連載
posted:2023.2.27 from:山口県大島郡周防大島町 genre:暮らしと移住 / 活性化と創生
PR 山口県
〈 この連載・企画は… 〉
山口県で思い出すものといえば、錦帯橋、松下村塾、ふぐ、秋吉台など。自然や文化遺産、
おいしい食まで、さまざまな魅力が揃っています。そんな山口県には、移住して、新しい働き方を実践している人たちがいます。
「UJIターン」し、仕事と働き方に新しい価値を見いだしている人たちは、みんなワイワイと楽しそう。
仕事がかたちづくる、山口県での生き方と暮らしをうかがいます。
writer profile
Mayo Hayashi
林 真世
はやし・まよ●福岡県出身。木工デザインや保育職、飲食関係などさまざまな職種を経験し、現在はフリーランスのライターとして活動中。東京から福岡へ帰郷し九州の魅力を発信したいとおもしろい人やモノを探しては、気づくとコーヒーブレイクばかりしている好奇心旺盛な1984年生まれ。実家で暮らす祖母との会話がなによりの栄養源。
photographer
ヤマモトハンナ
リモートワークやテレワークという言葉は今や日常的に使われるようになった。
実際に、ネットワーク環境さえ整っていれば働けるという職種も少なくない。
東京・代々木に本社を構える〈株式会社モノサス〉は、
Web制作事業を主にマーケティングやプランニング、
デザイン、コーディング、運用などを行うIT企業である。
2017年、取締役副社長の永井智子さんが東京から山口県の周防大島町に移住し、
徳島県の神山町に続くふたつめのサテライトオフィスを開設した。
永井さんは島ではどのような働き方、暮らし方をしているのだろう。
周防大島町は青い海に囲まれ、平均気温15℃ほどという年間を通して温暖な気候だ。
モノサスのサテライトオフィスがある地家室(じかむろ)は
周防大島町の中心部から離れた南の沿岸部に位置する。
オフィス周辺に到着すると永井さんが出迎えてくれた。
「目印になるものはコカ・コーラの自販機です」
この地区唯一の自販機を曲がった突き当たりの木造の建物が
モノサスのサテライトオフィスだ。
オフィスに改装した古民家はもともと永井さんの母親の生家だった。
東京と変わらない快適なネット環境を整えたオフィスで、
現在4名の仲間と日々仕事に励む。
「主にホームページを制作する会社で、
私はWebディレクターとして各スタッフにデザインやコーディングの指示、
プロジェクトの進行状況を管理しています。
クライアントによっては週1で打ち合わせをしたり、
メンテナンスやサポートの仕事を行ったりします」
企業のコーポレートサイトなどの制作に関わる業務内容は
東京にいた頃とさほど変わっていないという。
変わったことといえば、打ち合わせの方法。
以前は月に2、3回ほど打ち合わせのために上京していたが、
コロナ禍で東京に行くことは大幅に減った。
「移住して3年くらいは、
東京に行って打ち合わせしないと仕事になりませんでした。
でも最近ではお客さまからリモート会議でお願いしますといわれることも増えて、
環境のほうが変わりましたね」
地方で仕事をする距離的なデメリットが減り、偶然にも時代の流れにマッチした。
永井さんは都会から島へ生活環境を変えて、すんなり地域に溶け込めたのだろうか。
「地域に溶け込むのにハードルは感じませんでした。
閉校した近くの地蔵小学校で祖父母が先生をしていたので、
『先生にお世話になったから』といって近所の方によくしてもらうこともありました。
もう50〜60年も前の話なのにね」
学校の夏休みに遊びに来ていた記憶から、地域での暮らしをある程度は予想できたという。
「インターネット通販で注文すれば、翌々日には届きます。
車の運転は、20年以上ペーパードライバーだったんですけど、
さすがに車を買って練習しました。
最初の1、2年は大変でしたが、Wi-Fi環境はむしろ東京よりもいいし、
不自由を感じることはありませんね」
東京ではほぼ外食だったが、移住してからは自炊が増えたという。
自分たちの畑で育てた野菜や魚屋さんで手に入る新鮮な魚が永井家の食卓を彩る。
「スーパーで食材を買ったり、親戚がお米をつくっているので送ってもらったり。
といっても、ピザもパスタもインスタントラーメンも食べるし、
田舎ならではのメニューばかりでもないですよ」
移住後すぐは新しい拠点整備に大わらわだったそうだが、
今では生活にも慣れ地域に馴染んでいる。
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「農業をやりたかったんだ」
永井さんの夫・泰久さんが発したひと言が周防大島町への移住計画の始まりだった。
永井さんは神奈川県出身で生まれも育ちも関東圏。
移住前は夫婦ふたり、東京で暮らしていた。
夫もサラリーマンとして働き、
東京を離れて地方で暮らすことはまったく考えていなかったという。
しかし永井さんの父親の法事で周防大島町を訪れたときに、
それまで農業のことなど口にしてこなかった夫から初めて
「実はずっと農業をやりたかった」と告げられたという。
「じゃあ、ここで農業をやって暮らすにはどうしたらいいか?」
会社を辞めなければいけないかもしれない。
農業で暮らせるようになるまで、現金収入はどうするか?
