連載
posted:2015.1.14 from:北海道旭川市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
writer profile
Emiko Hida
飛田恵美子
ひだ・えみこ●茨城出身、神奈川在住。「地域」「自然」「生きかた・働きかた」をテーマに、書くことや企画することを生業としている。虹を見つけて指さすように、この世界の素敵なものを紹介したい。「東北マニュファクチュール・ストーリー」の記事も担当。
credit
撮影:藤原かんいち
CONITUREからつながる北海道の森のはなし
広大な面積を誇る北海道。そのうちの71%、約554万ヘクタールは森林だ。
他県と比べて圧倒的な広さで、全国の森林面積の約22%を占めている。
天然林の割合が68%と高く、トドマツやエゾマツ、ミズナラにカンバ、
イタヤ、ブナなど多様な樹種が見られる。
人工林の大半を占めるのが、戦後の拡大造林で造成されたトドマツやカラマツ。
特に、トドマツはこれから伐期を迎えるため、その使い道が問われている。
北海道の木だから、北海道の人たちの暮らしの道具として活用したい
トドマツはマツ科モミ属の針葉樹。冷涼で土壌の発達した場所を好み、
北海道全土と千島列島南部、サハリン、カムチャッカ半島に分布している。
北海道ではスギが道南までしか生えないため、トドマツが主要な建材とされてきた。
戦後に植林された木は、今後5~20年ほどで大量に伐期を迎える。
しかし、スギやヒノキと同じように、外材に押されて建材としての需要は減っている。
そこで、トドマツを使った製品づくりを行う
「CONITURE」(コニチャー)プロジェクトが始まった。
CONITUREとは、CONIFER(針葉樹)とFURNITURE(家具)を合わせた造語だ。
インテリアショップ、デザイナー、家具・建具メーカー、製材所、
森林保全団体等が協力しながら活動を展開している。
CONITURE代表の前田あやのさんは
東京で店舗設計やデザインの仕事をした後、結婚をきっかけに北海道に移住。
10年前から旭川でインテリアショップ「HOMES interior/gift」を経営している。
全国有数の家具の産地である旭川。
良質の素材を使い、高い技術で家具を製作し続けてきた歴史を持つ。
しかし、家具は高級であるため、一般的にあまり身近になっていなかった。
こんなに近くにいいものがあるのに、もったいない。
気軽に買える雑貨や暮らしの道具を紹介することで、
良質なものを暮らしに取り入れる楽しさを知ってもらえたらとインテリアショップを始め、
株式会社北海道ポットラックに法人化した。
そんな前田さんのもとに、北海道の林務課から
「トドマツを使った家具をつくってくれませんか」
という声がかかったのは、3年前のこと。
「たしかにオリジナル商品や家具のデザインも少しはしていたけど、
なぜ私? と思いました。旭川には、家具や木工のプロがたくさんいるのに」
トドマツはやわらかくてキズがつきやすいため、家具には向かないというのが定説。
そのため、長年家具を製作してきた職人からは敬遠されてしまったのだ。
前田さんはそうした固定観念がなかったため、
「まずはやってみよう」と考えたという。
トドマツが置かれた現状を知るにつれ、その想いは強まった。
「製品には使えない、パルプやバイオマスエネルギーにするしかない」
といわれていたトドマツ。
何千年も前から北海道に自生してきた「北海道を代表する木」なのに、
ただ燃やしてしまうのはもったいない。
北海道の人たちの暮らしの道具として活用したい。
こうして、前田さんの挑戦が始まった。
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「材をできるだけ動かさずにできること」を追求したら、
ハーフDIY製品に行き着いた。
トドマツの木肌は白色から黄白色。雰囲気がやさしく、やわらかい。
店舗什器を開発し、試しにHOMESで使ってみたところ大好評で、
前田さんは「もしかしていけるかも!?」と喜んだという。
スギやヒノキは香りや色合いが和風だが、
トドマツはニュートラルでどんな色にも染まる素直さがある。
洋風のインテリアにも和風のインテリアにも合うのだ。
「自分の家でも使いたい」という声がたくさんあがったため、
家庭用にもリデザインした。
また、軽くて運搬性がいいところを生かし、屋台も製作した。
地域物産展やマルシェなどのイベントを開催するとき、
主催者が頭を悩ませていたのがイベント什器の保管場所。
そこで、普段はテーブルやベンチとして使え、
災害など有事の際は病人を寝かせるベッドにもなる3WAY屋台を考案した。
旭川駅前のイベントで使ってみたところ、
会場がほのかに木の香りに包まれ、いい雰囲気だったそうだ。
「さまざまな製品を試作して、たくさんの人にテストしてもらって、を繰り返しました。
