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阿武町地域おこし協力隊・
藤尾凜太郎さん
全国で山口県に200頭しかいない
「無角和牛」の未来をつくる

新しい働き方がつなげる、やまぐち暮らし
vol.013

posted:2023.2.6   from:山口県阿武郡阿武町  genre:暮らしと移住 / 活性化と創生

PR 山口県

〈 この連載・企画は… 〉  山口県で思い出すものといえば、錦帯橋、松下村塾、ふぐ、秋吉台など。自然や文化遺産、
おいしい食まで、さまざまな魅力が揃っています。そんな山口県には、移住して、新しい働き方を実践している人たちがいます。
「UJIターン」し、仕事と働き方に新しい価値を見いだしている人たちは、みんなワイワイと楽しそう。
仕事がかたちづくる、山口県での生き方と暮らしをうかがいます。

editor’s profile

Mayo Hayashi

林 真世

はやし・まよ●福岡県出身。木工デザインや保育職、飲食関係などさまざまな職種を経験し、現在はフリーランスのライターとして活動中。東京から福岡へ帰郷し九州の魅力を発信したいとおもしろい人やモノを探しては、気づくとコーヒーブレイクばかりしている好奇心旺盛な1984年生まれ。実家で暮らす祖母との会話がなによりの栄養源。

photographer

ヤマモトハンナ

「なにもない」を解決する人間になりたい

山口県北部にある人口約3000人のまち、阿武町。

日本海に面しているので冬は降雪もあるが年間を通して温暖な気候だ。
阿武町は萩市と合わせておよそ50か所に小型火山が分布する
阿武火山群と呼ばれる火山性土壌で、
古くから野菜や穀物、果物などの栽培が盛んに行われてきた。

山口市の中心部から車を1時間ほど走らせると、
緑豊かな山間にある〈無角和種繁殖センター〉に到着する。
そこで地域おこし協力隊として「無角和牛」に携わるのは藤尾凜太郎さんである。

無角和種繁殖センターの入口では牛が彫り込まれた巨大な看板が出迎える。

無角和種繁殖センターの入口では牛が彫り込まれた巨大な看板が出迎える。

神奈川県出身の藤尾さんは、
阿武町の地域おこし協力隊に着任する前は横浜の大学に通う大学生だった。

幼少期に祖父母の暮らす田舎への帰省や家族と訪れた旅先での思い出から、
生まれ育ったまち以外の地域に対する興味や憧れが芽生えたという。
大学では海外へ日本のよさを伝えたいと語学やまちづくりを学べる学科を選び、
4年次は地理学を専攻した。

「旅行や在学時のフィールドワークで地方を訪れたとき、
自分の知らない日本がまだまだ沢山あることに気づきました。
同時に、訪問した地域の人たちが『なにもない所によく来たね』と言うんです。
それがすごくもったいない。
『なにかある』と思って訪れているのに
『なにもない』と地元の人が突き返してしまうミスマッチ。
謙遜なんかいらないと感じていました。
もっと自信を持ってもらうには、
その地域をおもしろがる若者が必要なのではないだろうか。
将来、その『なにもない』を解決する人間になりたいと思っていました」

さらに、同級生が学校を休学して地域おこし協力隊の活動を始めたことも、
進路を考えるうえで大きなきっかけになったという。

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地域おこし協力隊で大切なマッチングとは?

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明確なミッションと将来のビジョン

現在、阿武町へ移住して4年目となる藤尾さん。
社会人1年目で縁もゆかりもない土地への移住は、それなりの覚悟が必要だろう。

令和3年度には全国で6000名を越えた地域おこし協力隊員。
移住先の地域でどのような活動を行うか、移住前にイメージを掴められるかは重要だ。

「思い描いていた暮らしや仕事と違うということがないように、移住前に自治体やまちのことをよく調べ、関係者と直に会話するのが重要」と話す藤尾さん。

「思い描いていた暮らしや仕事と違うということがないように、移住前に自治体やまちのことをよく調べ、関係者と直に会話するのが重要」と話す藤尾さん。

藤尾さんが阿武町を選んだ理由のひとつに人口規模をあげる。

「地域おこしの事例を見ていて、比較的人口が多いと
仕事の成果が部署内で完結しがちです。
人口が5000人以下だと成果が住民にも伝わりやすいということがわかりました」

在学時にフィールドワークで調査したまちの規模と
そこで行われる活動の成果について独自に分析したという。

さらに重要だったのは、個人のミッションとまちのビジョンだ。

「当時、阿武町が募集していたのは、漁業と無角和牛の振興、
開業を控えたキャンプ場〈ABU キャンプフィールド〉の運営といった職務でした。
そこには具体的なミッションと、
まちとして『地域内循環を目指す』という明確な方向性が打ち出されていました」

