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建築家として、“里の公共員”として。
リノベーションだけでない
多角的な空き家活用

リノベのススメ
vol.168

posted:2018.12.21  from:京都府京丹後市  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

Dai Yoshioka

吉岡 大

よしおか・だい●1987年京都府京丹後市生まれ。2016年暮らしのリノベーション〈blueto(ブルート)〉設立。住まいのリノベーション、空き家活用、動画製作を行う。現在移住者向けの住まい(桃山ノイエ、島津ノテラス、甲山ノイエ、島津ノイエ)を運営。ドローンによる空撮を生かした丹後地域発信動画制作などを行う。京丹後市三重森本地区の里の公共員として地域全体のリノベーションを行なう。
http://blueto.jp

blueto建築士事務所 vol.7

2018年6月からスタートした連載も今回で最終回です。
半年にわたり、ご愛読いただきありがとうございました。

今回は、現在挑戦している「里の公共員」という取り組みと、
〈blueto建築士事務所〉の新オフィスのリノベーション、
そしてbluetoの今後のビジョンについてお話しします。

“半公半民”がコンセプト「里の公共員」

建築設計の傍ら、2018年1月より京丹後市大宮町三重・森本地区内で、
「里の公共員」という仕事をしています。

里の公共員とは、少子高齢化、過疎化の進行といった
地域の課題解決や農山漁村再生活動、ローカルビジネスを支援するため、
地域住民や団体と協働しながら長期的に活動する公共的な役割です。

そのコンセプトは、“半公半民”。
地域と関わりを持ち、自らの仕事を持ちながら取り組むということが、
里の公共員のひとつの条件となっています。

つまり僕の場合は、“民”として、空き家の活用やリノベーションといった
blueto建築士事務所の活動をしながら、
“公”の部分で、三重・森本地区の一員となって、地域内にある空き家活用と
移住者の受け入れといった地域活動の支援をしています。

大宮町三重・森本地区にて。

大宮町三重・森本地区にて。

大宮町三重・森本地区は、京都市内と京丹後市をつなぐ、
京都縦貫自動車道の京丹後大宮インターチェンジの付近にあり、
京丹後市の玄関口に位置します。田んぼと川と山に囲まれた地域で、
自然豊かなゆっくりとした時間が流れる地域です。

大宮町三重・森本地区の人口は500名強で、三重森本まちづくり計画などに
地域住民のみなさん自らが参画しています。
京丹後市の中でも移住や空き家活用の取り組みにおいて、非常に積極的な地域であり、
京都府知事が指定する「移住促進特別区域」になっています。

その中で重点を置いているのが、地域全体の空き家を活用して、
移住を促進することです。

少子高齢化が進み、京丹後市の高齢化率は約35%(平成29年統計データによる)です。
自治体の維持自体が困難な地区も出始めており、そのような地域では
空き家が多く存在し、人が寄りつきにくくになっていきます。

地域の衰退は加速度的に進んでいますが、そのような状況を受け入れて、
人口が減っても地方での暮らしが楽しく、
自分らしく生きていけたらいいと僕は思っています。

人口を無理に増やすのではなく、
ひとりひとりが理想の暮らしを実現できる場所をつくり上げることを
里の公共員のミッションとして活動しており、
それはblueto建築士事務所のコンセプト
「暮らしのリノベーション」と同じだと思っています。

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空き家調査の結果は?

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移住促進協議会が発足。チームで空き家調査に挑む

里の公共員が2018年1月にスタートして、まず始めたことは、
大宮町三重・森本地区を知ることでした。
4月までの3か月間、三重森本にどのような地域資源があるのか、
どのような場所があるか、どんな人がいて、どのように暮らしているかを調査して、
地域の課題や活動の輪郭を調べました。

また、里の公共員という存在を知ってもらうために、
僕がいままで行ってきた空き家活用事例を伝えることに専念しました。

既存の組織(三重・森本里力再生協議会)が存在していたので、
行政機関と連携して活動することができました。

また、地域の区長さんの呼びかけにより、各地域より2名の移住支援員さんと
区役員と僕を含む6名で移住促進協議会を発足しました。

移住促進協議会のメンバー。

移住促進協議会のメンバー。

僕が単独で活動するのではなく、地域の組織として
空き家の調査を進めることで、より公共性が高まります。
地域の方に信頼してもらい、自分事として捉えてもらうことが狙いです。

