連載
posted:2022.2.28 from:秋田県湯沢市 genre:活性化と創生
PR 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構
〈 この連載・企画は… 〉
秋田県の最南に位置する湯沢市。ここには、「地熱」という自然エネルギーの恩恵を受けながら、
アツく、力強く、たくましく生きる「自熱」を持った地元の人々がいる――。
新しいことがモクモク起きているこのまちの、新しいワクワクを紹介する連載です。
writer profile
Haruna Sato
佐藤春菜
さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。
秋田県の最南に位置する湯沢市は、その名のとおり多くの湯(温泉)が湧き出る、
「地熱」エネルギー豊かな土地。温泉の産業利用に加え、
複数の地熱発電所が稼働する地熱モデル地区にもなっています。
「地熱」豊かなこの地には、アツく、力強く、たくましく生きる
「自熱(じねつ)」を持った人々がいる――。
コロカルでは、湯沢市の「じねつのチカラ」を4回に分けてご紹介してきました。
湯沢市では、その後もモクモクと「じねつ」が湧き上がり、
さまざまな取り組みが行われています。
湯沢市の皆瀬地区には、長年、食堂〈ダムの茶屋〉を営みながら、
〈りんごチップ〉を手づくりする石山研二さん夫妻が暮らしていました。
温泉熱を利用してリンゴを乾燥させたりんごチップは、
石山さん夫妻が自身の手で皮をむき、カットすることはもちろん、
パッケージのラベル一枚一枚を研二さんが手描きするという、
まさに「じねつ」あふれる商品。
ところが2020年冬、湯沢の地を大雪が襲い、ダムの茶屋の屋根が破損。
建物の老朽化もあり、石山さん夫妻は店を閉め、
息子夫妻が暮らす県外へ転居することになりました。
「温泉熱(=地熱)」と、石山さん夫妻の「じねつ」でつくり続けられてきた
りんごチップが、このままでは湯沢からなくなってしまう。
この「じねつ」を、次世代へ引継ぎたい――。
そんなアツい思いで始まったのが、〈りんごチッププロジェクト〉です。
プロジェクトには、湯沢市産のサクランボを地熱で乾燥させてつくった商品
〈ミッチェリー〉を開発した、湯沢翔北高校商業クラブの生徒が参加。
りんごチップがどのようにつくられているかを見学し、
石山さんご夫妻と〈皆瀬地熱利用農産加工所〉を管理する佐藤くみ子さんに、
リンゴのカット方法や乾燥の仕方など、こだわりを教えてもらいました。
りんごチップのこだわりのひとつは、包丁で手切りすること。
最初はスライサーでリンゴをカットしていましたが、
ある日、手切りしたリンゴとスライサーでカットしたリンゴを乾燥機にかけ、
比べてみたところ、違いが出たのだといいます。
「うちのばぁちゃんに、食べ比べさせたのよ。
そうしたら、断然こっちさ(手切りしたほうがおいしい)。
厚くて、かじっているうちに、リンゴの味がするって」と研二さん。
実際、道の駅で“手切りした”りんごチップの販売を始めると、
真似をする人が出るほど評判になったといいます。
規格外のリンゴを使用し、来客が少ないため食堂を休業する
冬期に販売を行ってきたりんごチップ。
空気が冷え湿度も低い11月末は乾燥にも適しているそうで、
加工所に泊まり込みでつくったこともあるのだそう。
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一連の加工方法を学んだあとはラベルの授業。
印刷代を抑え、少しでもお客さんが手に取りやすく、インパクトがあるようにと、
研二さんが試行錯誤を重ねて生み出したデザインです。
「手描きだとすれば、なるべく混み入らないもので、短時間でいっぱい描けるもの」
と考えた研二さん。ラベルの黄色い円は奥さんのアイデアだといいます。
「最初は文字だけで、何か物足りないなとは思っていたの。
こうすればどう? って家内のアイデアで、
こうしたっきゃ(黄色い円を追加したら)、すごく派手に明るくなったのよ」
りんごチッププロジェクトを通じて教えたことを、ふとしたときに思い出して、
何か役に立つことがあればうれしいと研二さん。
「スライサーでカットしたものより、手切りしたりんごチップのほうが
