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棚田米が
「クラフトサケ」→「ビール」→「ジン」に!?
里山文化を未来につなぐ
〈BATON TOUCH〉プロジェクト

糸島での自給自足の日々を綴った
―田舎暮らし参考書―
vol.049

posted:2023.8.3   from:福岡県糸島市  genre:食・グルメ / ものづくり / 活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  田舎へ移住を考えている人、すでに移住した人。
そんな方の、暮らしの参考やアイデアになるはずです。農業、狩猟、人とのつながり、四季のこと。
福岡県糸島で自給自足生活を営む〈いとしまシェアハウス〉の暮らしをお届けします。

writer profile

CHIHARU HATAKEYAMA

畠山千春

はたけやま・ちはる●新米猟師兼ライター。3.11をきっかけに「自分の暮らしを自分でつくる」活動をスタート。2011年より鳥を絞めて食べるワークショップを開催。2013年狩猟免許取得、狩猟・皮なめしを行う。現在は福岡県にて食べもの、エネルギー、仕事を自分たちでつくる〈いとしまシェアハウス〉を運営。2014年『わたし、解体はじめました―狩猟女子の暮らしづくり』(木楽舎)。第9回ロハスデザイン大賞2014ヒト部門大賞受賞。
ブログ:ちはるの森

こんにちは。
「食べもの・お金・エネルギー」を自分たちでつくる
〈いとしまシェアハウス〉のちはるです。

〈いとしまシェアハウス〉の長年の夢だった、
自分たちで育てたお米でのお酒づくり。
2022年11月、酒蔵の元蔵人である夫の浩一さんを中心に
その夢が現実となりました!

ことの始まりは、地域の耕作放棄地が増えたことによって、
2022年から私たちが管理する田んぼの広さが
今までの2倍以上(!)になったこと。

これまで棚田のオーナー制度など、
まちから人を集めて一緒にお米づくりを行ってきましたが、
それ以上に増えた田んぼのお米は自分たちだけでは食べきれません。

そこで、余剰米をなにか良いかたちで活用できないか、
と思うようになりました。

上空からみた集落の棚田

住人が高齢になり、手放す人が増えてしまった集落の棚田。

そこで考えたのが、
志を持ってものづくりをする人たちとのプロダクトづくり。

自分たちだけでなく、
さまざまな分野で活動する「つくり手」たちと手をとり合い、
共にこの棚田文化をつくっていけないだろうか、と考えました。

さらにこのプロダクトづくりをきっかけに
糸島の棚田を多くの人に知ってもらい、この場所に通う人を増やしたい。
それが持続可能な棚田保全につながるはず、と思ったのです。

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立ち上がったプロジェクトとは?

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「棚田文化」というバトンを次世代につなぐ〈BATON TOUCH〉始動!

こうしてスタートしたのが、分野の垣根を超え、
新たなカルチャーのつくり手をつなぐプロジェクト
〈BATON TOUCH(バトンタッチ)〉です。

プロジェクトのメインメンバーは、
私たち〈いとしまシェアハウス〉と、
チョークボーイ率いる手描きのデザイン集団〈WHW!〉。

〈WHW!〉のチョークボーイとは8年前からの友人で、
このプロジェクトをやろうと思ったときに真っ先に思い浮かんだ人物でした。
夫婦揃って彼のアートワークが大好きなこと、
お互いお酒好きなこと、
一時の流行や消費でなく、“文化をつくろう”とする姿勢に共感したこともあり、
プロジェクトの話を持ちかけ、一緒にスタートさせることになりました。

彼らが手描きにこだわって活動していることと、
〈いとしまシェアハウス〉が手作業でお米を育てていること。
分野は違うけれど、重なる部分があると感じています。

〈WHW!〉〈365+1BEER〉〈いとしまシェアハウス〉のメンバーでの記念撮影写真

〈WHW!〉のメンバーと、ビールづくりでコラボした〈365+1BEER〉の有賀夫妻と。完成したお酒を片手に記念撮影。

私たちが管理する棚田には、数百年の長い歴史があります。
棚田は、先祖代々途切れることなく
お米を育てる“営み”があったからこそ残る日本の伝統風景。

私たちが受け取った「棚田文化」というバトンを、
現代に合うかたちに進化させながら、次世代に残したい。
そんな思いを込めて〈BATON TOUCH〉と名づけました。

この名前は、今までの歴史を受け継いでいく“縦”のつながりと、
分野の垣根を超えて人々が交流する“横”のつながりもイメージしています。

本プロジェクトでは、
〈いとしまシェアハウス〉がお米などの素材をつくり、
〈WHW!〉が製品のラベルを担当。
全国のつくり手たちと、ものづくりのコラボレーションを進めていきます。

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プロジェクト第1弾は“新ジャンル”のあのお酒

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浩一さんの夢だった「棚田米の酒」づくりからスタート!

