本来のやわらかさ、香り、美しさを、
そのままに感じてほしい」と大野さん。
「せっかく秋田杉でつくったものでも、見た目をよくする目的だけの
贈答用の箱のようなものでは、すぐに捨てられてしまう。
家のなかにあるだけで存在感があって、捨てられることなく、
暮らしにとけこむようなものにしたかった」と語った。
ディクショナリーホーンは、長く使う辞書と同じだ。
使うときに取り出して開く。
使わないときには、閉じて、本棚に立てておけばいい。
information
ワークス・ギルド・ジャパン
住所:秋田県秋田市将軍野南2-3-29
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