連載
posted:2018.8.16 from:京都府京丹後市 genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
Dai Yoshioka
吉岡 大
よしおか・だい●1987年京都府京丹後市生まれ。2016年暮らしのリノベーション〈blueto(ブルート)〉設立。住まいのリノベーション、空き家活用、動画製作を行う。現在移住者向けの住まい(桃山ノイエ、島津ノテラス、甲山ノイエ、島津ノイエ)を運営。ドローンによる空撮を生かした丹後地域発信動画制作などを行う。京丹後市三重森本地区の里の公共員として地域全体のリノベーションを行なう。
http://blueto.jp
こんにちは。京都府の京丹後市にて、建築設計やリノベーション、
空き家の活用などを行っている〈blueto建築士事務所〉の吉岡大です。
vol.2では、僕がサラリーマン時代に始めた空き家活用の事例として
〈桃山ノイエ〉と〈島津ノテラス〉を紹介しました。
この2軒を経て、空き家が移住者の受け皿として非常に有効なことがわかりました。
今回は空き家活用の続編として、〈甲山ノイエ〉と
〈島津ノイエ〉のリノベーションをお伝えします。
リノベに適した空き家を見極めるチェックポイントや具体的なDIYの方法、
そして物件が持つ100年越しのストーリーを引き継ぎ、
移住者が丹後で活躍できる場となった経緯をご紹介していきます。
2016年の冬、10年間空き家だった物件と出会いました。
初めて中に入ると動物の糞や蛇の抜け殻などがあり、
普通の人なら絶対に住むことができないだろうと思うような物件でした。
所有者さんはある日突然この空き家を相続されましたが、都会に住んでおり
メンテナンスになかなか来られないため、手放したいとのことでした。
見た目はボロボロで、誰もが嫌がる空き家でしたが、
僕にはこの家がとても魅力的に思えました。
空き家見学でいつも注意していることが大きくふたつあり、
このふたつが揃っていると、おおよその空き家は再生可能です。
ひとつ目は、屋根がしっかりとしていること。
今回の物件では、築年数は50年以上でしたが、屋根瓦は新しく、
比較的最近に瓦の取り替え工事を行ったと聞いて安心しました。
ふたつ目は、柱や梁や基礎といった構造材の歪みが少ないこと。
構造材は人間でいうところの背骨のようなもので、一度歪めば修復は困難です。
この物件は床板や畳が白蟻に食べられていましたが、
構造材の柱や梁は地元の山から切り出した貴重な檜や松を使用しており、
白蟻の被害はまったく見受けられませんでした。
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この空き家には、4世代が紡ぐ家族のストーリーがありました。
所有者さんの曾祖父さんが孫のために山に木を植えて、
約50年後に所有者さんのお祖父さんがその木を使い家を建て、
そこから50年後の現在、その孫が相続することになったのです。
そんな100年の想いの詰まった空き家を何とか再生させたいという思いから、
甲山ノイエ再生プロジェクトを始めました。
まずは間取りの変更を考えました。
甲山ノイエは、典型的な丹後の田舎の間取りです。
玄関に大きめの土間があり、田んぼの田の字の和室が4つあり、
そこに水回りが集結していました。
リノベにあたって、田の字の和室をひとつのLDKにして、
残りの和室を使って個室をふたつつくることにしました。
用途としては主寝室と子ども部屋のようなイメージです。
子どもが増えて部屋が足りなくなれば、小屋裏の物置スペースがあるので、
部屋をつくることが可能です。
丹後の典型的な間取りを、現代風な間取りにアレンジするリノベーションへの挑戦です。
まずは、白蟻の被害があった床をすべて撤去して、新たな床材をつくっていきます。
このときに地面から湿気が上がらないように、防湿シートを全面に敷き込みました。
電気や水道はいまの用途に合わせて、新しいものに取り替えました。
ここではプロの職人さんに施工をお願いしながら
自分たちもDIYで施工をする“ハーフDIYリノベ”で進めていきました。
例えば、床板のような水平をきちんと出さないといけない重要な箇所はプロに。
その上のフロアシートは、カッターナイフで切ってボンドで接着するだけの
比較的簡単な作業なのでDIYで進めました。
このようにして作業内容をプロとDIYとでメリハリをつけることで、
予算をコントロールしやすくなります。
こうして2017年4月、〈甲山ノイエ〉として
無事に空き家を再生することができました。
甲山ノイエのリノベーションが終わり、完成見学会を計画しました。
しかし、普通に見学会をしてもおもしろくないと思い、
移住したての井上さんご夫婦と一緒にイベントを企画しました。
そのご主人さんはもともとITの仕事をされており、
農業をしたいとの希望で夫婦揃って丹後へ移住されました。
そのご夫婦に、就農先の有機栽培の野菜を使った
季節の野菜カレーを振る舞っていただきました。
このイベントには3つの目的がありました。
1 実際にリノベした空き家で食事をすることで、見学者に生活イメージを持ってもらうこと
2 カレーを振る舞い近所の方も招待することで、家の中を見ていただき、いままで見捨てられていた空き家が再生可能だと知ってもらうこと
3 移住したてのご夫婦を地元の方とつないで、自己実現の場にしてもらうこと
結果、特製の野菜カレーは見事に完売して、のべ50人がこの甲山ノイエを訪れました。
ここはもともと10年以上放置されて、イタチや蛇が住んでいた場所。
