連載
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
Kenichiro Nagata
永田賢一郎
ながた・けんいちろう●YONG architecture studio主宰。1983年東京出身。横浜国立大学大学院/建築都市スクールY-GSA修了。2013年より設計ユニットIVolli architectureとして活動の後、2018年より永田賢一郎|YONG architecture studioとして活動を開始。2014年よりシェアスタジオ〈旧劇場〉や設計事務所兼シェアキッチンの〈藤棚デパートメント〉、〈野毛山Kiez〉など自身の活動の場を地域拠点化していく活動をライフワークとして展開。藤棚一番街理事。2020年より長野県北佐久郡立科町地域おこし協力隊兼任、横浜と長野の2拠点での活動を始める。
https://www.yong.jp/
横浜市の野毛山エリアで活動しながら、
長野県立科町で地域おこし協力隊として活動する
〈YONG architecture studio〉永田賢一郎さんの連載です。
立科町にて、空き家活用の促進をミッションに活動拠点をつくるべく、
まちの中心部に空き店舗を見つけたのが前回まで。
今回はその空き物件のリノベーションの過程と、
そこから広がる活動について紹介します。
前回ご紹介した〈藤屋商店〉さんは、築97年と歴史ある建物であり、
まちの中心に位置するため、かつてはまちのみんなが知っている商店でした。
内見させていただくと、当時の様子が想像できる家具や小物がたくさんあり、
移住者である僕にとっては、とても魅力的でどこか懐かしい空気のある場所でした。
なるべくこの雰囲気を壊さないよう、
最小限の手数で活用していくのがよさそうだと思いました。
ただ、こちらの物件の店舗部分には水回りがなく、
トイレも老朽化して撤去された状態でした。
地方では下水道の整備が不十分で、汲み取り式のトイレも少なくありません。
そのため、水回りの工事はコストがかかります。
空き家や空き店舗を活用する際、
「こうした不利な条件をどう捉えるか」が場所づくりのヒントになります。
お金をかけて修繕するだけでなく、現状使えるものから
場所の使い方を考えることで、新しい活用方法が見えてきます。
藤屋さんの場合、徒歩15秒ほどの距離に、ふるさと交流館〈芦田宿〉があります。
なので、トイレを使うなら交流館へ行けばいいのです。
そして、コーヒーが飲みたくなったり、まちについて聞きたいことがあれば、
同じ通りの〈はじまるカフェ〉さんや〈清水商店〉へ行けばいいのです。
建物がすべての機能を備える必要はなく、積極的にまちや周辺環境に頼れば、
不完全な建物は活路を見い出せるし、まちには人の往来が生まれるようになります。
Page 2
次に場所の名称をつけていきます。
立科町には16の区が存在しており、藤屋商店のある地区は「町」区といいます。
町区の中央にある交差点の角地に位置することから、
〈町かどオフィス〉と命名しました。
町かどオフィスの主な役割は、空き家の持ち主と立科町を訪れる人たちをつなぐこと。
そこで3つの機能を設けることにしました。
空き家をどう活用すればいいか、具体的な片づけや改修方法など、
誰に相談したらいいかわからない。
そんな空き家の所有者に向けてここでヒアリングを行ったり、
現地視察をして具体的なアドバイスをします。
逆に空き家を探している町外の方には、所有者を紹介したり、
空き家バンクの登録状況をお知らせしたり。
2面ガラス張りの元店舗だった物件で、気軽に入りやすい構造を生かして、
いつでも相談にのれるよう構えます。
ここで改修計画のある物件の模型を制作したり、簡単な家具などの補修を行えます。
ゆくゆくはまちのみなさんがここでワークショップができるよう、
開放していく予定です。建物の中で活動する様子が通りから見えることで、
活気が感じられるようになればと思っています。
空き家には、廃棄するにはもったいない家具や道具がたくさんあります。
地元の方にとっては、大したことのない代物でも、
移住者や県外から来た人にとっては魅力的に映ることも。
地域の資源を継承するため、回収品を一時的にストック、陳列し、
