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江戸時代の土蔵をDIYリノベーション。
地域に愛される、隠れ家的
シェアスペースを目指して

リノベのススメ
vol.165

posted:2018.10.31  from:京都府京丹後市  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

Dai Yoshioka

吉岡 大

よしおか・だい●1987年京都府京丹後市生まれ。2016年暮らしのリノベーション〈blueto(ブルート)〉設立。住まいのリノベーション、空き家活用、動画製作を行う。現在移住者向けの住まい(桃山ノイエ、島津ノテラス、甲山ノイエ、島津ノイエ)を運営。ドローンによる空撮を生かした丹後地域発信動画制作などを行う。京丹後市三重森本地区の里の公共員として地域全体のリノベーションを行なう。
http://blueto.jp

blueto建築士事務所 vol.5

前回から引き続き「DIYリノベーション」がテーマです。

江戸時代から残る土蔵が、施主さんと仲間たちの手によって再生されていく
DIYリノベーションの事例をお届けします。

空き蔵を生かしたイベントを企画

2016年、当時お借りしていた〈blueto〉事務所の敷地内に、
歴史ある大きな土蔵がふたつありました
(2018年10月現在は、ほかの場所に事務所を移転しました)。

事務所の敷地内にせっかく立派な蔵があるのに、活用されないままでは
もったいないと思い、なにかイベントができないかと考えました。

そこで、vol.2で紹介しました、
京都・丹後内で実施されていた地域体験型の交流イベント
「mixひとびとtango(通称:ミクタン)」の企画に結びつけて、
2016年5月に2日間限定で「日用品市 @土蔵ひらき」
というイベントを友人と開催することにしました。

オーナーさんからは、この土蔵の築年数が100年以上と聞いていました。
お金はかけられませんが、一般のお客さんを呼ぶイベントにするため、
ある程度は蔵をきれいに整える必要がありました。

数日かけて中の荷物をすべて片づけたあとは、掃除に取りかかります。
一度拭くだけで雑巾が真っ黒になるくらい、
年季の入った汚れを丁寧に拭いていきました。

蔵の中は暗いので、電気を引っ張り、棚板をつけ替えて、
床を塗装して簡易リノベの完成です。

イベント当日は友人が制作しているカッティングボードや
木工製品や陶器などを中心に販売。2日間でのべ100人が訪れ、
大盛況のうちにイベントを終えることができました。

イベント交流会で土蔵の施主様と出会う

毎年恒例でイベントの慰労会も兼ねた交流会があるのですが、
その際、ある女性から声をかけていただきました。
その方の自宅にも古い土蔵があり、その土蔵を
今回のように有効活用できないかと相談を受けたのです。

僕はイベントを通じて蔵のリノベーションに興味が出てきており、
「できますよ!」と軽く返事をしましたが、まさかこのときには、
土蔵のリノベに2年かかるとは思ってもいませんでした。

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150年以上の歴史ある蔵をDIYリノベ!?

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江戸時代から残る土蔵を次世代に残したい

2016年7月のこと。蔵の状態を確認するため現場にうかがいました。
施主さんは〈somemi〉という屋号で、カラー診断や
グラフィックデザインやホームページ作成のお仕事をされており、
数年前にリノベーションされた主屋(住まい兼事務所)は本当にセンスが良くて、
快適で暮らしやすそうな空間でした。

ご主人は薪ストーブが好きで、薪の販売のお仕事もされています。
この薪ストーブで焼いたお肉料理や温めたスープなどは本当においしく、
古民家での薪を使った暮らしにとても憧れを持ちました。

施主さんの主屋。

施主さんの主屋。

そんなすばらしい主屋を見学させていただき、
いよいよ本題の土蔵を見せていただくことに。

土蔵は立派な主屋の横道を抜けて、中庭に入ったところにあります。
主屋に隠れて前面道路から蔵は見えず、
その周辺は中庭と畑と土手に囲われており、静かな自然の中にあります。

お話を聞くと、江戸時代(少なくとも150年以上前)には
この蔵が建っていたとのことで驚きました。
その土蔵は、土壁(荒壁)を外壁に塗ったままの仕上がりで、
表からはひとつに見えますが、中は仕切られており、ふたつの蔵になっていました。