展示会に出すと、バイヤーさんからの反応も良かったんです。
最初は“広葉樹じゃないとダメ”といわれるかと思ったんですが、
みなさん針葉樹を使う必要性をわかってくれていて、
“もっと多様な製品を出してほしい”って。
ただ、同時に“もっと安くならないのか”という声も多かったんです」
トドマツは、同じ針葉樹のスギやヒノキと比べると単価が高い。
本州なら、生産地に加工技術がなくても、隣県に技術があればすぐに運べる。
しかし、北海道は隣町との距離も遠いため、運搬コストがかかってしまう。
そこで考えたのが、「CONITURE DIY」シリーズ。
カットされた木材やねじがセットになったキットで、
製品を買った人が組み立てて完成させる製品だ。
加工がシンプルなので、生産地からあまり材を動かさなくて済む。
結果、無駄なエネルギーを使わなくていいし、コストも抑えられる。
また、六角レンチとプラスドライバーがあれば
女性でも10分ほどでベンチやテーブルをつくることができるので、
「DIYに興味があるけど、都会の集合住宅に住んでいるから
広さがないし音も立てられない」人のニーズにも合致する。
好きな色に塗ったり、角を削って丸くしたりと、カスタマイズも自由自在だ。
これらの製品はすべて、あえて塗装をしていない。
密度の高い広葉樹と違い、気密性がなく気泡がたくさん入ったトドマツは、
さわるとほわっとあたたかい。そのさわり心地の良さを味わってほしいと考えた。
塗装がないと汚れるのでは? と思うかもしれない。
でも、そのときは汚れた部分を紙ヤスリで削ってしまえばいい。
削るとまた木の香りが漂う。何度でも無垢に蘇るのだ。
「塗装されていない生の木を触ったりいじったりする機会って、
あまりないと思うんです。
だから、大人も子どももみんな、さわって楽しんでほしいですね」
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暮らしのなかで、楽しく使ってもらえる製品をつくる
CONITURE製品は、旭川にある家具工房や工場数軒に頼んで製作してもらっている。
そのほか、地元の職人と組んで実験的なものづくりに挑戦することも。
たとえば、こちらの「IRON-LEG」シリーズは、
旭川から車で1時間ほどの愛別町にある
家具工房「森のキツネ」とのコラボレーション作品。
職人の河野文孝さんは、埼玉県川越市生まれ。
家具工房などで7年ほど修業した後、独立。
製材された木材ではなく、丸太から買いたいと考え、
大きな木材市場のある上川エリアへ移住した。
「丸太だと、キズや虫食いもそのまま残っているので、
どんな材なのか、どういうところで育ったのかがよくわかるんです。
効率だけ考えると木材を買ったほうがいいんですが、
ぼくは自分が使う材のことを知りたい。
そのほうが気持ちが入るし、つくっていて面白いんです」
材料として主に使うのは、トドマツとハルニレ。
トドマツは単純に見た目の美しさや軽さに惹かれて使い始めたという。
「トドマツはほかの木材とは全然性格が違うので、慣れるまでは苦労しました。
材がやわらかいので、すぐに欠けてしまうんです。
なので、削るのではなく、切り落とすという加工方法にしました」
前田さんとはトドマツなど地域の材を生かすという点で意気投合し、
「Pilling」というデザイン製作ユニットを組んでいる。
ふたりが揃うと、次はどんな製品をつくろうかと話が尽きない。
トドマツはたくさんの可能性を秘めている。もっといろいろなことができるはず。
前例のないものづくりは、大変だけど楽しいそうだ。
前田さんたちがプロジェクトを通して伝えたいのは、
「自分なりのものさしや、選ぶ目を持ってほしい」ということ。
格安家具から高級家具まで、たくさんのもので溢れている時代。
どれがよくてどれがだめ、というわけではない。
大事なのは、自分が何を基準にものを選ぶか、
どんなものに囲まれたくらしたいか。
「“トドマツは好きじゃないけど、環境のことを考えると使わないといけないから”
という理由で選んでほしくない。
暮らしを豊かにする道具だから、使う人が楽しくならないと意味がないと思っています。
DIYシリーズを組み立てたりワークショップをしたりすると、みんな笑顔になるんです。
木にふれるのは楽しいし、みんなでものづくりをするのも楽しい。
私がデザインできるのはそこなのかもしれません。
使う楽しみ、カスタマイズする楽しみを感じられる製品をお届けできたらと思います」
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木のある暮らし 北海道・CONITUREのいいもの
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株式会社北海道ポットラック
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