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熊谷〈原口商店★エイエイオー〉中編
シェアカフェから生まれる
新たなコミュニティ

リノベのススメ
vol.234

posted:2022.1.12   from:埼玉県  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

profile

Kazuhiro Hakuta

白田和裕

はくた・かずひろ●1981年埼玉県草加市出身。熊谷にて〈設計事務所ハクワークス〉〈まちづくり団体A.A.O〉、草加にて〈キッチンスタジオアオイエ〉で活動中。大学卒業後、ドイツ・ケルンの設計事務所にて研修し、古いものを生かしたリノベーションの虜に。2016年よりハクワークスとして独立。「空き家にチャンスを。空き家でチャンスを」をテーマに活動中。空き家をシェアキッチン〈デンクマル〉に、空きビルをシェアカフェ〈シェアカフェ★エイエイオー〉に、空きビルの区画をシェアサロン〈みかんビル〉にするなど、“空き家を開き屋“に。建築士が空き家を妄想する不動産サイト『空き家妄想バンク』も展開。まちの旗振り役として地域を巻き込み、“ おもしろい妄想”を繰り広げる。
https://www.denkmal.work/hakuworks

ハクワークス vol.4

埼玉県熊谷市にて、空き家を使った設計、事業の立ち上げや場の運営も行うなど、
“空き家建築士”として活動する、〈ハクワークス〉の白田和裕さんの連載です。

前回に続いて、熊谷市の中心市街地、星川エリアの再生を目指して
生まれたシェアスペース〈原口商店★エイエイオー〉がテーマです。

オープン以降、この場所にシェアカフェの機能が追加され、
さらにコミュニティが広がっていきました。そのプロセスを振り返ります。

熊谷妄想会議

〈原口商店〉という元酒屋の空きビルを
レンタルスペースにリノベーションした〈原口商店★エイエイオー〉。
まちの余白のようなスペースとして、地域の人が気軽に集まれたり、
新たなチャレンジの受け皿になる場所を目指してオープンしました。

運営者である僕ら建築士4人組のユニット〈A.A.O〉も、
この場所でアウトプットを始めるようになりました。
その名も「熊谷妄想会議」。

初イベント「熊谷妄想会議vol.01」。

初イベント「熊谷妄想会議vol.01」。

僕らメンバーの3人が移住組であり、熊谷の外から来た者として、
熊谷の正直なイメージをお伝えするイベント。
人口動態から考える熊谷の未来、僕らが目指す未来、
子どもたちに継ぎたい未来を妄想して発表しました。
いま振り返ると少し挑戦的な内容だったような……。

身内で集まり“やった感”を出さないよう、今回は知り合いには声をかけず、
新規の方を集客しようとSNSで募集を開始。その結果、3人が集まりました。
無名のイベントとしては上出来でしょうか(笑)。

参加者は、またまた建築士! 
建築士の八木重朝さん、奈都子さん夫妻と
原口商店のオープン時に子ども向けの演奏会を開いてくれた方でした。
少ないメンバーだからこそ、みなさんとじっくりお話ができました。
そして、この出会いが、また新たな出会いを紡いでいくことになります。

同じエリアのリノベ案件〈108 ocha stand〉の八木重朝さん、奈都子さん夫妻。

同じエリアのリノベ案件〈108 ocha stand〉の八木重朝さん、奈都子さん夫妻。

ちなみに建築士の八木さん夫妻は、一時は川崎市で事業をしていました。
僕も参加した「リノベーションスクール@川崎」に参加しており、
同じように空き家、空き店舗を使ってまちに開くアクションを計画していました。

その後、Uターンで熊谷へ戻り、設計事務所を開設して、
僕らと同じエリアで空き店舗を自力で開拓し、
〈108 ocha stand〉というお茶スタンドをオープンさせました。
ふらっと立ち寄りたくなる場所として地域に愛されているお店です。
力強い同志ができたことがうれしく、この関係はいまでもずっと続いています。