施主さんのご先祖様が以前は丹後ちりめんの機織り業をされており、
1階は物置のような使い方を、2階はそのときの使用人の住まいとして
使用されていたようです。

施主さんの想いを聞かせてもらうと、以下の要望が出てきました。

1 歴史ある蔵を活用して、友人の集まれる場や仕事で使える場にしたい

2 土蔵という天然素材の土壁や木材を生かして、
今後自分の子どもたちに引き継げるものにしたい

3 できる範囲でDIYで行いたい

この要望をもとに、1階の物置はシェアキッチンを中心とした
友人が集まってイベントができるシェアスペースに、
2階の元使用人の小部屋はオフィススペースとしての用途に決まりました。

間仕切りの解体からDIYリノベスタート

初日、施主さんのご友人とご近所さんが集まり、DIYリノベに参加されました。
各々道具を持ち寄り、荷物の移動や土壁の解体からスタートです。

土壁を撤去したあとは、竹小舞(土壁の下地に使う細い竹)を切断して、
ふたつの蔵をひとつの空間にしました。

解体してわかったのですが、柱や土台などには、
現在では貴重で滅多に使うことがない栗材が使用されていました。
栗材は非常にかたく、腐りづらいことが特徴で、
江戸時代の蔵をこれまで残すことができた理由がわかりました。

現場では埃まみれになりながら、自分たちで解体を行いました。

解体後はプロの大工さんにお願いをして、既存の構造を見ながら
ふたつの蔵をひとつにするため、不要な柱を抜き、
新たに補強用の柱・土台・筋交(すじかい)といった材料と
耐震金具で補強を行いました。

作業で生まれる一体感。世代を超えたリノベ隊の結成

プロの大工さんによる補強後は、再びDIYリノベの開始です。

上の写真では一見プロの職人さんのようですが、皆さん素人です。
それぞれ道具を持ち寄り、慣れた手つきで作業をされることに驚きました。
施主さんの土蔵を改修するというひとつの目標に向かってみんなが作業していきました。

僕の役割は、図面作成と材料調達とDIYリノベの監督役です。
素人の皆さんでも作業が進められるように材料を手配して、
作業手順を考えて、ときには一緒に作業をしていました。

現場では、和気あいあいと話をしながら作業を行い、
「天井付近に収納棚を取りつけよう」
「玄関の建具を友人から安く手に入れられるよ」など、
リノベ隊から出てくるアイデアをそのまま採用することもありました。

休憩時間は皆さんと話をしたり、
施主さんと音楽仲間たちによるギター演奏を聴いたり、
月に2回程度のゆっくりとしたペースで、
楽しい時間を共有しながらリノベ作業は進行していきました。

ときには、夏場の炎天下のなか、高所での天井板貼りなど
非常に過酷な作業がありましたが、リノベ隊の皆さんのおかげで、
協力しながら現場を進めていけることを心強く思いました。

ちなみにリノベ参加者の年齢層は10~60代とバラバラで、
2年間で関わった人数は50人ほど。レギュラーメンバーは6人程度です。

デザインという仕事柄か、施主さんの周りにはクリエイティブな方が多く、
カメラマン、公務員、教師、農家、デザイナーなど
普通の建築工事ではありえない多種多様な人が集まっていました。

世代を超えた異業種の皆さんと一緒に現場作業をして、
休憩中にお話をする時間が大好きでした。

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DIYリノベのメリットは?

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1年目終了。蔵の保温性を体感する

2016年の暑い夏が過ぎ、秋から冬となり、雪の中でDIYリノベを続けました。

丹後地区は雪が降る地域ですが、やはり土蔵の中は分厚い土壁に守られているため、
寒すぎることはなく、作業を続けることができました。

また、床下や天井には断熱材をしっかりと入れることで、本来の土蔵の保温性も相まって
外の環境に左右されにくい落ち着いた空間になってきました。

しかし、大変だったこともあります。
江戸時代の土蔵ということもあり、建物自体が傾いており、
それを修復するには大きな費用がかかるため、
ある程度傾いたままリノベを進めるしかありませんでした。

もともとの傾きをそのままに、新しく垂直な壁や、
平らな床をつくることに苦労しました。
その基準を出す作業は、さすがに器用なリノベ隊でも難しいため、
僕自身が中心となって調整していきました。

