連載
posted:2015.1.13 from:熊本県阿蘇郡南小国町 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
writer profile
Mayumi Kinoshita
木下真弓
きのした・まゆみ●福岡出身、天草育ち、熊本市在住。フリーランスのエディター/ライター/景観コーディネーター/3児の母。美しい自然や伝統、食文化を子どもたちの世代に伝え継ぐことが、人生の目標。趣味はヨガとキャンプとお弁当づくり。
credit
撮影:松永育美
河津製材所からつながる、熊本の森のはなし
県土の6割を森林が占める熊本県。天然林が多いのは、天草地方だ。
海と山の景観が背中合わせに広がるこの一帯には
シイやクス、カシなどの広葉樹が生い茂る。
スギやヒノキといった人工林が多いのが阿蘇地方と球磨地方。
県全体で約15品種のスギが植えられ
建築用材や建具、家具材など、幅広く利用されている。
しかし、木材価格の長期低迷と高齢化により、林業の担い手は減少している。
人工林のうち多くを占める間伐対象林の間伐は、緊急課題のひとつだ。
さまざまな恩恵をもたらす森林を次世代へつなぐため
県では「県民参加の森林づくり」を掲げ、森林整備にあたってきた。
林業と木工業との前向きな連携もスタート。
学校や公共施設だけでなく一般住宅でも県産材を使った家づくりに注目が集まる。
また、子どもたちを対象とした木育イベントも盛んだ。
小国杉を育む森
熊本県の北東部にある阿蘇郡南小国町は隣りあう小国町とともに
小国杉の産地として知られている。
阿蘇外輪山の麓に広がるこの一帯で人工造林が始まったのは江戸時代のこと。
以来、小国の林業は250年以上にわたって脈々と受け継がれているのだ。
標高400~800メートルの山間のまちは、九州にありながら夏も比較的涼しい寒冷地。
冬には氷点下になることもあり一面を雪が覆い尽くす日も多い。
さらに、年間を通じて降雨量が多いのも特徴だ。
こうした環境によりゆっくりと時間をかけて育つ小国杉は
堅木で色目が薄く、目の詰まった美しい木材となる。
小国杉のやさしい色味を生かす〈Wood Blind〉
熊本県阿蘇郡南小国町の「河津製材所」。
小国杉の特徴を生かした伝統工法「浮造り(うづくり)加工」などを得意とし
壁やフローリングといった内装材を数多く手がけている。
冬の朝陽を受け、もうもうと蒸気を上げるのは
伐りだして間もない丸太だ。
風に乗り、ほのかな木の香りが漂ってくる。
祖父の代から続く製材所を父とともに支えるのが専務の河津秀樹さん。
建築系の専門学校へ進学した河津さんは卒業後、
店舗デザインを手がける会社へ就職した。
「いずれは製材所を継がねばならないというのもわかっていましたが、
正直なところ、将来への不安もありました」
17年前、後継者として実家へ戻った河津さんはあらためて小国杉の魅力に気づき、
その風合いを生かした加工品を手がけるようになっていく。
代表的なプロダクトのひとつが〈Wood Blind〉。
節がなく、色合いのいい柾目の板を使った木製ブラインドだ。
「小国杉特有の淡いピンクやオレンジ色を生かした無垢のブラインドです。
無機質な空間にもぬくもりを添えてくれるので、都市圏の方にも好評です」
と、河津さん。
スラット式の横型とバーチカル式の縦型があり、公共施設や病院施設のほか、
戸建住宅やマンションなど一般消費者からのオーダーも多い。
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〈Wood Pellet〉で地域活性。サステナブルなものづくり
内装材やブラインドをつくるにあたり、大量に発生する端材やおが粉。
これらを圧縮し、つくられるのが〈Wood Pellet〉という商品だ。
「建材として都市部の人たちに利用してもらうだけでは、小国杉の森は守れません。
ここに暮らす私たち自身が、日常的に小国杉を活用できる方法はないかと考え、
たどりついたのが木質ペレットでした」
木質ペレットは、クリーンなエネルギー源ともいわれ
化石燃料に変わる燃料として注目されている。
ましてやこの一帯は一年の約半分が暖房を必要とする高冷地。
ストーブやボイラーの燃料として利用できる木質ペレットは、
地域に密着したプロダクトともいえる。
「薪は補充の手間や後処理も大変ですが、ペレットは燃料としてのもちもよく、
軽くてコンパクトなので持ち運びや保管も簡単です。
より身近に使っていただけるよう、
地域の拠点となるガソリンスタンドでも販売しています」
自治体へ積極的に働きかけ、地元の小学校に5台のペレットストーブを設置した。
森の恵みや豊かさを、風景・空間・ぬくもりなど五感で感じられるものとして
子どもたちに伝えたいという河津さんの思いがある。
次世代を担う子どもたちに、小国の豊かさを届けたい
河津さんは、これまでなかった新たな価値を見出し、
枯れた枝からできた節である死節(しにぶし)の補修に
樹齢数十年を超える小国杉の枝を使うなど
地域経済に循環を生む取り組みも行っている。
枝の中央には、幹よりも目の詰まった年輪が刻まれているため、
化粧板としての品質も保たれる。
「林業は数十年先を見据えた仕事です。だからこそ、ムダにはできない。
山に放置されたまま朽ち果てていく枝を、
材料として買い取れば山主さんにも喜ばれるし、
私たちにとっても付加価値になるんです」
高齢などの理由でやむなく耕作を断念しなければならなかった土地を
近所の人たちから有償で借り上げ、天然乾燥場をつくったのもその取り組みのひとつだ。
部材によっては岳の湯地区の温泉地熱エネルギーによる乾燥施設を利用している。
河津さんのお手本は、エネルギー自給率100%で
“ドイツで一番幸せな村”と呼ばれるようになった
バイエルン州レッテンバッハの取り組みだ。
プロダクト開発の傍らで、実際に現地へ足を運び
再生エネルギーや地域づくりについても視野を広げ可能性を模索する。
「木は万能です。建物やモノだけでなく、エネルギーにもなる。
小国の森は、“宝の森”なんです」
「かつて自分がそうだったように、子どもたちもいつか、
自立を考えるときがくるでしょう。そんなとき、子どもが自らここに根を張り、
後継したいと思えるような豊かな環境とつながりをつくっていきたい」
河津さんのものづくりからは、そんな思いがうかがえる。
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木のある暮らし 熊本・河津製材所のいいもの
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河津製材所
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