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まちのイメージを分析すると…

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新たな出会いから次の展開へ

その後、八木さん夫妻から
「おもしろそうな人がいるから紹介したい」と1本の電話が入ります。

そこで紹介されたのが、〈コトラボ合同会社〉の岡部友彦さん。
埼玉県による商店街活性化の事業の請負人として熊谷に着任しており、
熊谷の中心地で行われていたナイトバザールを復刻させ、
「星川夜市」という月一イベントの仕組みをつくられていました。

そして、星川夜市をチャレンジの場として、
地域の人が小商いを始め、その後にお店を持ちたい方に
中心市街地の空き家、空き店舗に入ってもらう導線を引いていきたい、
というものでした。

「星川夜市」は毎月第2土曜日に開催中。

「星川夜市」は毎月第2土曜日に開催中。

ちょうど僕たちも原口商店★エイエイオーを始めてから
次の一手を考えていたタイミングだったので、意見交換の場を設けることに。

現状のまちのイメージとして、双方からこんな意見が出ました。

・熊谷のテナントは家賃相場が高い。

・空き家、空き店舗だとしても、トラブルを懸念して貸したがらない。

・2階がオーナーの住居で1階が店舗の物件は、間取り上、オーナーが貸したがらない。

・かつてはまちが元気でビル型の大きなテナントが多く、工事費がかさむ。

つまり、新規チャレンジがしにくい状況。
空き家、空き店舗を動かしながら、まちの人のチャレンジを
なんとか応援したいという想いをお互い共有できました。
それにしても、お客さん3人のイベントからこんな新たなチャレンジが始まるとは……。

〈コトラボ合同会社〉岡部友彦さん(左から2番目)。ほかの4人はA.A.Oのメンバー。

〈コトラボ合同会社〉岡部友彦さん(左から2番目)。ほかの4人はA.A.Oのメンバー。

その後、岡部さんからあらためて
「原口商店★エイエイオーをスタートアップキッチンとして
シェアカフェをつくり、一緒に進めませんか?」と提案いただきます。

飲食店営業許可を取得したシェアキッチンで、
月曜から日曜の1曜日をお店を持ちたい人に貸し出すスタイル。

冷蔵庫などの設備機器、鍋、お皿などはすべて揃え、
基本的に食材の持ち込みだけで自分のお店を持つことができます。
初期投資がなくローリスクで始められて、出店を繰り返して
お店の顧客を獲得しながら、自信がついたらお店を開店できる。
そんなステップアップの足掛かりとなるキッチンです。

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土曜夜はおしゃべりママのスナック…!

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新生! シェアカフェ★エイエイオー

というわけで、僕たちは新たにシェアキッチンを始めることになりました。
職人さながらにDIYで工事を進め、2020年1月にオープンしました。

建築士ではなく、もはや職人だった時期。

建築士ではなく、もはや職人だった時期。

シェアカフェが完成!

シェアカフェが完成!

無農薬農家さんによるサラダランチのお店、
カメラマンによるカメラ教室+カフェ、
占い師さんによる占いカフェなど先づけで入居が決まります。
しかし、オープン直後からコロナが猛威を振るい、
結果的に金曜の占いカフェのみのスタートとなってしまいました。

その後はトライアルとして1日から出店OKとしたり、
試行錯誤して、現在ではだいたいの曜日が埋まりました。

月:土鍋ごはんの定食屋さん

水:オートミールカフェ

金:占いカフェ

土(夜):おしゃべりママのスナック

日:世界のランチカフェ

ひとつの店舗で毎日違うものが食べられるカフェとして賑わっています。

金曜日の占いカフェ〈むらさき〉。

金曜日の占いカフェ〈むらさき〉。

人が場をつくる

さて、土曜日の夜に入ってくれたスナックのお話です。
子育てが落ち着きつつある主婦の方より
「スナックをしてみたい」と連絡をもらいました。
「自分が楽しく飲める場をつくりたい」という不純(!?)な動機でした。

オープン当初は友だちがお客さん。
ところが、着実にひとり、ふたりと新規のお客さんを増やしていきます。
料理は近隣の飲食店からのテイクアウトがメインで、ママは飲んでしゃべるだけ。
僕もよくお邪魔していました。

ママの気さくなコミュニケーションやポジティブなおしゃべりが心地よく、
男性も女性も楽しめる場所です。コロナの状況を踏まえながら、
オープン以降、お店を開き続けてくれています。