当時、インターネットで地域おこし協力隊の募集要項を検索・閲覧していた藤尾さん。
「自治体によっては“市のPR”といったふわっとした言葉で
具体的な仕事内容がよくわからないものもあった」と振り返る。

その点、阿武町にはまちが描く将来のビジョンが明確に感じられ、
共感できたという。

さらに生活面でも阿武町は海に近く、
釣りが趣味だという藤尾さんにとって、自分らしい暮らしもできるように思えた。

条件の合う自治体を見つけた藤尾さんは、何度か現地を訪れて町の関係者と対話を重ね、
最終的に阿武町の地域おこし協力隊への着任を決めた。

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日本に200頭しかいない和牛とは?

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阿武町で生まれた希少な無角和牛

藤尾さんはいくつか候補のあった任務から無角和牛の振興を選んだ。

「魚が好きなので漁業も考えましたが、
せっかくならまったく関わったことのない
無角和牛がおもしろそうだと思い、希望を出しました」

和牛のなかでも0.01%しかいない最も珍しい無角和種。在来和種にアバディーン・アンガス種をかけ合わせた品種で、大正9年(1920年)から本格的な品種改良が始まった。

和牛のなかでも0.01%しかいない最も珍しい無角和種。在来和種にアバディーン・アンガス種をかけ合わせた品種で、大正9年(1920年)から本格的な品種改良が始まった。

そもそも無角和種とは、日本を代表する和牛の1品種。
日本で和牛の登録事業が始まった1920年、無角和種も交配されて誕生した。
和牛は黒毛和種が全体の98%を占め、“あか牛”と呼ばれる褐毛和種、
日本短角種など合わせて4品種が和牛として認められている。
無角和牛は、4品種のなかで最も希少で、
全国をみても山口県のみで約200頭しか飼育されていない。

大正時代に役・肉・乳の3用途を兼ねる牛を理想として、改良が進められた無角和牛。
農家では無角和牛が一家に一頭、畑を耕す役牛として活躍し、
その角のない温厚な性格がかわいがられ家族のように大切にされたという。

昭和に入ると「無角和種」が正式に固定品種として認められ、
阿武町では食肉用としても生産を増やしていき
一時は黒毛和種よりも高値で取引されたのだそう。

だが、時代や市場の変化には抗えず、赤身肉の需要は減っていった。
「売れなければ途絶える」という状況が常に目の前に迫るなか、
阿武町は100年もの間、希少な種を守り継いできた。

昭和40年(1965年)を過ぎた頃から消費者の嗜好が霜降り肉へと移り、牛肉の輸入自由化も重なり生産が低迷していった。

昭和40年(1965年)を過ぎた頃から消費者の嗜好が霜降り肉へと移り、牛肉の輸入自由化も重なり生産が低迷していった。

そのような歴史ある無角和牛を守り、
次世代に引き継いでいくためにもビジネスとして成り立たせることは必須だ。

藤尾さんは着任後、無角和牛のPRのためさまざまな活動を行ってきた。
まず注目したのは牛肉の販売方法だ。

赤身が自慢の無角和牛は、
霜降り肉より水分が多く火が入りすぎるとかたくなる。
分厚く切ってステーキで食べるのに適していると知った藤尾さんは、
それまで焼き肉用として販売されていた冷凍薄切り肉を
ステーキ用のブロック肉販売に切り替えた。

肉厚の無角和牛のステーキを焼く藤尾さん。肉質に合った調理方法をシェフから教わり、黒毛和牛とは異なる赤身肉ならではの魅力を伝えている。(写真提供:阿武町役場)

肉厚の無角和牛のステーキを焼く藤尾さん。肉質に合った調理方法をシェフから教わり、黒毛和牛とは異なる赤身肉ならではの魅力を伝えている。(写真提供:阿武町役場)

それまでは地元住民も無角和牛の真のおいしさに気がついていなかったという。

まずは身近なところから再認識してもらおうと、
阿武町内で開催されるイベントで試食会を実施したり、
婦人会や子供会で料理教室を開き、よりおいしく食べられるレシピを紹介した。

婦人会での料理教室の様子。みなさん真剣に聞き入る。(写真提供:阿武町役場)

婦人会での料理教室の様子。みなさん真剣に聞き入る。(写真提供:阿武町役場)

「町内のイベントでステーキを焼いて食べてもらうと
『おいしいじゃない』『これは価値があるんじゃないか』と
徐々に無角和牛のよさをわかってもらえるようになりました。
するとレストランから扱ってみたいとか、
各方面から問い合わせが入るようになってきたんです」

