連載
posted:2021.1.20 from:秋田県湯沢市 genre:活性化と創生
PR 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構
〈 この連載・企画は… 〉
秋田県の最南に位置する湯沢市。ここには、「地熱」という自然エネルギーの恩恵を受けながら、
アツく、力強く、たくましく生きる「自熱」を持った地元の人々がいる――。
新しいことがモクモク起きているこのまちの、新しいワクワクを紹介する連載です。
writer profile
Haruna Sato
佐藤春菜
さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行う。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。
photographer profile
Kohei Shikama
志鎌康平
しかま・こうへい●1982年山形市生まれ。写真家小林紀晴氏のアシスタントを経て山形へ帰郷。2016年志鎌康平写真事務所〈六〉設立。人物、食、土地、芸能まで、日本中、世界中を駆け回りながら撮影を行う。最近は中国やラオス、ベトナムなどの少数民族を訪ね写真を撮り歩く。過去3回の山形ビエンナーレでは公式フォトグラファーを務める。移動写真館「カメラ小屋」も日本全国開催予定。 東北芸術工科大学非常勤講師。
http://www.shikamakohei.com/
秋田県の最南に位置する湯沢市。
山形県と宮城県に接し、その県境は国内でも有数の地熱地帯です。
湯沢市の大地をつくりあげたマグマは、いまも「見えない火山」として活動を続け、
観光や産業に生かされています。
湯沢市には、「地熱」という自然エネルギーの恩恵を受けながら、
アツく、力強く、たくましく生きる「自熱」を持った地元の人々がいる――。
新しいことがモクモク起きているこのまちの、新しいワクワクを紹介していきます。
「地熱のまち」湯沢の代表的な温泉郷「小安峡温泉」がある旧皆瀬村地域では、
1970年代から当時の村長の働きかけもあり、地熱の恵みである温泉の産業利用が盛ん。
野菜などの乾燥や、三つ葉やパクチーのハウス栽培、
暖房、融雪などに活用されてきました。
日本で初めて温泉熱を利用して低温殺菌処理をし、
牛乳やヨーグルトを製造販売する〈栗駒フーズ〉もそのひとつ。
1987年に地熱エネルギー利用モデル事業として認定を受け、
小安峡温泉に製造工場を構えています。
栗駒フーズの創業者・高橋惇さんはもともとは酪農家。
自らも乳製品の製造・販売を始めようと機械設備を導入する際、
ほかと差別化を図るために地元の資源である温泉を生かそうと考えました。
「高温殺菌よりコストも時間もかかりますが、低温殺菌することで
味も成分も生乳に近い状態の牛乳やヨーグルトをつくることができます。
製法も味も特徴ある商品が生まれたんです」と、栗駒フーズの井上幸子さん。
ヨーグルトは酸味を出さないために発酵温度を36度に統一。
瓶詰めの前にひと晩寝かせるというひと手間をかけ、
よりおいしい商品づくりを目指しています。
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栗駒フーズの工場内では、さまざまなものに温泉熱・温泉水が利用されています。
温泉熱は施設の暖房、融雪、保冷庫の保冷に活用されるほか、
温泉水はタンクやパイプ、瓶の洗浄にも利用されています。
熱交換したあとの温泉水を使用すると、機械の金属の傷みも少ないのだそう。
地熱の力で、地球にも体にもやさしい商品を生み出している栗駒フーズ。
本社工場敷地内ほか、湯沢駅近くと秋田ふるさと村(横手市)に直営店を構え、
商品は通販でも購入可能です。
皆瀬地域には、温泉熱を使い乾燥チップ野菜を生産する
〈皆瀬地熱利用農産加工所〉もあります。
大根、りんご、カボチャなど、地元産の野菜を約90度の源泉で湯がき、
50~60度の熱風で乾燥させる施設です。
湯沢市内の高校生も乾燥施設を利用。
地域の特産物を活用した商品開発を行っている〈湯沢翔北高等学校商業クラブ〉は、
湯沢市産のサクランボを地熱乾燥した商品〈ミッチェリー〉を開発しました。
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地熱の恵みである温泉の産業利用に加え、
1994年に〈上の岱(たい)地熱発電所〉、
2019年には、国内4番目の規模を誇る大型の地熱発電所
〈山葵沢(わさびざわ)地熱発電所〉が湯沢市で運転を開始しました。
JOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)による
地熱モデル地区にもなっています。
発電力は上の岱地熱発電所が2万8800キロワット、
山葵沢発電所が4万6199キロワット。
合計で一般家庭約14万世帯分の消費電力に相当します(湯沢市の世帯数は約1万5000。
地熱は電力化され、東北電力に売電されています)。
さらには2025年に小安地域で〈かたつむり山発電所(仮称)〉、
2029年に木地山地域で〈木地山地熱発電所(仮称)〉が運転開始を目指し、
また矢地ノ沢地域でも民間事業者により開発調査が行われるなど、
こうした地熱発電所の開発が「地熱のまち」として注目される所以でもあります。
「発電所ってすぐなくなるものではない、何十年もその地で運転していくものなので、
地域の方の理解や協力がないと難しいんです」と話してくださったのは
湯沢市役所の小山貢さん。
「地熱発電では、大量の蒸気と熱水を地下から取り出して、
発電後、地下にまた戻すのですが、温泉に影響があるんじゃないかという声もあって、
反対されている地域もあるんです」
湯沢市では開発の際、地域の理解を深めるため、
住民、温泉事業者、自然保護団体、地熱の専門家などがメンバーとなる
〈地熱資源活用協議会〉を設置。
市民向けの講演会や見学会も実施していますが、開発が順調に進んでいるのは
「過去の成功体験が大きい」と小山さんは話します。
「湯沢で一番最初に運転を開始した上の岱発電所開発の際、
その事業者がとっても住民との話し合いを大事にして、
理解を求めながら進めてくれたんです。
事業者の方たちが地域住民の行事に参加してくれたり、協力してくれたりもして。
上の岱発電所が完成したとき、みんなで喜んだんですよ」
「新しい事業者さんもこの事例にならって開発を進めてくれていますし、
完成後も行事に協賛したり、地域の要望や困りごとに力になれればと
言ってくれているので、今後さらに市民に喜ばれるようなかたちで
実現してくれたらなと思っています」
地熱発電は地域の資源を活用し利益を得ているため、事業者は地域貢献が責務。
湯沢では市が橋渡し役となり、地域と開発事業者が理解し合ういいバランスで
「地熱のまち」づくりが進んでいるように見えました。
運転中の発電所と開発地点は「高松岳」を中心に、半円を描くように位置しています。
この高松岳の地下にはかつての火山活動の「熱」が残っており、
小安峡温泉や川原毛地獄を生み出しています。
現在は感染症対策のため休止中ですが、地熱発電所の見学ツアーも実施されています。
地熱の恵みにより生み出される産業。小安峡大噴湯や川原毛大滝湯など、
ジオパークの見どころや温泉とともに巡れば、
湯沢で育まれてきた大地の熱(エネルギー)を感じられるはずです。
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栗駒フーズ工場直営店 COWBELL
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地熱モデル地区PROJECT
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