連載
posted:2021.10.25 from:香川県小豆郡土庄町 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
海と山の美しい自然に恵まれた、瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島。
この島での暮らしを選び、家族とともに移住した三村ひかりが綴る、日々の出来事、地域やアートのこと。
writer profile
Hikari Mimura
三村ひかり
みむら・ひかり●愛知県生まれ。2012年瀬戸内海の小豆島へ家族で移住。島の中でもコアな場所、地元の結束力が強く、昔ながらの伝統が残り続けている「肥土山(ひとやま)」という里山の集落で暮らす。移住後に夫と共同で「HOMEMAKERS」を立ちあげ、畑で野菜や果樹を育てながら、築120年の農村民家(自宅)を改装したカフェを週2日営業中。
https://homemakers.jp/
今年の秋は突然やってきました。
つい数日前まではTシャツ短パンで過ごしていたのに、急に温度がさがって、
ストーブ出さなきゃ、毛布干さなきゃ、フリースどこだっけ? と急いで冬支度。
あらま、もう秋を通り越して、冬? くらいの勢いです。
そんな10月の小豆島。
私たち三村家は、2012年10月31日に小豆島に引っ越してきました。
名古屋でも古い一軒家で暮らしていたのですが、
前日の朝まで徹夜で荷物を詰め込んで、掃除して、
次にその家で暮らす人たちに鍵を渡して。
荷物は引っ越し屋さんが大きなトラックで運んでくれて、
私たちは深夜便のジャンボフェリーに乗って神戸から小豆島へ。
いまどき「ものを持たない暮らし」がかっこいいとされていたりしますが、
私たちは愛する本やおもちゃ、家具を手放せず、丸ごと運んできた感じでした。
三村家の大移動(笑)。
そんな大移動から9年。
今年の10月31日から10年目の小豆島暮らしが始まります。
さて、そもそもどうして私たちは小豆島に引っ越してきたのか。
この小豆島日記でも何度も書いてきました。
記念すべき連載1回目「小豆島日記 vol.001 小豆島の里山から」には、
消費するために働いてお金を稼ぐ、そういう生き方じゃなくて、
生きること自体を働くことにしよう。
暮らしに必要なものを自分たちの手でつくる時間、
ごはんを家族そろって食べる時間を持とう。
と書いています。
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会社で働いて、つまり自分の時間を費やして、その対価としてお給料をもらう。
そのお金で、生活に必要なものを得たり、
さらに欲しいものを買ったり、好きなところに遊びに行ったり。
それはそれで楽しかったし、贅沢だったなぁと思うんですが、
移住前の数年間は何か違うなぁと違和感を感じるようになっていました。
虚しさというか。
稼いで消費する、そうじゃなくて、もっと生み出すことをしたい、
自分の手でつくりたいそんなふうに感じるようになっていました。
小豆島に移住してからは、畑で野菜を栽培し、収穫した野菜や果物で加工品を製造。
とにかく毎日なにかしら作業しています。
その作業が仕事なのか家のことなのか特に意識してなくて、
働くことこそ毎日の生活そのもの。
完全な自給自足をしているわけではないので、
いまでももちろんお金は必要ですし、まちに買いものに行くのは楽しみだし、
どこか遊びにいきたいなーってよく思ってます(笑)。
でもいまは稼いで消費するという感覚はなくて、
というか消費するほど稼げてないという話もありますが(汗)。
つくることや働くこと、暮らすこと自体を楽しめているので、
買うことで満たされることが減りました。
週末にふらふらと買いものに行ったりせずに、家族でさつまいも収穫したりね。
いまはなんでもかんでも買うことができるけど、
ほんとはもっと自分たちの手でつくることができる。
ただつくるためには能力もいるし、時間もかかる。
でもそういう生き方をしたいと思っていました。
生活に必要なものをすべて自分の手でつくることは難しいけれど、
自給自足じゃなくて、「自」が自分ひとりじゃなくて、まわりの友だちや
知り合いまで含めればけっこういけるんじゃないかなと思っています。
小豆島でいうと、島給島足みたいな。
私たちは野菜をつくります。誰かがパンを焼きます。
ほかの誰かが服をつくります、家を建てます、ジャムをつくります……。
気づくと自分たちのまわりには何かをつくったり、
育てたりしている人たちがたくさんいて、
友人がつくったものを食べたり、身につけたりすることが増えました。
知らない誰かがつくったものを買うんじゃなくて、知ってるあの人にお願いする。
そんな暮らしをなるべくしたいなと思っています。
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これが一番うれしいことかも。
小豆島で暮らすようになってからは、みんなでごはんを一緒につくって、
みんなで食べることが日常になりました。
朝ごはんは家族で、昼ごはんは働く仲間と、夜ごはんは家族や友人たちと。
移住する前は、仕事帰りにスーパーでお惣菜や食材を買って、
急いで子どもにごはん食べさせて、
夜遅く帰ってくるお父さんのためにもごはんを用意しておく。
私はこれがとにかく苦手で、楽しくなかった。変えたかった。
そもそも外で働いて、家では家族のごはんをつくって、
洗濯や掃除などの家事もして、子どものこともして、
あれもこれも全部ひとりでやれるスーパーお母さんなんて少ないと思うんです。
くたくたになってしまう。
だから家族で分担したり、近くの友人たちと協力したり、
それぞれが得意なこと、できることをやればいいと思うんです。
家族や友人と台所に並んでごはんをつくり、自分たちが育てた野菜、
友人や知り合いがつくった食材や調味料が並ぶ食卓をみんなで囲むとき、
おいしいなぁ、幸せだなぁと感じます。
いまも小豆島にはいろんな人たちが移住してきています。
人口約2万6000人の小豆島に、その約1%にあたる
250人ほどの人たちが移住してきているそうです。
それでも毎年500人くらい島の人口は減っていて、
いまと同じ状況だとすると10年後には2万人、
30年後、私たちが70代のころには1万人くらいになっているのかもしれない。
事業を起こしたり何か特別なことをしなくても、ただそこで人が暮らしているだけで、
家や畑は荒れず、美しい里山、漁村の風景が保たれる。
楽しく暮らすということが、小豆島の未来につながる。
そんなふうに思いつつ、三村家の小豆島暮らし10年目も続いていきます。
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