連載
posted:2016.11.5 from:北海道浦幌町 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
Kosuke Bando
坂東幸輔
京都市立芸術大学講師/坂東幸輔建築設計事務所主宰。1979年徳島県生まれ。2002年東京藝術大学美術学部建築学科卒業。2008年ハーバード大学大学院デザインスクール修了。スキーマ建築計画、東京藝術大学美術学部建築科教育研究助手を経て、2010年坂東幸輔建築設計事務所設立。京都工芸繊維大学非常勤講師。徳島県神山町、牟岐町出羽島など日本全国で「空き家再生まちづくり」の活動を行っている。主宰する建築家ユニットBUSが第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(2016)日本館展示に出展。
こんにちは、建築家の坂東幸輔です。
これまでの連載では、徳島県の神山町や出羽島での空き家再生まちづくりを紹介してきました。
これからは徳島を飛び出し、北海道浦幌町や香川県丸亀市など
日本全国で行われている現在進行中のプロジェクトを紹介していけたらと思っています。
今回は北海道十勝郡浦幌町での空き家再生まちづくりの様子をお伝えしようと思います。
浦幌町の活動内容に加え、空き家再生まちづくりに関わってきて見えてきた、
方法論にも触れてみたいと思います。
リノベーションや空き家再生でまちづくりをしている方は全国にいますが、
私の特徴はと聞かれると、
「人口5000人程度の規模の過疎地域で活動することが多いです」
と返答しています。自分で選んでいるわけではないのですが、
神山町も出羽島のある牟岐町も人口5000人強のまち、
そういった場所での活動が最もやりやすいと感じています。
行政の担当者が個人の裁量でスピード感をもって
いろいろなことが決定できるちょうどいい人口規模なのでしょう。
人口が1万人を超えると、行政の意思決定が見えにくくなり、
相手が何を求めているのかわからずプロジェクトが停滞してしまうケースが多いです。
浦幌町も人口5000人規模のまちです。
大学はもちろん高校が町内になく、中学生以上の若者を見かけません。
空き家や遊休施設も目立ちます。この3つの特徴はこれまで関わってきた
徳島のふたつの過疎のまちと非常に似ています。
しかし、北海道ならではの雄大な自然が育む食料の自給率はなんと2900%、
農業・林業・漁業と1次産業がすべて揃っており、GDPはなんと神山町の3倍。
うらほろスタイルという独自の小中学生の教育プログラムも充実しており、
そのおかげか出生率も上がっているという、
私にとっては「本当に過疎地域なの?」と驚きの多い地域でもあります。
そういう驚異的な浦幌町ですが、
一方で、うらほろスタイルを通して地域への愛着をもった子どもたちが
大学卒業後や就職後に浦幌町に戻ってきたくても働く場所がない、
というのが問題も抱えています。
サテライトオフィス事業の成功によって
過疎地域に若者の働く場を生み出した神山町から学びたいと、
神山で人材育成を行っている祁答院(けどういん)弘智さんが
浦幌町の地方創生アドバイザーに任命され、
私は建築的なサポートを行うために呼んでいただきました。
「活用したい空き家(遊休施設)がある、改修のための予算も用意した、
しかし何に使っていいのかわからないから一緒に考えてほしい」
という、どの過疎地域に行っても
最初に聞く同じ悩みをやはり浦幌町の方たちも抱えていました。
空き家再生では、建築家は設計をする以前の
コンサルティングの段階から関わる必要性を非常に感じます。地方公共団体だけでなく、
「先祖代々伝わる古民家に愛着があって壊すに壊せない」
という個人のクライアントも同じ悩みを抱えています。
人口よりも建物の数が上回ってしまっているのでしょう、
建物を直しても使い途がすぐには出てこないのです。
これからリノベーション・空き家再生に関わる建築家は行政や個人にかかわらず、
そういったクライアントに丁寧に寄り添って、
一緒に建物の使い途を考えていくことが大切な仕事になっていくと感じています。
浦幌町での依頼は10年前に廃校になった旧・常室小学校を
浦幌町の仕事創出の場として改修したいので、その手伝いをしてほしいというものでした。
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空き家再生まちづくりの活動の中で、
私は学生ワークショップを行うということを重視しています。
若者が減ってしまった過疎地域に、
十数名の大学生たちがやってくる影響力はとても大きく、
都会に住む建築家やデザイナーの卵の、まちへの率直な意見はとても価値があることです。
また、ワークショップに自分から手を挙げて参加する学生は
