連載
posted:2022.2.10 from:埼玉県熊谷市 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
profile
Kazuhiro Hakuta
白田和裕
はくた・かずひろ●1981年埼玉県草加市出身。熊谷にて〈設計事務所ハクワークス〉〈まちづくり団体A.A.O〉、草加にて〈キッチンスタジオアオイエ〉で活動中。大学卒業後、ドイツ・ケルンの設計事務所にて研修し、古いものを生かしたリノベーションの虜に。2016年よりハクワークスとして独立。「空き家にチャンスを。空き家でチャンスを」をテーマに活動中。空き家をシェアキッチン〈デンクマル〉に、空きビルをシェアカフェ〈シェアカフェ★エイエイオー〉に、空きビルの区画をシェアサロン〈みかんビル〉にするなど、“空き家を開き屋“に。建築士が空き家を妄想する不動産サイト『空き家妄想バンク』も展開。まちの旗振り役として地域を巻き込み、“ おもしろい妄想”を繰り広げる。
https://www.denkmal.work/hakuworks
credit
編集:中島彩
埼玉県熊谷市にて、空き家を使った設計、事業の立ち上げや場の運営も行うなど、
“空き家建築士”として活動する、〈ハクワークス〉の白田和裕さんの連載です。
前回から続き、〈原口商店★エイエイオー〉を舞台に、
シェアカフェのオープン後に立ち上がったコロナ禍の飲食店救済企画と、
まちづくりワークショップについてお届けします。
今回は原口商店という場所をつくったからこそ、できることが広がったよ!
というスピンオフ的な回になります。よろしくどうぞ。
2020年1月に〈シェアカフェ☆エイエイオー〉がオープンします。
オープニングパーティーを開催して大きくお披露目をしましたが、
その先にはコロナが待ち受けていました。
ウイルスの影響が出始め、入居が決まっていた3組のうち、2組が辞退。
本業の建築の仕事にも影響が出て、打ち合わせがストップし何も進まない状況に。
空いた時間のなかで、できることを探していました。
一方、草加の〈キッチンスタジオ アオイエ〉の共同経営者である
デザイナーのリッケンは、コロナ禍で困窮する草加市の飲食店を応援したいと、
テイクアウトの情報を集約したサイトを立ち上げていました。
本当に心から尊敬するデザイナーです。
「熊谷でもやりたい」と伝えると、情報とサイトのフォーマットを提供してくれました。
さっそく飲食店の知り合いの店のテイクアウト情報をアップし、
その後は「笑っていいとも」方式で知り合いの店舗を紹介してもらい、
掲載数を増やしていきました。
同時にメッセンジャーグループをつくり、
飲食店コミュニティや人脈の広いローカルヒーローたちを巻き込み、
コロナ禍でどんなことができるか情報交換をする場もつくりました。
オンラインにて、知らない方々ともつながり始めます。
そのなかで気づいたのは、多くの店舗が
一定の金額以上を購入した場合にのみデリバリーをしていたこと。
少額の商品のためにデリバリーをするとお店に負担がかかるのは当然であり、
危機的な状況の飲食店が個々で負っているリスクを
みんなで協力することで分散できればと思い立ちます。
その日の夜にデリバリーの仕組みをつくり、オンライングループにアップしました。
その名も「クーマーイーツ」。テイクアウトサイトのアップから2日後の話です。
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クーマーイーツは初めての緊急事態宣言中の毎週金曜日に行いました。
まず、参加店が提供するテイクアウトのメニューをネットで事前に発信し、
前日までに注文フォームから食べたいメニューを注文するというシンプルなものです。
〈原口商店★エイエイオー〉が拠点となり、
各店舗から集まってきた商品をここから配達していきます。
配達料とサービス料を上乗せして販売し、配達員にも利益を還元していく仕組みです。
そこで、オンラインのグループが本領発揮し始めます。
予約フォームの作成、SNSの発信、顧客の紹介など、得意なことで手助けをしてもらい、
また「配達用の自転車あります!」などの連絡も寄せられ、
みなさんの協力により大きなムーブメントが起こりつつありました。
配達は、バイトのシフトがなくなってしまった大学生が手伝ってくれて、
感染対策をしながら爆走。初回は70食。最後の4回目は500食を販売し、
地域に大きな印象を残していったん終了となりました。
やっててよかったと思ったのは、いままで入ったことのない店の料理を頼めたこと。
これをきっかけに直接店舗に訪れる人がいたこと。
創業120年の和菓子屋さんが、参加してくれたこと。
飲食店のコミュニティができたこと。
僕たちの活動や、原口商店★エイエイオーの認知が広がったこと。
スクラムを組めるラグビータウンだけのことはあるなと思いました。
熊谷市のスローガン「熱いぞ! 熊谷」もとい、「胸が熱いぞ! 熊谷!」
なお、売り上げた金額は、参加してくれた店舗のメンバーとの飲み会で
すべて使いましたとさ!