うめえしゃ(おいしい)と誰かが気がつけば、断然手切りしたほうが売れるようになる。
だから私たちが(りんごチップづくりを)やめても、
“手切りした”りんごチップをつくる人が増えてもらえればと思うな。
めんどくさいと思わねぇで、誰かつくれ!」と笑います。
一連の工程や石山さん夫妻のアツい思いを学んだりんごチッププロジェクト。
この取り組みをより多くの人に知ってもらおうと、
秋田市では『あちちの地展』を開催しました。
会場には、来場者がりんごチップのラベルを描く体験コーナーを設置。
参加者が描いたたくさんの手描きラベルが、研二さんの写真の周りを彩りました。
また、名古屋と東京でも、湯沢の特産品を販売する
「ゆざわフェア」に合わせ、プロジェクトを紹介。
東京では、映像の上映やパネル展示が行われたほか、
佐藤さんがつくったりんごチップに、
商業クラブの生徒が描いたラベルを貼った商品の販売も行われました。
りんごチッププロジェクトに参加した湯沢翔北高校商業クラブでは、
今後、春・夏にミッチェリー、
秋・冬にりんごチップをつくっていきたいと考えています。
石山さん夫妻のアツい思いは、きっと湯沢の地で受け継がれていくことでしょう。
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2021年10月~11月に実施された
「あちちの地 謎解き冒険ラリー in ゆざわ」も、
湯沢でモクモクと湧き上がった、アツい企画のひとつ。
8つの観光スポットに隠されたキーワードを探し出し、
専用のLINEに入力すると、その場所にまつわる「謎」が出題され、
謎解きをしながら巡るというこのツアー。
温泉熱のパワーを感じられる「小安峡大噴湯」や、
地熱エネルギーを利用した乳製品を販売する〈栗駒フーズ工場 cowbell店〉、
スコップを使い自分で川原を掘って足湯をつくることができる「川原の湯っこ」など、
「地熱の力」を感じられる場所を楽しみながら周遊できるイベントです。
企画に協力したのは、湯沢市の旅行会社〈旅のわツアー〉の代表・齋藤あゆみさん。
「点在する湯沢の観光名所を、遊びながら巡ってもらおう」と、
「謎解き冒険ラリー」を実施ました。
秋田県にかほ市出身で、2020年に旅のわツアーを立ち上げた齋藤さん。
「秋田の人と、外の人をつなぐ何かがしたい」と、
「旅」を通して人とのつながりを構築してきた自身の経験から、旅行会社を設立。
地域おこし協力隊として働きながら起業できる場所を探し、出合ったのが湯沢市でした。
「湯沢は、漆器や発酵、温泉といった伝統産業の事業者さんが多く、
その多くが熱意をもっていることが魅力だと思っています。
ツアーやイベントを通して、その魅力を伝えるきっかけを
つくっていきたいと思っています」
「じねつ」あふれる「人」が湯沢の魅力と話す齋藤さん。
特に、「守るべき軸はぶれずに、常に新しい挑戦をしている事業者」に
魅力を感じるといいます。
たとえば創業以来160年以上、伝統製法で味噌・醤油を天然醸造する〈石孫本店〉。
伝統を守りながらも、コラボ製品の開発や、見学蔵の整備、
オンラインイベントの開催などに挑戦しています。
これまで「じねつのチカラ」でも、そんなアツい人たちを紹介してきました。
何より、コロナ禍でも生産者を巡るオンラインツアーを企画し、今後も、
「地域の人と外の人が密に関われるツアーをつくっていきたい」
という齋藤さんも、「じねつ」あふれる湯沢人。
「地域と、地域外の事業者さんの間に私が入ることで、
地域の人たちにとって、よりプラスになる機会にできたらと思っています。
新しい価値をつくることに抵抗心を持つのではなく、
楽しいと思って継続できるようになってほしい。
新しい挑戦や活動をつくることを楽しめる人たちが増えれば、
地域ももっと活性化すると思うんです」
「じねつ」の力でますますアツい秋田県湯沢市。
温泉、発酵、漆器といった、昔ながらの伝統産業が新たな挑戦をすることに加え、
じわじわとエネルギーあふれる活動が広がっています。
今後も湯沢の「熱」にアツい視線が集まりそうです。
information
旅のわツアー
Web:旅のわツアー
information
地熱モデル地区PROJECT
Web:地熱モデル地区PROJECT
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