まず最初にコラボしたのは、
福岡県で地元産の材料にこだわり「クラフトサケ」をつくる酒蔵〈LIBROM(リブロム)〉です。

醸造タンクが並ぶ蔵内の写真

「クラフトサケ」とは、日本酒の製法をベースに、ハーブやフルーツなどの副原料を入れて仕込む新ジャンルのお酒のこと。右はクラフトサケの仕込みをお手伝いする浩一さん。

〈LIBROM〉は、日本酒業界でクラフトサケという新しい分野に挑戦する若い酒蔵。
浩一さんがリサーチ中に発見し、
〈BATON TOUCH〉のコンセプトにマッチするつくり手が福岡にいる! 
と驚いて連絡をとりました。

酒づくりでネックだったのが、お米の量です。
自分たちで食べるには多いけれど、一般的な酒づくりをするには少ない。
ところが、小規模の酒づくりを行う〈LIBROM〉なら
棚田の余剰米でも十分に足りるのです。

〈LIBROM〉側もお酒の仕込み量が限られるため、
生産量の多い米農家さんとの契約は難しかったそう。
うちのような小規模農家と一緒に酒づくりができることを喜んでくれました。 

クラフトサケの原料には、
棚田で育てた無農薬・無肥料の自然栽培米「アケボノ」と、
副原料に田んぼ横の畑で育てたレモングラスを用いました。

レモングラスを手にする〈LIBROM〉代表の柳生さん

レモングラスを手にする〈LIBROM〉代表の柳生さん。〈BATON TOUCH〉のクラフトサケを仕込むことが決まって以降、酒蔵のスタッフさんも一緒に、田植え、稲刈り、レモングラス収穫まで一緒に行いました。

初めてのクラフトサケづくりは、
レモングラスのフレーバーがうまく抽出できなかったり、
浩一さんが事故で手を負傷したりと、最後まで困難の連続。

ですが、〈LIBROM〉のチャレンジ精神や確かな技術で、
レモングラスが爽やかに香る、甘酸っぱさが魅力のお酒に仕上がりました。

クラフトサケのボトルを手にした写真

怪我をして包帯を巻いた手で撮影。〈WHW!〉によるラベルは、つくり手同士がバトンタッチをして思いをつなぐ様子を表現しています。

完成したクラフトサケを〈LIBROM〉のオンラインショップで販売すると、早々に完売。
そこで〈LIBROM〉とのコラボ第2弾として、
糸島の里山で収穫した甘夏と和ハッカのフレーバーが香るクラフトサケを
続けて醸造することになりました。

甘夏の収穫をする人

甘夏の収穫から自分たちでやる酒蔵のスタッフさん。

甘夏と和ハッカのフレーバーが香るクラフトサケのボトル写真

甘夏と和ハッカのフレーバーが香る、コラボ第2弾のクラフトサケ。マーマレードのようなビターさと甘味。そして和ハッカのメントールがあと口をサッパリさせてくれます。

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クラフトサケの“酒粕”も無駄にしない!

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クラフトサケの“酒粕”を活用した「ビール」づくり

さて、お酒をつくると、お酒の搾りかす“酒粕”が残ります。
普段は廃棄されることが多いのですが、

「手間暇かけて育てたお米の酒粕を最後まで使い切りたい」

「酒粕を二次利用することで、
より〈BATON TOUCH〉の理念を表現できるお酒ができるのでは?」

そんな思いから、クラフトサケの酒粕を活用するプロダクトをつくることにしました。

〈365+1BEER〉の蔵内の写真

〈365+1BEER〉にて、ビール仕込みのお手伝い。

酒粕を持って向かったのは、
山口県長門市湯本温泉にあるブリュワリー〈365+1BEER(サンロクロクビール)〉 。

友人の紹介で出会ったオーナーの有賀さんご夫妻は
「ビールは自由な飲み物です。どんな素材でも活用できますよ!」
といってくださり、「酒粕を使ったビール」を仕込むことになったのです。

グラスに注いだビールと、ボトルの写真

ビールのスタイルは、ホップの香りを重視したJUICY IPA。

完成したビールは、
酒粕のクリーミーさと、ホップのジューシーさが際立つ仕上がりに。
ビールは苦いから苦手という方にも試してもらいたい、
軽やかな口当たりと爽やかさです。

これを機に、有賀さん夫妻は〈いとしまシェアハウス〉の稲刈りにも参加。
コラボを通じて棚田に関わる人が増えることがうれしい! 
ここから生まれるお酒をみんなで飲み交わす日を想像するとワクワクします。

〈365+1BEER〉の有賀さんと、〈いとしまシェアハウス〉の浩一さんがボトルを手にしている写真

〈365+1BEER〉の有賀さん(左)と浩一さん(右)。愛知県で開催された音楽フェス〈森、道、市場2023〉では一緒に販売し、多くの人に飲んでもらえる機会になりました。印象的だったのは「これ、朝起きて一番最初に飲めるビール!」という購入者のコメント。

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ビールの「副産物」も再活用!