空き家バンクへ掲載し、移住者と空き家をつなぐ

移住促進協議会で空き家の調査を行い、全部で19軒もの空き家が上がってきました。

空き家所有者に対して、現在の用途、空き家の年数、今後の使用用途、
処分意志の有無などの細かなアンケートを実施して、
その中でいくつかの空き家所有者と電話でやりとりを行い、
実際に会って話をすることもできました。

京丹後市への移住希望者は、まず住まい確保のために空き家バンクを閲覧します。
気になる空き家があれば内覧を行い、気に入れば
空き家を購入・賃貸することが可能となる制度です。

「京丹後市 定住空き家バンク」ウェブサイト。

「京丹後市 定住空き家バンク」ウェブサイト。

三重森本地区の空き家所有者さんに空き家バンクへの登録をお願いして、
19軒中、2軒が空き家バンクに登録することができました。
空き家登録をしてくれた所有者さんには
「地域のために使ってもらえるなら協力したい」と言っていただき、心強く思いました。

ちなみに、残りの17軒がなぜ登録できなかったのか。
理由はさまざまで、所有者さんが資産として保有を希望するパターンや、
相続人が多くうまく売却ができないパターン、
空き家に関して特に意識がないといった理由があります。

アンケートの結果、ほとんどは処分なり活用したいという答えでしたが、
実際はなかなか動いてもらえないのが現状です。
地域にひとつでも実例ができれば、今後交渉しやすいはずだと思っています。

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里の公共員1年目の課題と挑戦

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里の公共員1年目の課題と今後の挑戦

里の公共員を始めて約1年が経ち、
空き家活用や移住についてさまざまな課題が出てきました。

1 三重森本地区には店舗や飲食店がない。
移住希望者が視察に来ても、地域に滞在することができず、
じっくりと話ができる場所や、
より深く三重・森本のことを知ってもらうことができない。

2 どの空き家もとても立派な古民家でリノベーションすればいい住まいになりそう。
しかし、空き家バンクの掲載数が現在2軒しかなく、選択肢が少ない。

その課題に対して、移住促進協議会で来年に向けて動き出しました。

まずは、地域を知ってもらうために
地域独自のホームページ(2019年1月に公開予定)を制作すること。
移住希望者にまず三重・森本地区がどんな地域か知ってもらうため、
ウェブサイトから情報発信を行う予定です。

また、地域内で長期的に滞在できるよう、
お試し住宅(2019年4月オープン予定)を設置することにしました。
1か月~1年単位で滞在利用ができ、
その間にじっくり仕事や住まいを探してもらうことが狙いです。

空き家バンクに掲載されている古民家をじっくりと見てもらい、
そこでどのような暮らしができるのか想像してもらえたらと思っています。

三重森本の田園風景。

三重森本の田園風景。

これからさらに活動を盛り上げていくため、
民間としてのblueto建築士事務所が持つ空き家活用のノウハウと、
里の公共員として空き家活用の仕組みを考える地域組織とを
うまく連携させることが重要になってきます。

来年度からは1年目の活動をより具体的に動かすべく、
サテライトオフィスで有名な徳島県神山町のように、空き家を使った企業誘致や、
田舎で自分のやりたい暮らしが実現ができる体制づくり、
そして意識共有を行なっていきたいと思います。

それには住まいの整備(空き家活用のノウハウ)が必要不可欠になるため、
建築設計事務所としてbluetoとの連携もより強くなっていくと思います。

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築145年の古民家をリノベーション

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blueto新オフィス〈弥榮之家〉 がオープン

2018年10月、bluetoはいままでのシェアオフィスを出て、新事務所に移転しました。

新たな事務所は、築145年(明治6年)の古民家です。
住居兼事務所としてリノベーションを行い
〈弥榮之家(やさかのいえ)〉と名づけました。

名前の由来は、京丹後市弥栄町(やさかちょう)という地名からもらいました。
さらに、弥栄が「一層、栄える」という意味を持つので、
bluetoが移転してさらに発展したいという思いも込めています。

