colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

地域のみんなでDIYリノベーション。
昔ながらの定食屋
〈レストこのしろ〉再生物語

リノベのススメ
vol.163

posted:2018.9.21   from:京都府京丹後市  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

Dai Yoshioka

吉岡 大

よしおか・だい●1987年京都府京丹後市生まれ。2016年暮らしのリノベーション〈blueto(ブルート)〉設立。住まいのリノベーション、空き家活用、動画製作を行う。現在移住者向けの住まい(桃山ノイエ、島津ノテラス、甲山ノイエ、島津ノイエ)を運営。ドローンによる空撮を生かした丹後地域発信動画制作などを行う。京丹後市三重森本地区の里の公共員として地域全体のリノベーションを行なう。
http://blueto.jp

blueto建築士事務所 vol.4

今回は、京丹後市丹後町にある食堂〈レストこのしろ〉が
地元住民の手によって蘇ったストーリーと、
移住者のご夫婦が自ら住まいづくりにチャレンジした
DIYリノベーションのケーススタディをお届けします。

海の京都「丹後」の海が一望できる食堂〈レストこのしろ〉

〈レストこのしろ〉は丹後の地元の人に愛されている定食屋さんです。
京都の最北端に位置し、海が一望できる大変魅力的なローケーションにあります。

丹後松島。周りには青い海と青い空と山が広がり、自然豊かな環境。

丹後松島。周りには青い海と青い空と山が広がり、自然豊かな環境。

オーナーはIターン移住者である山本ユミさんと、京丹後市出身の平井宏明さんです。

〈レストこのしろ〉オーナーの山本ユミさんと平井宏明さん。

〈レストこのしろ〉オーナーの山本ユミさんと平井宏明さん。

この店のオススメは、海が一望できるカウンター席です。
6席しかないのでいつも人気で、
カウンターに座ることができたらとてもラッキーな気分になります。

お店の出入り口には、地域の特産物コーナーも設けられています。
お店で使用される食材も地元のものを積極的に採用している、地域に密着したお店です。

営業は、金・土・日・月曜日の週末を中心に行い、
大人数での貸切を受け入れたり、音楽ライブなどのイベントを行ったりと、
場の提供も含めて精力的に運営されています。
また、地域のお弁当の配食サービスも行っており、
いまや丹後町に欠かせない存在になりつつあります。

6月の日・月曜日 4:30~7:00限定「朝陽モーニング」 で見られる景色は最高です。

6月の日・月曜日 4:30~7:00限定「朝陽モーニング」 で見られる景色は最高です。

もうひとつ忘れてはならないのが、レストこのしろのモーニングです。
海が見える丹後ならではの「朝陽モーニング」として、
6月限定で早朝の4時30分から開店しており、
日本海から上がってくる日の出を見ながら、最高の朝ごはんを食べることができます。

近くには、日本の棚田百選に選ばれた「袖志の棚田」があり、
2016年11月に行った「袖志の棚田米をみんなで食べる会」 では、
袖志の棚田の新米と羽釜で炊いたお米を提供して、
多くの方がおいしいお米を食べにレストこのしろを訪れました。

昔ながらの定食屋が閉店の危機に

そんな地域に愛されているレストこのしろですが、
リノベーションする前の2016年12月には閉店の話が出ていました。

以前は地元のおばちゃんたちが運営するレストランであり、
現在と同様、地域に愛されるお店でした。

前オーナーが2016年12月に引退されることが決まっており、
一時はお店を閉める方向に話が進んでいました。
僕も含めて、地元の人々はレストこのしろがなくなることが
とても残念だと思っていました。

そんなとき、当時レストこのしろで働いていた、現オーナーの山本ユミさんが、
寂しがる地元の方たちを見て、この場所がなくなることはもったいないと思い、
前オーナーさんからお店を引き継ぐ決意をされました。

そして、いままでのように地域に愛される雰囲気を残しながらも、
自分たちらしい営業スタイルにチャレンジしたいとリニューアルオープンを計画し、
〈blueto〉がその相談を受けさせていただいたのです。

次のページ
地域のみんなでDIYリノベスタート!