自然素材へのこだわりをテーマに

施主さんの希望により、リノベで使う材料は自然素材を多く取り入れました。

施主さんはいつもリノベの最中、リノベ隊に手料理を振る舞われていました。
天然酵母について勉強している施主さんがつくるピザやパンはとてもおいしく、
天然酵母や発酵について何も知らなかった僕にとっては驚きがありました。

施主さんは、自然の持つ力をとても大事にされており、
自然素材を使った古民家活用や土蔵の再生に興味を持っていらっしゃいました。
そういった施主さんの思想が、料理のスタイルからも伝わってきました。

この土蔵もかつては左官職人さんが長い年月をかけて、
土を足で練り、発酵させた藁を入れ、
少しずつ長い年月をかけて土壁を塗って完成されています。

その土壁は再利用が可能で、内部の解体した壁を取っておき、
外壁に使い、施主さん自らがDIYで補修を行いました。

床板は杉の無垢フローリングを張り、壁には漆喰を塗り、
塗装は柿渋やオイルなどの自然塗装で仕上げました。
これらの施工はリノベ隊の皆さんで行いました。

前回も紹介しましたが、DIYの良いところは一度やり方を学ぶことで、
完成後も自分の手で修繕やメンテナンスが行えることです。
維持が難しい自然素材のものでも、メンテナンス法を知ることで
長く使うことができるようになります。

この現場を通じて、僕自身もスキルアップすることができました。
いままでは、設計や現場管理メインの業務でしたが、
リノベ隊の皆さんと一緒に現場作業をすることにより、
DIYの進め方や大工道具の使い方などをより深く知ることができ、
いまではお客さんと一緒にいろんなものを製作することが可能になりました。

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リノベした土蔵はどう活用?

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ついに土蔵の再生プロジェクトが完了!

2016年7月からスタートしたDIYリノベは、
2018年9月をもって完了することができました。

入り口前にはウッドデッキを張り、椅子に座りながら
ゆっくりと庭を眺めながめられます。

1階のシェアスペースには、特注で製作した学習机を並べて、
最大で10名くらいの人が来ても対応できるようになっています。

キッチンは、清潔感のある厨房機器と不燃壁を使用して、飲食業の許可を取り、
シェアキッチンとして使用できるようになっています。

2階の1部屋はデザイナーの方がオフィスとして利用しており、
もうひとつの個室はフリースペースとして使えます。
施主さん自身のカラー診断のお仕事でも活用させており、
訪れた方には「自然に囲まれて、不思議と落ち着く」と好評のようです。

今回のプロジェクトを通じて、蔵ならではの空間の特徴を感じました。

まずは、竹や木材、土壁といった自然素材に囲まれた空間で、とても心が落ち着くこと。
一度、蔵の宿で宿泊したことがあるのですが、
音や光などの外部環境が気にならず、朝までぐっすり眠れました。
物理的にも非常に頑丈なので、火事や水害に強いと言われています。

そして蔵は主屋と離れているので、日常と切り離した空間として、
主屋ではできない趣味や仕事部屋をつくるのにも最適だと思いました。

地域から愛される「森の中の隠れ家」を目指して

2年間という長きにわたるリノベが完了したのですが、
ここからがスタートだと思っています。

長年活用されていなかった空間が、リノベーションによって多くの仲間が集まり、
施主さんの暮らしに欠かせない場になりつつあります。
道路から見えない静かな環境は、仲間内や会員性の集まりにもってこいです。

さらに施主さんは、何かに挑戦したい人に積極的に使ってほしいと話します。
例えば、お試しでカフェをしたり、
ご自身の趣味である天然酵母や発酵の勉強会を開いたり、
僕もここでDIYワークショップをしてみたいと思っています。

扱いに困る“負の遺産”だった蔵を、DIYリノベーションによって
新しい可能性が生まれる場に変換できたこと。
それは今後のbluetoの進むべき方向性だと、再認識することができた現場でした。

次回はドローン空撮による映像制作についてご紹介します。

なぜ建築設計事務所がドローン撮影をしているのか。
丹後の自然を映像で発信をすることでなにが起こったのか、お伝えしたいと思います。

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