売り方を変え、食べ方を提案することで地域の人たちの意識を変えていった。

「帰省する家族に無角和牛を食べさせてあげたい」と
町内の人が買ってくれることも増えたという。
それは料理教室などを通じて知り合った人が周りに伝えてくれたからにほかならない。

さらに無角和牛のブランド価値を高めるために、
利益はあってないようなものだったという以前の販売価格を見直し、
段階を踏んで上げることもできた。

「山口県にしかいない無角和牛を、
なんで誰も積極的にPRしてこなかったんだろうと思っていましたが、
だからこそ可能性があっておもしろい。
僕が阿武町のためにできることを全部やろうと思いました」

無角和牛の見学ツアーで自作のパネルを使って丁寧に説明する藤尾さん。

無角和牛の見学ツアーで自作のパネルを使って丁寧に説明する藤尾さん。

さらには町外、県外へのアプローチも進める藤尾さん。

旅行者向けに企画したツアーも人気だ。
ABUキャンプフィールドでは、2022年3月の開業から
「幻の和牛、無角和種に会いにいこう。無角和種堪能ツアー」を実施している。
藤尾さんが肉の焼き方講座を行い参加者がバーベキューで実践する。
加えて無角和種繁殖センターを訪れて無角和牛の育つ環境を見学できるのだ。
ツアーを開催してからは直売所で販売する
高価格帯のブロック肉の売り上げが増えたという。

道の駅や販売店、飲食店などに配布している『無角和牛通信 vol.02』。

道の駅や販売店、飲食店などに配布している『無角和牛通信 vol.02』。

「無角和種誕生100周年を記念した冊子を制作したり、
ホームページなどのウェブ媒体を整えています。
町内への認知は上げることができたので
今後はいっそう、町外や県外へのアプローチを強化していく予定です」

今でこそ自信を持って説明する藤尾さんも、当初は戸惑うことばかりだった。

「そもそも何も知らない業界。
牛の寿命も知らなかったので、勉強するしかない。
未開拓の領域に適応していくのは大変でしたし、
生きものの命を無駄にしたくないというプレッシャーはすごくありました」

アウトプットを繰り返して経験を重ね自分のものにしてきたことが、
藤尾さんの牛と接する姿勢や真面目な語り口から伝わった。

牛の健康を第一に、栄養バランスを考え配合された穀物と繊維質が豊富な牧草が与えられる。

牛の健康を第一に、栄養バランスを考え配合された穀物と繊維質が豊富な牧草が与えられる。

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ローカルに必要なのはどんなプレイヤー?

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地方をおもしろがる若者が必要だ

新卒で飛び込んだ阿武町は、ふたを開ければ「予想以上にうまくハマった」と笑顔で応える藤尾さん。

新卒で飛び込んだ阿武町は、ふたを開ければ「予想以上にうまくハマった」と笑顔で応える藤尾さん。

まちの住民に「過去のもの」と認識されていた無角和牛は、
ひとりの若者を起点に「地域の宝」として再び輝き始めた。

藤尾さんは、地域おこし協力隊の任期を2023年3月末で終える。

海沿いにある釣りのできるお気に入りの生活拠点はそのままに、
今後も阿武町で、無角和牛はもちろん活動範囲を拡大していくつもりだ。

阿武町に暮らす人々にとって、無角和牛は特別な存在。ゆったりと草を喰む牛の姿が見られるのは阿武町ならではの風景だ。(写真提供:阿武町役場)

阿武町に暮らす人々にとって、無角和牛は特別な存在。ゆったりと草を喰む牛の姿が見られるのは阿武町ならではの風景だ。(写真提供:阿武町役場)

地域おこし協力隊での自身の経験を振り返りながら、
「日本にはもっと地方をおもしろがる若者が必要だ」と明言する。

「僕は、阿武町がおもしろいんです。阿武町が好きだから貢献したい。
地域おこし協力隊は自由度があるからこそ難しい面もありますが、
自分のためではなく『まちのために何ができるか』を考えられる人が
地域おこし協力隊に向いていると思います。
『なにもない』や『できない』を解決するプレイヤーがもっと増えるといいし、
そういった人を育てていけたらと思います」

地域にゆったりと腰を下ろし、冷静に物事を見すえる
藤尾さんの姿がどこか温和な無角和牛と重なった。

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無角和牛

Web:無角和牛

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日程:2023年3月12日(日)13:00~

会場:東京交通会館3F グリーンルーム

住所:東京都千代田区有楽町2-10-1 

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