着工前の古民家。

着工前の古民家。

この物件は、主屋とは別に、離れと蔵が2棟あります。
主屋の柱や梁といった構造材には、大きく立派な欅や地松など、
いまでは使われることがない貴重な木材が使用してあります。

まずは、主屋を住居兼事務所として稼働させつつ、将来的に離れを事務所、
蔵を展示スペースやイベントなどのシェアスペースにできたらと思っています。

自然素材を取り入れて、築145年の古民家をリノベーション

まずはじめにDIYで解体を行いました。
床下は腐敗していたので、容易に解体することができました。

DIYで解体中。

DIYで解体中。

床下の土間コンクリート打ちと床組はプロの職人さんにお願いして、
残りの部分のリノベーションをDIYで行いました。

当初はすべてプロにお願いすることも考えましたが、予算が限られていたので、
これまで僕が担当してきた物件のように(レストこのしろ土蔵のリノベ)、
大工さんに任せるところとDIYできるところを分けて作業することにしました。

床下補強工事。

床下補強工事。

休日は友人にも手伝いに来てもらい、外壁張りや床貼りなど、
ちょっと高度なDIYを一緒に楽しく行いました。
材料にもこだわり、古民家にマッチする自然素材をできるだけ選定しました。
床板は天然檜フローリングを使用して、壁には漆喰を塗りました。

DIYで施工にかかった期間は1か月半ほど。
日中は通常業務をしているので、体力的に大変でしたが、
自分の手でつくりあげる経験はとてもいい経験になりました。

そして、無事に居心地のいい現代風古民家に仕上げることができました。

天井の大梁。

天井の大梁。

外から見ると普通の古民家ですが、中に入ると吹き抜け天井が広がっています。
立派な地松の大梁や家を支える欅の大黒柱などが目に留まり、
来客される方ほとんどがそれを見て驚かれます。

そして、家の歴史や僕の暮らしのビジョンをひと通り説明して見てもらうと、
納得されたような顔で「こんな家に住みたい」と言っていただけます。

この弥榮之家は、丹後にある典型的な間取りでした。
玄関の横に大きな土間があり(かまどや元牛小屋があった場所)、
その横に田んぼの田の字のように畳の部屋が広がっています。

着工前の平面図。

着工前の平面図。

改修後の平面図。

改修後の平面図。

そんな丹後の典型的な間取りを、
現代の暮らしに合うLDKとしてリノベーションしました。
家事がしやすいようにキッチンや水回りの配置をまとめて、
開放的な縁側とつながったリビング・ダイニングがあります。

土間はそのまま生かして、仕事道具や建築の材料を置いたり、
イベントスペースとしての活用を考えています。
今後はこの事務所兼自宅を、古民家活用のモデルハウスのような
位置づけにしていきたいと思っています。

丹後の心地いい暮らしを、建築を通じて具現化していく

国が地方創生を謳い、インターネット網が広がり、
都市部と地方とで仕事環境の差は埋まりつつあります。

僕はここ1年で新たに10人を超える移住者と知り合いになりました。
生活環境が豊かな地方での子育てや、自分らしい暮らしを目指す人が
丹後に続々と移住してきているのを実感しています。

丹後の風景。

丹後の風景。

サラリーマンを辞めて、blueto建築士事務所を始めてから
3年が経過しました(2018年12月現在)。
こうして事務所もリニューアルして、徐々に空き家活用の実績が増えてきています。

これからも日本の地方では、空き家がどんどん増えていくことは間違いありません。

現在は基本的にひとりでbluetoの活動を行なっています。
前回紹介した動画制作や、里の公共員、建築設計など業務は多岐にわたり、
ひとりでの活動に限界を感じつつあります。
今後、丹後で一緒に空き家活用を盛り上げていく
bluetoの仲間を増やしていくこともひとつの目標にしています。

丹後でみんなが自分らしく、毎日楽しく暮らせる場をつくること。
いつでも「暮らしのリノベーション」がbluetoのテーマです。

空き家活用に興味がある方、丹後での暮らしに興味がある方、
いつでもお気軽に丹後にお越しいただけたらと思います!

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