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ビール粕も廃棄せずに「クラフトジン」の材料に!

さらに、ビール粕を再活用した「クラフトジン」づくりにもチャレンジすることに!

コラボしたのは、東京・蔵前に蒸留所を持つ〈エシカル・スピリッツ〉。
廃棄処分される酒粕や、カカオの殻などを再活用してクラフトジンをつくる、
世界初の再生型蒸留所として注目されるスピリッツ・ブランドです。

クラフトジンのボトルの写真

〈BATON TOUCH〉のクラフトジン。ラベルには、ジンの香りの象徴であるジュニパーベリーのイラストを中心に添えました。

原料は、〈365+1BEER〉で仕込んだ酒粕ビールの麦芽粕、ホップ粕、九州産の粕とり焼酎。
そして、クラフトジンの要となる香りを出すために、
〈いとしまシェアハウス〉で採れた柑橘の果皮や花、
棚田で育てたハーブなどを使用しました。

大量の甘夏の花の写真

甘い爽やかな香りの甘夏の花。花が咲く季節は2週間ほどと限られているので、急いで収穫します。

できあがったクラフトジンは、なんとも香りが華やか! 
瓶の蓋を開けた瞬間、フワッとやさしい香りに包まれます。
アロマオイルのような洗練された香りは、飲んでしまうのが惜しくなるほど。

最初に〈LIBROM〉とつくった「クラフトサケ」。
その酒粕を使って〈365+1BEER〉で仕込んだ「クラフトビール」。
そのビール粕を再活用して〈エシカル・スピリッツ〉で蒸留した「クラフトジン」。

さまざまな分野のつくり手たちの協力を得て、バトンをつなぎ、
原料を余すところなく使い切る――
〈BATON TOUCH〉の理念を貫いた酒づくりが現実のものとなりました。

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さらに続く〈BATON TOUCH〉のものづくり

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酒粕を使った「チョコレート」づくりも!

〈BATON TOUCH〉のものづくりは、お酒だけにとどまりません。
お酒が飲めない人でも楽しめるよう、
酒粕を使った「チョコレート」づくりにも挑戦しました。

〈ウシオチョコラトル〉のチョコレートパッケージの写真

目を引く六角形の〈ウシオチョコラトル〉のチョコレートは、どれも個性的でかわいい&おいしい!

つくり手は、広島県尾道市でクラフトチョコレートをつくる〈ウシオチョコラトル〉
オーナーの中村真也さんは、カカオ豆の生産地へ自ら足を運び、
農園主との交流やその場の”バイブス”をインスピレーションに、
カカオ豆と砂糖のみのシンプルなチョコレートをつくっています。

もともと友人であった中村さんに〈BATON TOUCH〉の話を持ちかけると、
副産物の二次利用というコンセプトに共感してくれて
「是非やろう!」と快諾してくれました。

酒粕を使ったチョコレートづくりは初めてとのことでしたが、
試作を重ね、チョコレートをレモングラスの酒粕に漬け込み
風味を移す製法にたどり着きました。

香ばしいカカオの風味と、ほのかなレモングラスの香り、
最後に残る酒粕の味わいがマッチして
上品なフレーバーのチョコレートになりました。

お酒を手に乾杯する様子の写真

仲間たちとのパーティーでも「おいしい!」と喜ばれました!

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〈BATON TOUCH〉から生まれた多様なつながり

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〈BATON TOUCH〉のこれから

〈BATON TOUCH〉をスタートしてから、
コラボした方々や、これから一緒にプロダクトづくりをする方々、
多くのつくり手さんが里山を訪ねてくるようになりました。

ただお米をつくっているだけでは出会えなかった人たちが、
田植えや稲刈りに参加してくれたのです。
そして、プロダクトを通じて、
酒屋さんや雑貨屋さん、手にとってくれた方々……
多くの人が、この棚田の取り組みについて知ってくれました。

好きな人たちと一緒に、自分たちが最高に良いと思ったものをつくり、
それが好きな人たちへ届き、「おいしかったよ」と連絡が来る。
すばらしいつくり手さんたちのおかげで、
ものづくりの楽しさや幸せも、たくさん感じさせてもらえました。

分野の垣根を超えて新しい文化をつくる〈BATON TOUCH〉プロジェクトは、
これからもコラボレーションを続けていく予定です。
今後どんなプロダクトが生まれるのか、私自身がとてもワクワクしています。

〈BATON TOUCH〉についてもっと知りたい! という方は
Instagramもぜひチェックしてみてください。

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