連載
posted:2018.6.8 from:京都府京丹後市 genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
Dai Yoshioka
吉岡 大
よしおか・だい●1987年京都府京丹後市生まれ。2016年暮らしのリノベーション〈blueto(ブルート)〉設立。住まいのリノベーション、空き家活用、動画製作を行う。現在移住者向けの住まい(桃山ノイエ、島津ノテラス、甲山ノイエ、島津ノイエ)を運営。ドローンによる空撮を生かした丹後地域発信動画制作などを行う。京丹後市三重森本地区の里の公共員として地域全体のリノベーションを行なう。
http://blueto.jp
はじめまして。こんにちは。
〈blueto(ブルート)建築士事務所〉代表の吉岡 大(だい)と申します。
京都府の北部にある京丹後市を拠点に、
建築設計や住まいのリノベーションをする傍らで、空き家の活用や、
動画を使った取り組み、自治体と連携した活動も行なっています。
この連載では、リノベーションを軸に、
「移住」「DIY」「シェアオフィス」「ドローンによる空撮」など、
いろんなキーワードが登場するかと思います。
建築家としてこのまちにできること、
丹後に起こった変化や生まれたコミュニティ、
そこから感じたことをお伝えしていけたらと思っています。
約半年間、どうぞよろしくお願いします。
今回のvol.1では、丹後の知られざる魅力や近年抱える問題、
そしてblueto設立までの経緯と、
空き家をリノベーションした事務所づくりまでをご紹介していきます。
京都といえば、神社、お寺、舞妓さん、伝統的な京町家など、
京都盆地の“古都”なイメージがありますよね。
ところが、僕が住む京丹後市は「海の京都」。
京都府の最北端に位置し、海がとてもきれいで自然が豊かなまちです。
日本海に面する半島のエリアを「丹後半島」と呼び、
京丹後市・伊根町・与謝野町・宮津市のエリアを通称「丹後」と呼んでいます。
京丹後市の中でも、僕が生まれ育った京丹後市丹後町間人(たいざ)は、
漁業を中心とした港町です。実家は海のすぐそばにあるので、
子どもの頃は浜辺で遊んだり、釣りをしたりと、よく海に遊びに行きました。
港を中心に家が段々にひしめき合い、
潮風の香りと穏やかな時間が流れているこのまち並みがとても好きです。
夏には海水浴や釣り、港では花火大会もあり、たくさんの人で賑わいます。
冬はカニ漁が盛んで、旅行客が多く訪れます。
京丹後市と隣接する市町には、観光地である日本三景の天橋立、
伊根の舟屋などがあります。
京丹後市は隣接する7市町(京丹後市、与謝野町、宮津市、
伊根町、舞鶴市、福知山市、綾部市)と協力し合い、
「海の京都」として、食や観光など、地域のコンテンツを打ち出しています。
bluetoは、この海の京都を中心としたエリアで活動をしています。
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僕がbluetoを立ち上げたのは、2016年4月のこと。
京丹後市の高校を出て、神戸にある建築の専門学校に2年間通った後、
大阪の設計事務所に就職しました。
建築の道に進んだのは、ものづくりが好きだったことと、
形が残り、一生一代の買い物である「住まい」をつくるといった、
大きな仕事がしてみたいと思ったからです。
しかし、初めての就職先である設計事務所では、朝から夜中までパソコンの前に座り、
同じようなマンションの図面を書く毎日。
大阪には友だちがおらず、休日になると地元の丹後に帰ることが多くなりました。
そこであらためて知人や家族がいる安心感や自然に囲まれた地元暮らしに魅力を感じ、
就職してから約1年で京丹後市にUターンをすることにしました。
丹後に帰ってからは、地元で総合建設業を営む工務店に就職しました。
そこでは、木造住宅の設計を主としながらも、
現場監督、営業、公共土木、不動産業、福祉リフォームといった
建設業に関わる幅広いジャンルの仕事をさせてもらっていました
(そこでの経験がいまのbluetoの基礎を築いています)。
そんなある日、とある業者さんから「空き家を購入しないか?」と話がありました。
その家は長い間空き家の状態が続いており、
所有者さんはそれが常に気がかりで、手放したいとのことでした。
その話を聞いて以来、辺りを見渡すと、
このまちには多くの空き家があることに気づきました。
放置された空き家は物騒で、まちの景観を損ねています。
実際に、僕の実家の隣家も所有者さんが亡くなられてからは空き家となり、
獣が出入りしたり、外壁や屋根瓦がめくれ道路に落ちるなどして、
いつ家が潰れてもおかしくない危険な状態で放置されています。
そんな光景を間近で見ていると、とても不安な気持ちになります。
そこで、その空き家を自ら買い取り、
自分の手でリノベーションして再生することにしました。
そうすることで、自分が学んできた建築の力を生かして、微力ながらでも、
空き家活用という地域活性化のお手伝いができるのではないかと思えたのです