永井さんはコンビニでバイトをして生計を立てる算段もしたという。
「私が周防大島町へ移住して仕事を続けたいという話を会社にしたとき、
それだったらサテライトオフィスにするのはどうかという提案がありました。
最初はただ、ひとりでリモートワークをするイメージだったんですが、
周防大島町の役場の方も、
サテライトオフィスにするなら支援ができるとおっしゃってくださったんです。
母の家のリフォームも、オフィスにするのであればと、
県や町の協力を得て補助金を活用することができました」
泰久さんは念願の畑で、みかん、紅八朔(べにはっさく)、伊予柑、
デコポンなどの柑橘系から柿、ビワなどさまざまな果樹を栽培している。
桃の樹も自宅近くで育てているという。
今年はプルーン栽培にも挑戦したと話す泰久さんは
「うまくいくかわからないけど」とにこやかに笑う。
旬になると、畑で採れた果物でジャムをつくるのが永井さんの楽しみのひとつだ。
船が行き交う瀬戸内海を背に、永井夫妻に穏やかな時間が流れるのを感じた。
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「今日は4時に起きて仕事をしました」
フルフレックスタイム制を取り入れているので基本的に出社時間は自由。
忙しいときにはスタッフは夜の9時、10時まで仕事をすることもあるが、
永井さんは夕方6時までには退社するそう。
東京の本社ではまだまだ仕事をしている時間である。
高齢者がほとんどという地家室地区。
近所のおじいさんおばあさんは日が暮れると仕事を終えて、夜は早々に就寝してしまう。
周囲が寝静まると、ときに満天の星空が出迎えてくれるような、
都会では味わうことのできない自然や島の日常と隣り合わせの環境になる。
そういった島のリズムに合わせて、
自分のスタイルを変えていくのもごく自然なことだろう。
永井さんはサテライトオフィス開設から3年ほどひとりで働いていたが、
今は男性1名、女性3名の社員に囲まれている。
東京やタイ支社からの異動に加え地元採用もしている。
今年の春は、新卒者がひとり入社するそうだ。
「開設するときに、5、6人くらいのコミュニティになったらいいなと思っていました。
昨年は地元の高専で技術の勉強をしていた新卒者も採用しました。
東京にくらべて人数が少ない分、良くも悪くも、仕事だけの関係ではなく、
『人どうし』としてのかかわりが増えました。
土日でも顔を合わせることも多いし、買い物するお店の情報交換もする。
職場の仲間でもあり、ともに暮らすご近所さんでもあるという感じです」
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永井さんはこうも続ける。
「移住相談のときに『仕事がないから若者が出て行ってしまう』という話を
町や県の担当者から聞いていました。
でも実際には、求人自体はたくさんあって、人手不足のところも多いのに
『若者が選択しやすい仕事がない』ってことに気づいたんです」
いわゆる名の知れたIT企業や大企業、クリエイティブと言われる職種は
都心に集中している。
だから若者が「憧れる就職先」は地方には見つからず、地元を出て行ってしまう。
若者の「仕事観」と、実際の仕事のあり方のギャップを、
周防大島町に来て実感したという。
「私たちにできることがあるとしたら、
『仕事』を『オフィスビルの中にあるような会社に就職すること』だけと
狭くとらえない、ひとつの例になれることでしょうか。
自分のいる環境で求められていることにチャレンジしたり、
ひとつの仕事で生活費を稼ぐかたわらで好きなことで小さく起業してみたり、
都会ではなかなか想像しづらかった、いろいろなおもしろい『働き方』の可能性が
ここでは発見できると思うんです」
実は永井さんは、周防大島町で働くスタッフのために家を整備している。
「空き家を借り受けたりもらったりして、住めるように改修して社員に貸しています。
今年の春に入る新入社員のためにも、一軒家の2DKを用意しました」
そう話す永井さんだが、当たり前にできることではない。
50〜60年前に永井さんの祖父母から良くしてもらった人たちが
永井さんの移住やオフィス開設をサポートした。
そして今度は、永井さんがサテライトオフィスを起こし、住宅も準備する。
そういう順送りで、仲間が集うのだと感じた。
今は多様なバックグラウンドを持つ人たちがネットワークを活用して
地域や国を超えて働ける時代だ。
この集落には30人ほどしか住んでいないが、
過疎と呼ばれる地域でもそこに柔軟な視点があれば、おもしろい「仕事」が見つかる。
これまでの常識やルールだけで、
暮らす場所や、そこでやれる仕事を決める必要はない。
近所の餅つきにふらっと寄れば、80歳を超えたおばあさんとも友だちになるし、
たくさんのお裾分けで料理をしたり、海で魚を釣って食べたりもできる。
そんな風に暮らしながら、仕事では東京や海外の仲間たちと切磋琢磨し続ける。
「仕事ってどこでもできる」
場所に縛られず働き、働くことにやりがいを感じるために、何を大切にしていくのか。
どこでも仕事ができる時代だからこそ、
何のために働いて、何を大事にして暮らしていくのか、
自分や、大切な人の考えを尊重できる方法を見つけることに
もっと丁寧に力を注ぎたい。
だからこそ、“仕事とは何か”を、柔軟に捉えることも必要になってくる。
永井さんは都会と地方のどちらの利点と欠点も理解しながら、
未来を担う仲間とともに、
広がりつつある新しい働き方・暮らし方を実践している。
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やまぐち YY! ターンカレッジ
山口県の暮らしと仕事の魅力を学ぶ、「YY! ターンカレッジ」。山口に移り住んで、新しい働き方・暮らし方・生き方を見つけた先輩たちと語り合えるイベントです。
第7回「山口とつながる part.3 〜地域に眠る、空き家活用のススメ〜」
日程:2023年3月12日(日)13:00~
会場:東京交通会館3F グリーンルーム
住所:東京都千代田区有楽町2-10-1
Web:やまぐち YY! ターンカレッジ
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