そんな空き家が見事に蘇ってくれたと実感した瞬間でした。
実は僕も3か月ほど甲山ノイエに住んでいたのですが、
ちょうどいい規模感で正直このままここに住んでいたいと思ったほど、
住み心地の良さを感じました。
現在は他府県から移住してこられたご夫婦とお子さんふたりが住む家となりました。
家の裏で家庭菜園を楽しみ、ご近所にも溶け込みながら暮らしていらっしゃいます。
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甲山ノイエに続き、丹後にて移住希望者向けの住まいづくりを進めていきました。
2017年に出会ったこの物件は、築30年と
いままでの空き家活用の中でも比較的新しい部類に入る空き家でした。
リノベをする前にチェックしたい2点、屋根と構造材にも
まったく問題がなかったので、内装のみをリノベすることにしました。
実はこの頃は、電動工具を一式揃えるほど
自分の中で“DIYリノベ熱”が上がっていたとき。
1棟セルフリノベーションに挑戦してみたいと思っていた矢先にこの物件と出会い、
実験的にDIYリノベを行ってみました。
島津ノイエは、昔の間取りのまま「使えるものは使う」というテーマのもと、
LDKと個室は和室から洋室へリノベしました。
メインの和室は客間として使うことも想定して、畳のまま内装を整えていきました。
トイレとボイラーだけは新調して、水回りは、もともとあった器具を利用しています。
なるべくコストを抑え、目に見えない断熱材を入れつつ外壁塗装を行うなど、
長期的に住みやすいリノベを心がけました。
まず取りかかったのは、畳をフローリングの洋室へ変えることです。
古い畳を取り払い、既存の床板に下地と断熱材を入れていきます。
普段から設計の仕事をしているのでやり方はわかっていますが、
いざ始めると意外と難しいものです。
次に壁ですが、丹後の古い家は土壁の家が多く、島津ノイエももともとは土壁でした。
土壁のままでは少し汚いので、上から石膏ボードを入れて、壁紙を張ることにしました。壁には断熱材を入れて寒さ対策もしています。
和室は、昔の土壁の上から珪藻土を自分で塗っています。
仕上げ材を塗ることで見違えるほど和室がきれいになりました。
キッチンはもともと高品質のメーカー品が使われていました。
といっても、油や埃やサビで汚れており、現場に来る人来る人に
「キッチンは入れ替えたほうが……」などと言われる始末。
しかし、本質的にいいものを捨てるのはもったいないと思いました。
そこで、キッチンも自ら再生させることに。
シンクの錆はディスクグラインダーで削り、仕上げにコンパウンドで磨くことで、
新品のようにピカピカに仕上げることができました。
汚れた扉板は、専門の洗い業者さんにお願いして、
特殊な洗い液で掃除してもらいました。
そうすることで問題なく再利用することができました。
ほかの設計やリノベの現場を抱えながら、空いた時間に体を動かすDIYリノベは
本当にいい気分転換になりました。
また、「設計」というプランする仕事と、自分で施工するのとでは、
現場の具体的な見え方も変わり、とてもいい勉強になりました。
やればやるほどきれいになり、空き家が再生されていく実感がわいていきます。
工事期間は3か月ほどでしたが、最後のほうは
自分が住みたくなるほど魅力的な住まいになっていました。
こうして空き家の再生を自らDIYで行ったことで、コスト面が大幅に安くなりました。
その代わりに、浮いた費用で断熱材を入れるなど
見えない部分にもこだわることができました。
この島津ノイエは、完成後すぐに移住者の方が入居して、現在も使用いただいています。
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丹後では、いたるところに空き家が存在しています。
近所のおじさんやおばさんに話を聞くと空き家が多くて困るというほどです。
丹後に移住を希望される方は徐々に増えてきており、
「若い人に来てほしい」という地元の人の思いもあります。
ところが、こんなに空き家があるにもかかわらず、
移住者に使ってもらえる空き家はないといった矛盾が起こっています。
空き家は増えているのに使える空き家がないとは、どういうことでしょうか?
1 空き家を相続した人が都市部に出て、丹後に帰ってこず連絡が取れない
2 先祖代々の土地を手放すことはできない。仏壇とお墓があり、お盆休みと正月だけ帰ってくるから手放せない
3 知らない人に渡すのは世間体が悪い
4 売りたくても、絶対に売れるわけがないと思っている
5 そもそも空き家をどうしたらいいかわからず現状のまま
空き家が活用できず放置されるのは、主にこのような事情からです。
僕のミッションは、丹後の空き家を活用しながら、
移住希望者の方に住まいを提供すること。
所有者さんが抱える上記のような思いをいかに解消して、
移住希望者のニーズに応えられるかを考えています。
これまでにつくった、桃山ノイエ、島津ノテラス、甲山ノイエ、島津ノイエの
4つの事例は、きっと所有者さんの悩みに働きかけてくれるはず。
今後はさらに一歩踏み込んで、この事例をもとに所有者と話をして、
空き家を活用しやすくする仕組みづくりに取り組んでいきたいと思っています。
次回のテーマは「セルフリノベーション」です。
一度は閉店したお店を地域住民の力でセルフリノベして
レストランにリニューアルしたストーリーと、
移住者したご夫婦の住み手自らが
DIYでリノベを手がけた事例をお届けしたいと思います。
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