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話は変わって、2021年の出来事。
シェアカフェの共同経営会社である〈コトラボ合同会社〉の岡部友彦さんより、
新たな協力を依頼されます。
まちづくりをもっと認知させるイベントを企画せよとのことです。
ただ意見交換して終わるのではなく、まちの暮らしを妄想して、
実際のアクションまで参加者とつくり上げていくのがいいね、となります。
その名も「熊谷 街・妄想ワークショップ」。
岡部さんがまとめ役で、僕ら〈A.A.O〉のメンバー4人と
〈08スタジオ〉の八木重朝さん、奈都子さん夫妻が
コーディネーターとなり企画が進みます。
初回の2021年は、30人が
「空き家班」
「ストリート班」
「水路班」の3グループに分かれ、各々のテーマについて妄想していきます。
2021年9月から12月まで、月1回合計4回のワークショップを行いますが、
それ以外でも話し合いを重ね、熊谷のことを良くしたいと、
ときには迷いながら実際のアクションを目指していきます。
実際のアクションでは、以下のとおりになりました。
【空き家班】「元毛糸屋さんをブックアパートメントに!」
元毛糸屋さんの空き家を、
大学生が棚貸しのブックアパートメントにリノベーションしました。
ポップアップだけでなく、いまもブックアパートメントとして続いています。
【ストリート班】「脱他力本願! みんなでクリーンアップ!」
誰かがやるのを待つのではなく、主体的に行動し、まちに根ざす活動に。
デザインされたゴミ袋に回収したゴミを入れて、大きなゴミモンスターをつくりました。
【水路班】「星川に願いを! アンブレラリバー!」
熊谷の中心市街地を流れ、熊谷のシンボルでもある星川。
星川に忘れ物のビニール傘を吊り、願いを書いた星を傘に貼りました。
星型の影が星川に映し出され、子どもたちの願いごとが叶うようにと
みんなでまちなかアートを完成させました。
小学校3年生の女の子から、他県から熊谷に来た女性、
地場企業の方、酒蔵の女将さんまで、本当に多様なメンバー30人が集まりました。
いままで他人だった人が、まるで甲子園を目指す野球部のように、
プロセスからゴールに向けてプロジェクトをまとめ上げました。
最後は達成感もあり、今後も続くコミュニティが生まれていました。
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第2回となる2022年のワークショップは、星川を舞台に
「人が来たくなる星川を妄想せよ!」というテーマになりました。
星川は熊谷駅から約10分の距離で、川の両サイドには
歩道と車道、飲食店や商店などもある魅力的なエリアなのですが、
近年では元気を失っています。
今回のワークショップでは、行政との連携のもと
公共地である道路と水路を利活用する社会実験も含めて行われます。
10月から12月までのワークショップで妄想した意見を、
その後3か月間で実際に試してみるというもの。
新たなメンバーも加入し、妄想甲子園の再スタートです。
下の写真の場所ごとにチームに分かれました。
「ウォーカブル」や「地域との関わり」といったキーワードや、
「トイレがない」とか「来るきっかけがない」
「駐車場が増えてエリアの空洞化が進んでいる」といった
リアルな意見が交差していきます。
地域の重鎮にも話を聞いたりするなかで、
「星川は最後の爆撃地という過去があり、その後、復旧をする際には、
地域の人が集える空間として都市公園の機能も加味されていた」
ということを知りました。あらためて、人がいなくなった星川に
人を集めるきっかけとして、キーワードは「公園化」にまとまります。
道路は歩行者天国とまでは行かずとも、まずは車と人がシェアする道路を目指し、
通り抜けの道路を爆走する車がゆっくり走るように、
ポケットパークの設置が決まりました。
そして、子どもたちが遊べるように各場所のハード面をみんなでつくりながら、
来るきっかけとなるイベントを両輪で回していこうと、
アクション内容がまとまりました。
イベントとしては、以下を計画中。
・星川を彩るソネンライトをつくろうワークショップ
・子どもの思い出を集める体験型ワークショップマルシェ
・誰でも出店者に! 星川フリーマーケット
・星川で乾杯しよう! 星川ビール
2021年12月〜2022年3月に開催予定です。みなさんも来たくなりませんか?
クーマーイーツも「街・妄想ワークショップ」も、
原口商店という場所があったからこそ実現できた企画です。
ここで「星川20年妄想」と旗を振っていたからこそ、
人が集まる場所に育ってきたのかなと思います。
10年前に熊谷に引っ越して来た頃は「熊谷にはなにもない」とよく耳にしました。
いまであれば
「こんだけ熱い想いのある、おもしろい人がたくさんいますよ」
と声を大にして言えますね。
わざわざ東京に行かず熊谷で仕事をしている人や、
なじみがなくても熊谷で子育てする人。
いろんな立場の人がいて、みんなが「おたがいさま」と上手につながれると、
おもしろいことが起きていく感じです。
そして、その“おもしろそう”に引き込まれて、また連鎖していくのかなと思っています。
とにかく、この歳でも友だちが増えており、僕自身とても楽しいです。
そして、20年後はもっと楽しくなっているという自信があります。
どのまちにも「人」という財産がありますよね。
仲間と集まって、自分たちの場をまずはDIYしていくのはどうでしょうか?
みんなでプロセスを楽しみながらゴールを目指す、部活的なちょっと濃いコミュニティ。
いくつもの思い出をタネに、みんなが笑っている暮らし。
それが、僕の日常であり、豊かな暮らしという気がしています。おすすめです!
I LOVE COMMUNITY, LOCAL LIFE.
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星川いこうよプロジェクト
Web:星川いこうよプロジェクト
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