Page 2

みんなでDIY。レストこのしろの再生スタート

もともとの内装は、懐かしい昭和の定食屋で、
壁紙は年季が入って汚れている状態でした。

レストこのしろビフォー。

レストこのしろビフォー。

山本さんからは、せっかくリノベーションするのなら、
きれいにしてお客さんを迎えたいとの要望がありました。
しかし、予算が限られていたという問題があったのです。

そこで考えついたのが、イベント形式でのリノベーション。
いままでレストこのしろを支えてきた地元の人が一緒に楽しみながら
リノベに参加できるように、週末にリノベのイベントを行うことにしました。

結果として、予算削減と同時にリニューアルオープン前から
お店のファンやコミュニティを形成することができました。
イベント参加の募集は、SNSで呼びかけを行ってもらいました。

毎週末、10人前後の地元の方に代わるがわる参加していただき、
みんなで作業して、お昼ごはんを食べているうちに、
初めて会う知らない人でも仲良くなり、参加者の間でも交流が生まれていきました。
関わっていただいた人数は、およそ30~40人にものぼります。

リノベーションについては、「予算」と「一般の方によるDIY」という
2点を考慮して内容を考えていきました。

DIYイベント形式にしたので、初心者でもできる作業を考えました。
既存の壁や天井や床を生かしてペンキで塗装する、その仕上げの作業です。

きちっと仕上げるのではなく、塗りムラやコテ跡が
DIY参加者の思い出になるような現場の雰囲気を大事にしました。

茶色の古い塗り壁も、真新しい白色のペンキを塗ることで、
簡単に明るく、開放的な空間になります。
DIYイベントの参加者さんにも達成感があり好評だったようです。

そのほかでは、余った木の端材を使い、
レジ後ろの壁のアクセントウォールづくりを行いました。

一方で、bluetoが担当したのは、DIYの指導及び工程や安全管理です。
そのほか、冬の海沿いでは潮を含んだ防雨風の音が強いので、
雨戸やサッシ廻りを改修、内部の建具や家具製作を請け負いました。

DIYイベント時のお昼ごはんでは、
リニューアルオープンの新メニュー試食会も兼ねていました。
作業後の心地よい疲労感のなか、海を見ながらの食事は本当においしく、
リニューアルオープンが楽しみで仕方なかったことを思い出します。

レストこのしろのDIYリノベーションは多くの人の協力を得て、
2017年4月に無事リニューアルオープンを迎えることができました。

レストこのしろアフター。明るく清潔感のある仕上がりに。

レストこのしろアフター。明るく清潔感のある仕上がりに。

DIYに関わった人々の間でつながりが生まれ、レストこのしろを中心にして
新たなネットワークが生まれたように感じます。

次のページ
築40〜50年の物件がこんなに!

Page 3

移住夫婦の丹後の暮らし

京丹後市には、若い移住希望者の方が増えてきています。

bluetoでは、京丹後市の移住者に向けて空き家のリノベーションを行い、
住まい環境を整えるサポートをさせてもらっています
(詳しくはvol.2vol.3をご覧ください)。

レストこのしろに続き、移住者のご夫婦による
DIYリノベーションのストーリーもご紹介します。

2016年12月に京丹後市に移住された20代後半のご夫婦は、
その1年後に自分たちが希望する住まいを見つけ、
bluetoに改修の相談を持ちかけてくださいました。
そして一緒にDIYリノベーションをすることになりました。

ビフォー。

ビフォー。

その物件は築40~50年の物件で、増築が重ねられた結果、
いびつな形になっていました。
その結果、雨漏りが起きて、白蟻の被害もあり、床が大きく陥没。
とても使える状態ではない部分もありました。

そこで、ご夫婦と相談をして、増築された箇所は思い切って解体し、
減築することにしました。

解体工事は、業者さんにお願いして、家の一番悪い箇所を撤去しました。
このまま放っておくとシロアリの被害が大きくなりかねません。
あとから増築したものだったので、切り離しは難なく完了しました。