欲しい人に譲る場所にします。
家に眠る家具たちに興味がわくようになれば、
空き家の掃除を手伝ってくれる人たちを増やすこともできるかもしれません。
こうして企画をまとめたところで、オーナーさんや役場に提案書を持っていき、
無事に承諾を得ることがきました。賃貸契約は立科町とオーナーさんで締結、
協力隊である僕がここの運営をしていきます。
町と一体となり、こうした取り組みができるのも協力隊の魅力です。
Page 3
無事に賃貸できるようになりましたが、工事にかけられる予算はありません。
店内に残った什器を活用し、廃棄予定の什器や家具を
周辺の空き家などから集めることで場所を整えていきます。
大半の作業は掃除になりそうですが、
それが元の場所の魅力を生かすことにつながっていきます。
唯一の工事は、照明の位置を移動し交換したこと。
この町かどオフィス計画では、まちの中央に拠点をつくることで、
賑わいを生み出すことも大きなテーマでした。
閉ざされた空き店舗を開き、明かりを灯すことが重要であり、
電気だけは工夫して明るい印象になるよう計画しました。
Page 4
こうして2020年11月、町かどオフィスが完成しました。
工期は2週間、総工費はなんと総額3万円の超ローコスト改修です。
掃除をして、物を整理して位置や使い方を変えるだけで、新鮮な場所が生まれます。
予算はないが、物や場所はたくさんある。
これが地方の現状であり、地域に沿った提案を模索していく必要があります。
いまある場所や物の価値を再発見し、そのまま活用していく。
これは外部から来た人間だからこそ担える役割かもしれません。
地元の人たちに「いかに身の回りにあるものがすばらしいか」を
伝えていける場所になればいいなと思いました。
完成後、町からの広報やプレスリリースなどの効果もあり、
多くの方々に町かどオフィスのことを知ってもらうことができました。
たびたび人がふらっと立ち寄り、空き家やまちについて相談をしていきます。
時期を合わせて、空き家所有者さん向けのアンケートや、空き家相談会を行ったことで、
「空き家を探している」
「うちの空き家を使えないか」といった問い合わせの頻度が高くなり、
空き家対策は徐々に活発になってきました。
Page 5
とはいえ、恒常的に空き家活用が進む状況をつくるには、まだまだこれから。
この勢いを持続させるために、これからは空き家バンクの制度や補助について、
また具体的な空き家の活用方法や、空き家化するリスクなどを知ってもらうための
取り組みを展開します。活動内容は主に3つです。
いち移住者として僕が自ら空き家を借りて、これから1年かけて改修し、
その後活用しながら物件のスペックを向上させ、
最終的にいまよりいい状態でオーナーさんへ返却します。
移住希望者は「まずは賃貸から」という方が多く、
逆にオーナーさんは物件の賃貸化への抵抗がある方が多いので、
賃貸化のいい活用事例として見せていくことを目指しています。
協力隊は地元の高校で毎年出張講演をしています。
今年は空き家についての授業を年間通じて行うことにしました。
結局、空き家は各家庭の問題です。
若い頃から知ってもらうことで、親御さんやおじいちゃん、おばあちゃんと
話し合いをするきっかけになればと思っています。
町民のみなさん向けに、移住希望者の情報をお伝えする番組をつくりました。
「いったいどんな人が借りたいと思っているのか」
「移住希望者ってどんな人なのか」
興味とともに、不安を抱える町民の方もいらっしゃいます。
そこで、番組として移住希望者の情報を伝えることで、
空き家所有者と移住希望者をつなぐ役割ができたらと考えています。
空き家対策にまつわるタスクは山積みで、これだけでは足りていないのが現状です。
ただ、拠点をつくったことで、動きが活発に、そして多面的になってきました。
場所の力というのは、そこからどれくらいの活動が生まれ、
地域に派生していくかだと思います。
立科町での活動はまだまだ始まったばかりですが、
ぜひ多くの方に興味を持っていただけたらうれしいです。
次回は舞台をまた横浜に戻して、オフィスビルの一角を、
横浜滞在時の住居兼アトリエへ改修したプロジェクトについてご紹介します!
Feature 特集記事&おすすめ記事