〈ぢぢカヌー〉祖父江健一さんと、
別世界のような
釧路川源流域の川下りへ
屈斜路湖畔で異彩を放つ〈ぢぢカヌー〉とは?
第1回の自然ガイド、片瀬志誠さんに続き、
今回はカヌーガイドの祖父江健一さんに、
日本最大のカルデラ湖、屈斜路湖から
釧路川の源流を案内してもらった。
湖畔の道を車で走っていると、目に飛び込んでくる看板がある。
〈ぢぢ〉。
手づくりの木工にペンキの塗装。かなりいい味を出している。

「祖父江」の最初の2文字からついたあだ名が「じじ」。が、なかには「じじぃ」と呼ぶ人もいて、屋号を決めるときに「ぢぢ」にした。
ここは、カヌーガイドと喫茶の店。
いまから1年前、私が弟子屈に移住したばかりの頃、
カヌーはまちを代表するアクティビティだと知って、
初めて「釧路川源流ツアー」を体験した。
そのとき案内してくれたのが、「ぢぢ」こと祖父江健一さん。

カヌーツアーの集合場所であり、おいしいピザとコーヒーが味わえる喫茶店(不定休)でもある。古民家を自分たちで改装した。
取材を兼ねてもう一度、ガイドをお願いすることにした。
訪ねたのは7月初旬。気温30度近い真夏日が、
突然弟子屈町にやってきたとき(7月の平均気温は16.4度)。
「どうぞ座ってください。ツアーの内容を説明しますね」
祖父江さんはそう言って、1冊の本を取り出す。

妻・直子さんがつくった、ぢぢカヌー虎の巻。店内には、木彫りカヌーのストラップなど、夫婦合作の手づくりアイテムも並ぶ。
中を開くと、これから向かう屈斜路湖の絵が描かれていて、
その上に、小さな木彫りのカヌーを置き、
「井出さんがいて……」とリラックマを、
「私がいて……」と子ブタを、それぞれ乗せて巧みに動かし、
約2時間の行程と見るべきポイントを教えてくれる。

全24ページ。人形劇のように展開する絵本(絵と文・直子さん)を見ながら説明を聞いていると、童心になってワクワクする。
説明が終わると、長靴に履き替えて、
ライフジャケットを羽織って、いざ出発!
店の外に出ると、真っ青な夏の空が広がっていた。
「新緑もいいけれど、6月、7月……と葉っぱが出揃ってきて
うわ〜って緑が増える時期も、すごく好きです」
今日は絶好の“ぢぢカヌー日和”だ。

店から150メートルほど歩いたところが出発地点。ふたり乗りのカナディアンカヌーに、出前用の岡持ち(詳細はのちほど)を積んで。
カヌーには、背もたれつきの椅子とパドルが2本積んである。
いずれも手づくりだ。祖父江さんの特技(ときに仕事)は木工で、
パドルは19年前からつくり始めた。
「ジャパニーズアッシュやヤチダモを使うから、やわらかくてしなるし、
長さやグリップを体に合わせてあるから、使いやすい。
漕いでみると全然違う。自作のパドルは、やさしいんです」

風速は約1メートル、湖の状態は凪(なぎ)。「水の上にちょっと出ただけで、向こうに藻琴山が見えて、空も広〜く感じられます」
私が前に乗り、祖父江さんは後ろで漕ぐ。これが〈おまかせツアー〉。
湖に出ると、ひんやりとした風が吹いて、とても気持ちいい。
「あの木の下に、カワアイサの親子がいますよ」
そう言われて目を向けると、水鳥が列をつくって泳いでいる。
しかもヒナが何羽も!

お母さんの後ろを追いかけていく、10羽以上のカワアイサのヒナたち。早い!「今年はここら辺に、3家族もいるんです」
チャプチャプと水がカヌーに当たる音を聞きながら、
のんびりと漂うように湖の上を進んでいく。
「あれがバイカモ(梅花藻)。切ってしまわないように、
できるだけ流されながら近寄りましょう」
そして目の前に、水草の花畑が広がった。

約80平方キロメートルの屈斜路湖に現れる、直径10メートル程度の群落。「毎年必ず、この場所だけに咲くんです。なんでだろう?」