(この「桃山ノイエ再生プロジェクト」は、vol.2でお話をします)。
このプロジェクトをきっかけに工務店の退職を決意し、
bluetoを設立することになりました。
bluetoのミッションは、丹後の地域資源を活用して、
丹後での暮らしを豊かにすることです。
僕が生まれ育った丹後の景色は、海と空と山の「青色」です。
つまり、blue(ブルー)=丹後なのです。
丹後で事業がしたいと思っていたので、「丹後と」=「blueto(ブルーと)」。
これが社名〈blueto〉の由来です。
bluetoの活動コンセプトは、「暮らしのリノベーション」です。
いつもの風景を違う視点から見る。
時の流れに合わせて、新たな価値を付加させる。
そうすることで、丹後にある「いいもの」を再発見して、
新たなメッセージを打ち出すことを目指しています。
現在は、住まいのリノベーションである「空き家の活用」をメインとしていますが、
家具・プロダクトの企画開発や、
ドローンを使った地域の魅力を発信する動画製作など、幅広く活動しています。
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bluetoは、築130年の古民家の一室をリノベーションして事務所にしています。
この古民家は、もともとは「丹後ちりめん」という丹後地域の伝統工芸の糸屋さんで、
10年間空き家だった物件です。
この空き家の購入を考えていた現在の所有者さんと出会い、
空き家の一部を賃貸させてもらえることになりました。
初めての内覧のとき、家の中は当時の家財が溢れかえり、けっこうな荒れ具合でした。
しかし、この歴史ある古民家をリノベーションして新たな空間として再生できれば、
bluetoの活動拠点としてふさわしい場所になると確信しました。
古民家ならではの大きな欅(けやき)の大黒柱や国産の松の梁など、
いまでは手に入りにくい貴重な木材が多く使われています。
また、木造であれば、悪い箇所を修繕してメンテナンスしながら使用し続けられるので、
コンクリートや鉄骨よりも長く使えるメリットがあります。
そこで既存の柱・梁を生かしつつ、間取りは大きく変えずに、
事務所スペースと打ち合わせスペースに分けることになりました。
既存の木製建具も味のあるとてもいい雰囲気です。
床は畳からフローリングに変更。
照明はライティングレールをつけてスポットライトを並べることで、
用途に合わせて、自由に照明が稼動させられます。
写真の一枚板テーブルは、当時出会った工務店さんの社長と一緒に企画した
無垢一枚板テーブルのプロトタイプです。その後、空き家活用物件には、
木材を使ったインテリアを使用するようになりました。
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bluetoの事務所づくりをきっかけに、この空き家の所有者さんと一緒に、
事務所以外のスペースもリノベーションしていきました。
所有者さんは、この家を丹後の人と情報が集まるシェアスペースにしたいとのこと。
限られた予算の中で、いかに既存のものを生かしつつ、
人が集まれる空間づくりができるか?
そこがリノベーションの重要課題でした。
そこで、自分たちでできる場所は、DIYで進めることにしました。
SNSなどで告知し、地元の社会人や都市部の大学生などが集まり、
シェアスペースのリノベを開始しました。
僕たちは参加者の様子を確認しながら、
丸ノコなど危険性の高い電動工具を使った作業を行い、
大学生や初めての参加者には、塗装やビス打ちなど、
比較的簡単な作業をお願いしました。
そのように作業分担しながら進めた結果、約1か月ほどで、
シェアスペースが完成。地元の人が気軽に集まれて、
都会からも人が遊びに来られる場をつくることができました。
当時は、blueto1社のみでしたが、いまでは建築設計事務所やCGクリエイター、
インバウンド向けの宿泊サポート会社など、次々と仲間が増えてきて、
丹後の人や情報が集まる場所になっています。
このようにして、自らの拠点づくりからスタートしたbluetoの活動。
この事務所の再生をきっかけに、
2016年から多くの空き家のリノベーションを行っています。
空き家のリノベーションは、ただ単に空間を新しくすることが目的ではありません。
工事中はDIYイベントなどを通じて、多くの方が
空き家再生に関わるように計画することもあります。
そうすることで、施主さんや参加者さんにも、
自分も一緒につくり上げたものとして建物に愛着を持ってもらえる。
そして、リノベを行った後には、そこでできたコミュニティや人とのつながりから、
思いがけない展開につながることがあるのです。
vol.2では、空き家のリノベーションを行ったことで、
移住の受け入れの場となった〈桃山ノイエ〉と
〈島津ノテラス〉のケーススタディをお届けしたいと思います。
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