連載
posted:2015.1.12 from:岐阜県高山市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
credit
撮影:松木宏祐
飛騨産業からつながる岐阜の森のはなし
岐阜は県土面積の82%が森林で、全国2位の森林県。
平成18年度から間伐を強化し、毎年1万5000ヘクタール以上の間伐が実施されている。
木材としては、スギがもっとも多く、14万3000立方メートル生産されている。
次いでヒノキが11万立方メートル。
ヒノキは国内シェアの5.4%に上り、全国7位の生産量である。
製材工場の数は減少傾向だが、それでも314工場があり、
全国で2位の工場数となっている(平成22年)。
ただし1工場あたりの原木消費量は、全国平均の3分の1程度で、
小さい加工規模の工場がたくさんあることがわかる。
環境への配慮から生まれたものづくり
木工のまちとして名高い飛騨高山。その地名を冠する飛騨産業の歴史は、
日本の林業や木工業の歴史をそのまま体現しているかのようだ。
1920年(大正9年)の創業以来、曲げ木の技術を利用して木工業に勤しんでいた。
飛騨にはブナの木がたくさんあり、もともとは県産の木材を使用していた。
しかし戦後の高度経済成長を通して木がどんどん伐り倒されたことで、
国産の木は不足し、70年代後半からは外国産材を使用するようになる。
2000年に就任したのが岡田贊三社長。もともとは、ホームセンターを経営していて、
フロンガス製品や水質汚染が強い洗剤を店内から撤去するなど、
環境保全には強い関心を持っていた。
家具メーカー出身ではない岡田社長は、就任当時、一般的なイメージと同様に
「飛騨産業というだけあって、飛騨の木材を使っているはず」と思っていた。
さらにせっかく買った外国産材も、節があると捨ててしまっていた現状を知った。
一本の丸太から家具として使用されるのは、多くても25%程度だったのだ。
経営的にも環境的にも、それはムダ。
そこで生み出されたのが〈森のことば〉シリーズ。“節こそが主役”なのだ。
「節のある部分は、当時はワルモノ扱いで、
一流の家具に使ってはいけないという一方的な思い込みがありました」
と話すのは営業企画室室長の森野敦さん。
節のない柾目がいいと思うがあまり、木が持つ個性や自然の造形美を無視していたのだ。
ある意味“素人”の岡田社長だからこそ、やり切ることができたのかもしれない。
2001年に発売された〈森のことば〉は大ヒットとなり、
現在でも飛騨産業のトップシェアを誇る製品となっている。
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飛騨の匠の曲げ木が生かされた圧縮技術
「節のある製品が受け入れてもらえるなら、次はスギでもいけるのではないだろうか」と
2001年頃からスギの家具づくりの研究を始める。
スギはやわらかい素材で、家具には向かないといわれる。
そこで圧縮してかたくする技術の開発に乗り出す。
2003年には同志5社が集まって〈飛騨杉研究開発協同組合〉が立ち上がり、
本格的な研究が始まる。当時から圧縮自体は可能であったが、
家具用材として使えるレベルにまで精度を高める必要があった。
普通、木材に圧力をかけていくと、表面からかたくなっていく。
つまり周りがかたく、中心がやわらかい状態。
「それではまずいので、すべて均等にかたくなる技術を研究しました。
が、それは企業秘密。理屈はわかっていましたが、
商品として提供できるようになるまでに時間がかかりましたね」
と森野さんは苦労を語る。
圧縮は加熱して行われる。
高含水率、高温状態で木材組織を軟化させ造形する曲げ木技術とノウハウが、
この圧縮技術にも存分に生かされているのだ。
飛騨の匠の伝統を、かたちを変えながら脈々と受け継いでいる。
2005年、とうとう製品を発表する。それが〈HIDA〉。
イタリアの著名なプロダクトデザイナー、エンツォ・マーリによるデザインで、
ミラノサローネで発表された。圧縮スギが、いきなり世界に打って出たのだ。
現在、圧縮の技術は進み、70%まで圧縮できるようになった。
これで、かたさをコントロールできるようになったとも言える。
たとえば幼稚園のフローリングは圧縮率を低くしてやわらかめ。
体育館の床のような場所ならかため。
「70%まで圧縮すると、熱が加わるので真っ黒になって水に沈みます」
これらは箸などに使われるという。
また圧縮と同時に金型を使えば、“圧縮曲げ木”にすることも可能。
平面だけでなく、湾曲させたり、波打たせたりできる。
切削屑も出ず、利点は大きい。
圧縮技術の集大成といえるのが、今年発表された「KISARAGI」だ。
木材には板目と柾目がある。柾目のほうがスッとした直線的な木目で、
好みは人によるが、一般的に日本人に好まれるといわれている。
柾目を美しく表現するには、より精度の高い均一な圧縮が必要になってくる。
そのうえ、柾目は板目に比べて細くしか取れないので、
何枚も何枚もつなぎ合わせなくてはならない。
柾目のほうが圧倒的に手間がかかるのだが、「KISARAGI」は柾目に挑戦。
55%圧縮で、ほどよいかたさを保っている。
ミラノサローネに出展してみると“見たことがない素材”であり、
チーク材のようだが日本のスギということで、話題になった。
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スギを中心に、木が持つ可能性を広げたい
いまでは飛騨産業では、スギを使った家具をたくさんつくっている。
〈HIDA〉をはじめ、〈crypto〉〈suginari〉〈wavok〉から
最新の〈KISARAGI〉まで。家具づくりは、森づくり。
スギを使った家具が普及すれば、林業が活性化し、森に手が入る。
そこで家具づくり以外にも、本社工場内に太陽光パネルを設置し
発電事業を行う〈きつつき森の発電所〉や、
ドングリの実がなる森を育てる〈飛騨高山きつつきの森・荘川〉などの
活動も開始している。
ほかにも2013年に生まれた〈きつつき森の研究所〉では、
木の持つ可能性を広げるべく“科学”している。曲がる木材による3次元加工や、
木材から抽出される樹液の活用法などを研究するラボだ。
複数の木材が1本に圧縮されたり、
スギの葉から樹液を抽出し、圧縮して燃料にする研究までされていた。
今後、木材の常識にとらわれない商品が生まれてくるかもしれない。
こうした活動の甲斐もあって、いまでは、
高山市の小中学生の机は圧縮スギが使われている。
地元の飛騨木工連合会に木材を提供し、地産地消されている。
飛騨の匠の伝統文化と、技術革新が融合することによって、
スギ製品がまだまだ広がる可能性を感じさせてくれる。
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木のある暮らし 岐阜・飛騨産業のいいもの
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飛騨の家具館(飛騨産業)
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