もともと地域での活動に興味のある学生が多く、ワークショップに繰り返し参加したり、
地域の建築家・デザイナーになることも少なくありません。
ワークショップは地域と若い建築家・デザイナーの接点を増やす機会でもあります。
これまでいろいろな地域で活動するなかで
ワークショップの3種類のやり方というのが見えてきました。
空き家や遊休施設の再生案やまち全体の再生計画案といった
アイデアベースの提案を学生たちと一緒に制作し、
地域の住民に対して発表するワークショップです。
そのまちで何ができるのかというヴィジョンを示すことが目的です。
これまでの私の記事では
vol.3で紹介した神山町の劇場〈寄井座〉再生ワークショップや
vol.4で紹介した出羽島の〈波止の家〉の再生のワークショップが
提案型のワークショップになります。
空き家の改修工事や、使用する家具づくりのワークショップです。
デザインから実際の制作まで行いますが、参加者はプロアマ問いません。
材料調達や制作において地域の方との共同作業が必要な場合が多く、
地域の人たちを巻き込むことができることが特徴です。
実際に作業に加わってもらうことで、
私たちの活動に対する地域の理解がすすみ、まちとの一体感が生まれます。
vol.2で紹介した〈ブルーベアオフィス神山〉の改修工事や
vol.3で紹介した〈神山バレーサテライトオフィスコンプレックス〉での家具のリノベーション、
vol.5で紹介した〈波止の家〉での藍染め家具づくりが制作型ワークショップになります。
空き家を使って一時的なトークイベントや映画の上映会、
カフェやマルシェといったにぎわいを生むイベントを行うワークショップです。
実験的に空き家を活用したソフトを開発することを目標としています。
空き家を生かしたまちづくりのきっかけづくりとなります。
まちなかでにぎわいを生むイベントを行うことは自体は
まちづくりの手法としては一般的ですが、建築家である私にとっては新しい取り組みです。
丸亀市で初めて挑戦しました。詳しくは次回ご紹介します、お楽しみに。
3種類それぞれに長所・短所がありますが、
浦幌町では旧・常室小学校の再生が求められていたので、
①の提案型ワークショップを行うことにしました。
住民ワークショップと行政の検討会を複数回ずつ行うと同時に、
コミュニティで活用のヴィジョンを共有するために、
私が主導して学生ワークショップを行いました。
vol.3でも紹介しましたが、「地域が育てる建築家」をつくりたいという思いから、
浦幌町での提案型ワークショップでは、
私だけでなく東京の品川宿に拠点を置く
若手建築家の小室下司建築設計事務所の小室匤示さん、下司歩さんに
関わってもらっています。
いま、日本全国で空き家再生の機運が高まっています。
しかしながら、1軒の空き家だけを見つめていても
「まち全体の再生にはつながらないのではないか」
と最近思うことが増えています。
なかには「空き家を改修すればなんとかなる」という、
かつてのハコモノ的な発想になりがちな地域も多くあります。
浦幌町でも、最初に訪れたときには、
廃校を改修して仕事創出の場としたいというお話でした。しかし、
まずは、町全体の遊休施設を含むすべての公共施設を把握し、
どのように将来に施設を残していくのかという
ファシリティーマネージメントの観点から議論をする必要性を感じたため、
ワークショップでは浦幌町のすべての公共施設を見て回り、
浦幌町中心市街地の模型を制作するところから始めました。
このワークショップは「浦幌サマーワークショップ2016」と題し、
2016年8月21日〜27日の1週間で行いました。
東京や大阪、京都など本州の都市部から総勢14名の学生や社会人が参加、
出羽島での活動に参加してくれた牟岐町出身の学生も来てくれました。
徳島よりもアクセスが大変な場所に学生たちが来てくれるか心配でしたが、
想像以上に集まってくれました。過疎地域や空き家再生に対する社会の関心が
これまで以上に高まっているのかもしれません。
公共施設を見て回ったあと、ワークショップでは浦幌町の基幹産業である、
林業・農業といった1次産業を見学しました。
現場を見せてもらいながら、生産者の方から直接お話をうかがい、
日本のほかの地域との大きな違いを感じてもらいました。
コンピューター制御された林業機械により効率化が進む林業や、
大きすぎて畑の端が見えない大規模な農業など、
自分たちのイメージとかけ離れた規模の力強い1次産業に学生たちは全員驚いていました。
同時に、浦幌町の抱える1次産業の問題点も把握することができました。
浦幌町の産直市場で買い、みんなで茹でて食べたトウモロコシの味は
これまで食べたことのないほど新鮮でおいしかったです。
ほかの野菜も品質のいいものばかりで、