毎週土曜日の夜にオープンするスナック。

毎週土曜日の夜にオープンするスナック。

それだけではありません。違う曜日に新たなお店が入ったときは、
そのママさんが駆けつけて一番目のお客さんになってくれたり、
積極的に宣伝してくれたり。
何も言わずともコミュニティをまとめ上げてくれました。
そのママはいつもこう言ってくれます。

「シェアカフェは私のパワースポット。行くのも楽しいし、
新しい出会いもすばらしい。ここがあってよかった」と。

魅力ある人が場を育て、大きく温かくしていくのがわかりました。
スナックはまちの灯りです(笑)。

新しい挑戦によって、個人の関係人口は大きく増えるはず。
それって人生のなかで大きな財産じゃないかなと思います。
挑戦を応援できる場所をつくり、心豊かで輝く人を増やしていきたいと感じました。

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シェアカフェの収支は…?

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シェアすることの魅力

空き家、空き店舗を貸し店舗にする場合、僕らはニーズを捉えてリノベーションをし、
利用者にとって借りやすい状況をつくります。

例えばシェアスペースにすることで、安い金額で利用できます。
また、日借りや時間借りなど細かく分ければ、さらにレンタルしやすくなります。

そして、シェアキッチンであれば飲食店をやりたい人、
シェアサロンであれば美容系の人というように、
用途の設定次第で興味が近しい人が集まります。
そうすると情報共有が盛んになってコミュニティが生まれやすくなり、
同じ属性が集まるプラットホームとして成り立っていきます。

もちろん利用者同士がうまくつながるような工夫が大切で、
ときには相談にのったり人を紹介したり、
運営者としてちょうどいい具合の“お節介”を考えて実行することで、
コミュニティがさらにしっかりと育まれていくのですが。

話がそれましたが、つまり、シェアスペースでは
新たなチャレンジャーのコミュニティが生まれやすいということ。
僕らのモットーである「空き家にチャンスを! 空き家でチャンスを!」には
そんな意味を込めています。

ちょっとお金の話

原口商店の1階は、相場よりも安く4万円でお借りしています。
僕らの想いを理解してもらった結果です。

シェアカフェの家賃は、平日の1曜日で月額21000円になります。
7曜日が埋まれば、21000円×7日=84000円となり、
夜も埋まれば16万8000円となります。

そこから家賃、光熱費、通信費を引いた差額が収益となり、
内装工事費用も5年以内には回収できる計算です。

またこの場所から、本業の建築設計や工事の仕事につながることもあります。
慈善事業ではなく、ビジネスとして僕たちは空き家の活用をしています。

このビルのオーナー原口さん(右)。僕らの活動に理解を示してくれている。

このビルのオーナー原口さん(右)。僕らの活動に理解を示してくれている。

コミュニティ同士がつながり、大きな循環へ

僕は現在、原口商店★エイエイオーと〈デンクマル〉
そして〈みかんビル〉(こちらは追々ご紹介します)という
3か所のシェアスペースを運営しています。
現在、拠点ごとに分かれていたコミュニティ同士が連鎖的につながり、
互いに行き来する関係ができはじめています。

原口商店2階。シェアアトリエもDIYにて改装した。

原口商店2階。シェアアトリエもDIYにて改装した。

そして、現在は原口商店の2階〜4階をシェアアトリエへと改修しオープンしました。
まだ入居者は揃っていませんが、フットワークの軽い
若手クリエイターが集まってくれたらと思っています。
今後は、例えばアトリエのクリエイターが、1階のカフェの利用者が開業する際の
名刺やロゴを制作する、そんな関係が生まれていったらうれしいです。

また、3つのシェアスペースでイベントを同時開催して回って楽しんでもらったりと、
さらに大きな循環が生まれていけばと思っています。

個人の一歩が大きな車輪になり、連動して
大きくまちを動かしてく未来を妄想しています。

シェアアトリエ始めました!

シェアアトリエ始めました!

次回は、この原口商店★エイエイオーから生まれたイベントや
ワークショップについてご紹介していきます。

information

map

原口商店★エイエイオー

住所:埼玉県熊谷市本町1-222

Web:Facebook

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