連載
posted:2015.1.15 from:兵庫県宍粟市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
writer profile
Kazuya Arisa
有佐和也
ありさ・かずや●編集者/ライター。石川県小松市出身。大学卒業後、2010年から大阪の編集プロダクションに所属。趣味は山登り、フットサル。体を動かすことが大好き。
credit
撮影:貝原弘次
東亜林業からつながる兵庫の森のはなし
県土の約7割=約56万ヘクタールが森林を占める兵庫県。
そのうち民有林の割合が95%を占めており
おのずとスギやヒノキなどの人工林の割合も多い。
最近では「宍粟材」といった地域材の利用推進の取り組みも進んでいる。
気づかされた地元の木の大切さ
江戸時代から林業が栄え「森林王国」と呼ばれる宍粟市。
滋賀県の琵琶湖より少し小さく、
淡路島より大きい宍粟市は豊岡市に次いで県内で2番目の広さ。
その面積のおよそ90%を森林が占める。
そのうち、民有林の70%がスギやヒノキが植林される人工林だ。
日本の人工林の割合は約40%なので、
特にスギとヒノキが多い森林ということがわかる。
そんな宍粟市に拠点を置く東亜林業は1940年の設立以来、
オリジナル家具の製造を続ける老舗ブランドだ。
製作するのは主にダイニングチェア。
イスをつくり続けて半世紀、日本の家庭の団欒をつくってきた。
発売された椅子には「260号」「490号」といった型ごとの通し番号がつけられ、
いまや600番台に手が届きそう。
創業からしばらくは東北産のブナやナラ、米国産の広葉樹などを使っていたが、
10年前、宍粟の木材を使うに至ったきっかけがあったそう。
「2004年の台風23号で山が大きな被害を受けたんです。
猛スピードで通過し、10分ほどすごい風が吹いたのですが、
大きなスギやヒノキが、だーっと倒れた。
木が密植していると、根が小さいままの状態で災害に弱いんです。
このとき、スギとヒノキをもっと使っていかねば、と強く思いましたね」
そう語るのは社長の松本信輔さんだ。
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やわらかい木を使うための挑戦
しかし、やわらかい針葉樹は普通なら家具に不向きのはず。
そこで長年培った家具づくりのノウハウをもとに、
東亜林業では技術開発が行われてきた。
そのひとつが生産量日本一を誇る「圧縮処理」。
巨大な圧縮機で熱を加えながら圧力をかけ、また冷ます。
そうやって木材の密度を上げていくのに比例して、かたさも増す。
しかし、木材の種類によって、適した圧力や時間、温度などはバラバラ。
最適な組み合わせは、一朝一夕で見つかるものではなかった。
長年にわたる研究の末、スギやヒノキでも、
安定したかたい木材に生まれ変わる新技術が完成した。
またその頃、地域材の魅力を実感するこんなエピソードがあり、
背中を押されたのだという。
「合併で宍粟市になる前の山崎町の町長さんが、
小学校の机の天板にヒノキの板をのせる取り組みをしておられました。
“地元の森にはこんな木があるんだよ”と伝えるためでしたが、
やわらかい木なので傷つきやすい。
そこでうちの圧縮技術でかたいものをつくったところ、
かなりいい評判をいただきました。うれしかったですね」
さらに、圧縮処理と並んで東亜林業を支える加工技術がある。
それは「三次元曲げ木」。木を削らずに曲げることで、無駄を出さずに、
体のラインに吸いつくような造形をつくることができる。
木目に沿って一方向に曲げることはできても、
縦と横の二方向に曲げるこの製法はノウハウを積み重ねた東亜林業ならでは。
「この技術はうちの心臓部分。だから外の人には公開していないんです。
いわば東亜林業の代名詞かもしれません」
老舗の家具メーカーだからこそできる加工技術と生産力を強みに、
一般家具をはじめ、学校や大型の公共施設への需要が増えてきた。
「子どもたちには木にふれてほしいですね。
教育現場では、子どもたちがストレスをためずに
落ち着いて過ごせる環境づくりのために木が使われています。
無機質な机やイスと比べても気分も明るくなる気がしますよね。
オフィスでも同じ理由で需要が増えています」
人を巻き込んで、視野をひろげる
松本さんに今後のものづくりについての展望を聞くと、こんな答えが返ってきた。
「地元の木を使う側のアイデアや感覚を取り入れてデザインを起こしたいです。
さらに、山林の所有者、伐り出す人、製材する人、加工する人。
それぞれが思っていることってきっとあると思います。
いまの生活空間に合うものを、それぞれが知恵を絞って生み出し
連携していくことができればと思っています」
関わり合うそれぞれの人の対話や観察から得た気づきをもとに、
使いやすく、魅力的なものを新しく生み出す。
東亜林業の革新によって、地域材の活躍の場はまだまだ広がりそうだ。
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木のある暮らし 兵庫・東亜林業のいいもの
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東亜林業株式会社
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