浦幌町の人たちは質のいい素材をつくることに長けています。
一方で、浦幌町で採れた野菜や果物を加工してパッケージし、
現地で販売するということになると、とたんに競争力がなくなってしまいます。
浦幌町のおいしい野菜のほとんどは素材のまま東京や大阪に運ばれて、
消費されるだけになってしまっているのです。林業も同じ問題を抱えているようです。
その後、4つのグループに分かれて、
旧・常室小学校の再生案を考えてもらいました。
これまでの経験上、短いワークショップの期間のなかで、
放っておいたら何に使うかというソフトの話ばかりを延々としてしまい、
建物をどういうデザインでリノベーションするかという
ハードの話まで到達できないことがあります。
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そこで私が編み出したのが、
強引にソフトを決めさせる4コママンガを活用する方法です。
浦幌4コマのセッションを行うことで、
グループ分けをしてすぐにグループごとにテーマを決めることができました。
浦幌4コマで各チームがテーマを決めた後、
ワークショップ最終日に行う地域の方への発表会に向けて
数日間でアイデアをブラッシュアップしていきました。
小室下司建築設計事務所の小室さん、下司さん以外にも、
私と京都でコラボレーションをしていた
フランス人建築家ユニット〈マルティネス・バラ・ラフォール・アーキテクツ〉のセバスチャン・マルティネス・バラさんや、これまで一緒に家具づくりワークショップをしてきた、
徳島の鴻野裕さんにも講師として参加してもらい、学生の指導をしました。
以下の4つが学生たちが行ってくれた提案です。
食料自給率がなんと2900%の浦幌町。おいしい食材はたくさんあるのに、
それを活用するメニューが少ない。まちの人だけでなく、
旧・常室小学校の教室を改修したキッチンに
外部から呼んだシェフにシェフ・イン・レジデンスとして滞在してもらい、
浦幌町の食材を使ったメニューを開発してもらう案。
浦幌町で散歩・ランニング・ドッグラン・自転車の
4つのアクティビティを楽しみたい人たちのHUBになるような施設をつくる案。
旧・常室小学校の教室を一部撤去し門型のシンボルとなるように改修して、
同じ場所からスタートできるようにしています。
食料と同様、浦幌町で生産されても
ほとんどが東京や大阪といった都市部で消費され、
地域で活用されないカラマツ。地域でカラマツの製品開発・作品制作や
子どもの頃からカラマツに触れられる環境をつくる案。
旧・常室小学校の特徴的な屋根を延長させて屋外にも居場所をつくっています。
農業・林業・漁業・雪遊びなど浦幌町の自然を生かしたアクティビティを体験するため
全国の子どもたちが滞在して研修できる施設をつくる案。
行く・食う・寝るの3つを合わせてイクーネルという施設名としています。
発表会には水澤一廣浦幌町長をはじめ、
たくさんの地域の方が参加してくれ、活発な意見が飛び交いました。
学生ワークショップでの提案で地域の方たちに火がついたのか、
その後も活発な住民ワークショップや検討会議が行われています。
旧・常室小学校の再生を目標としながらも、
ファシリティーマネージメントの意識が地域の人たちにも芽生え、
中心市街地の小さな施設の再生から始めてみてはという意見が出始めており、
とてもうれしく思っています。
過疎地域のまちづくりの現場では「何をするかではなく、誰がやるか」だ、
ということがよく言われます。
「浦幌サマーワークショップ2016」は提案型ワークショップでしたが、
そこでは「何をするか」ということしか提案できていません。
学生たちもワークショップが終わればそれぞれの居場所に帰ってしまいます。
地域で「何をするか」という議論が中心になり、
「誰がやるか」がおろそかになるところが
提案型ワークショップの短所なのかもしれません。
しかし、これからも提案型ワークショップを続けていきたいと思います。
参加者や地域の方のなかに
共通の将来のヴィジョンを生むことの大切さも実感しているからです。
浦幌町全体を俯瞰しつつ、いつか現れる「誰か」の心に引っかかるような
まちの将来のヴィジョンをつくる手伝いができたらと思っています。
浦幌町に頻繁に通い、気がつけば住み込んでしまうような
若い建築家やデザイナーが現れることも同時に期待して
まちづくりを続けていこうと思います。
次回は丸亀市で行っている「港のカフェ PIER39」プロジェクトを紹介します。
改修工事なしで、掃除するだけで空き家を使い始め、
まちづくりのきっかけづくりを行いました。
こういったことも建築家の仕事のひとつになりつつあります。
お楽しみに〜。
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