DIYリノベ開始

予算の都合もあり、このリノベーションでの作業のほとんどは
施主のご夫婦が行うことになりました。
私が担当したのは、施工方法の管理・指導と材料手配です。

まずは既存のブカブカしていた床を解体してもらいました。
床板自体が古くなっており、比較的簡単にめくることができました。
このときに壁の一部も腐食していることがわかり、腐食部分は撤去することにしました。

シート張り・床張りの様子。

シート張り・床張りの様子。

床を新しく張ってもらい、キッチン周りの壁については腐食が激しかったので、
新たに壁の下地から直すことになりました。

ここまでの工程のほとんどを施主さんにやっていただきました。
はじめは丸ノコなどの電動工具の使い方に慣れずに戸惑っていましたが、
道具の使い方や安全に使用できるように注意点を説明することで、
徐々に慣れてこられ、施工もスムーズに行えました。

料理好きのご主人とともに、キッチンも手づくり

もともとの計画ではキッチンは既存のものを使用する予定でした。
ところがキッチン自体がとても古く、老朽化が激しいため、
新しいものに入れ替える必要性が出てきました。

ご主人が料理好きなこともあり、キッチンは重要な箇所。
しかし予算は限られています。

そこで、新たにキッチンを買うのではなく、bluetoが持っていた一枚板を加工して、
一からキッチンを製作することを提案しました。

キッチンのビフォー。

キッチンのビフォー。

キッチンのアフター。料理が得意なご主人、自らが制作したキッチンです。

キッチンのアフター。料理が得意なご主人、自らが制作したキッチンです。

一枚板をくり貫き、シンクを入れることでキッチンを製作。
収納は構造用合板を使用して、ご主人にカットと組み立てをしてもらいました。

手づくりのいいところは、スペースに合わせて
自分の思い通りに寸法を決めて製作できることです。
ご主人が料理しやすいように一緒に寸法を考えて製作しました。

施主さんが自ら床板も張りました。

施主さんが自ら床板も張りました。

DIYリノベーション。アフター。

DIYリノベーション。アフター。

このようにして施主自らがDIYすることで、
経済的なリノベーション住宅が完成しました。
かかった期間はおよそ3か月。大工さんの作業代分のコストが削減できました。

次のページ
リノベーションとDIYは相性がいい?

Page 4

DIYリノベーションのメリット

今回ご紹介したレストこのしろと移住者のご夫婦は、
予算の都合上、ほとんどの施工を施主自ら行ってもらいました。

工事はすべてプロに任せることが一般的であり、そのほうが効率的かもしれません。
施工には思った以上に体力が必要ですし、電動工具や高所作業では危険も伴います。

しかしそれ以上に、今回の2件で得たものは大きかったように思います。
DIYリノベーションを通じて、それぞれの施主さんの
丹後での暮らしをより豊かなものにすることができました。

レストこのしろはDIYイベントによってお店の告知を行いつつ、
オープン前から人が集まる場となり、ファンを定着させることができました。

移住者のご夫婦は、自らDIYすることで住まいにより愛着が持て、
自分の使い勝手のいいキッチンをつくり出すことができました。

また、DIYのスキルが上がったことにより、
余った材料でTV台を自作されていたことに驚きました。
家の構造が理解できたことで、今後も簡易的なことであれば
メンテナンスも行うことができます。

空き家をリノベーションすることは、
いまあるものをうまく活用することから始まります。
また、進行中に新たな問題や、思わぬ変更がしばしば発生するため、
その都度、予算に合わせた内容の調整が必要になってきます。
その意味でも、リノベーションとDIYはとても相性のいい組み合わせだと思います。

次回は、セルフリノベーションの後編です。
江戸時代の土蔵を、さまざまな年齢層のリノベ隊が
2年間かけてセルフリノベして再生させたお話をしたいと思います。

information

map

レストこのしろ 

住所:京都府京丹後市丹後町此代994

TEL:0772-76-0837

営業時間:10:00〜20:00

定休日:火・水・木曜

Feature  特集記事&おすすめ記事