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「イノシシ」をぜんぶ食べつくす!
猟師の家でのジビエの食べ方

糸島での自給自足の日々を綴った
―田舎暮らし参考書―
vol.045

posted:2023.2.24   from:福岡県糸島市  genre:食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  田舎へ移住を考えている人、すでに移住した人。
そんな方の、暮らしの参考やアイデアになるはずです。農業、狩猟、人とのつながり、四季のこと。
福岡県糸島で自給自足生活を営む〈いとしまシェアハウス〉の暮らしをお届けします。

writer profile

CHIHARU HATAKEYAMA

畠山千春

はたけやま・ちはる●新米猟師兼ライター。3.11をきっかけに「自分の暮らしを自分でつくる」活動をスタート。2011年より鳥を絞めて食べるワークショップを開催。2013年狩猟免許取得、狩猟・皮なめしを行う。現在は福岡県にて食べもの、エネルギー、仕事を自分たちでつくる〈いとしまシェアハウス〉を運営。2014年『わたし、解体はじめました―狩猟女子の暮らしづくり』(木楽舎)。第9回ロハスデザイン大賞2014ヒト部門大賞受賞。
ブログ:ちはるの森

※この記事では、イノシシの解体や内臓などの写真が出てきます。
苦手な方はご注意ください。

こんにちは。
「食べもの・お金・エネルギー」を自分たちでつくる
〈いとしまシェアハウス〉のちはるです。

我が家では、米や野菜と同様に、
お肉に関してもできるだけ“自分たちで得る”ことを大切にしています。

2013年に狩猟免許をとり、夫婦で猟を始めてからは、
我が家の食卓にのぼるお肉は、イノシシ、シカ、アナグマなどの野生動物がメイン。
出産後、私自身の狩猟活動は一時的にお休みしていますが、
夫が近所の猟師さんのお手伝いをしてもらってきたイノシシをさばいていただいたりと、
今でもジビエは日常的に食べるお肉のひとつです。

私たちがこの糸島の小さな集落で狩猟を続ける理由はふたつあります。
ひとつは、自分たちが食べるお肉を自給するため。
もうひとつは、集落の畑や田んぼを守るため。
その思いについては過去の記事で紹介しているので、
ご興味のある方はぜひ読んでみてください。

さて、冬は野生のイノシシがおいしくなる、狩猟の季節。
今回は、実際にイノシシがとれた場合、
「猟をする人の家ではどのように食べるのか?」というテーマで、
我が家のリアルごはんをご紹介したいと思います。

庭でイノシシをさばきます。

庭でイノシシをさばきます。

とれたその日のうちに食べるものとは?

一頭のイノシシの肉を食べるまでには、
罠かけ→とどめ刺し→血抜き→内臓とり出し→皮剥ぎ→部位ごとに切り分け→保存・調理と、
たくさんの工程があります。
狩猟というと、仕留めるまでのプロセスが注目されがちですが、
そのあと何時間にもわたって
「食べられるお肉にするまで」の作業が待ち構えています。
何頭もとれると解体作業が夜中まで続くことも珍しくありません。

だからこそ、最後の最後まで無駄なく食べ切れたときは、うれしい気持ちと、
命をいただく感謝の気持ちでいっぱいになります。

さて、我が家ではイノシシがとれると
「内臓→頭→肉→骨」の順番で食べていきます。

まず、「内臓」は最も鮮度が落ちやすい部位です。
そのため狩猟したその日のうちに食べるか、
きれいに下処理をし、真空パックにしてから冷凍しています
(内臓には雑菌や寄生虫がいる可能性があるため、
丁寧に洗い、食べる際にはしっかりと火を通します)。

生後半年(推定)のイノシシの心臓。2歳を超えてくると握り拳くらいの大きさになります。

生後半年(推定)のイノシシの心臓。2歳を超えてくると握り拳くらいの大きさになります。

下処理が簡単で比較的すぐに食べられるのが、
心臓、肝臓、脾臓、腎臓など赤い色の臓器。
逆に下処理が大変なものは、小腸、大腸、胃など白い色の臓器です。
内臓はできるだけすべていただくようにしています。

ジビエが苦手、という人におすすめしたいのが「心臓」です。
筋肉質でプリプリとした歯応えで、臭みが少なく、
初めての人でも食べやすい部位です。
シンプルに焼いて塩・胡椒をかけるのが一番好きな味つけです。
食感や味わいは牛タンに近いかもしれません。

「肝臓(レバー)」は内臓のなかでも特に大きい部位。
血の臭いが残りやすいので、酒に漬けて臭みを抜いたり、
下味を濃いめにしたり、食べる際は少し工夫をしています。
ニンニク・醤油・酒でしっかり味つけした肝臓の唐揚げは娘の大好物。
また、生クリームと混ぜたレバーパテもおいしかった!
とにかく量が多いので、いろんなレシピを試しました。

ほかにも、さまざまな部位とオリーブオイルとニンニクとハーブで
アヒージョをつくってもおいしいです。
かたくなりすぎず、やわらかくジューシーで臭みもありません。

肝臓の唐揚げは下味をしっかりつけるのがポイント。冷めてもおいしいおつまみに。

肝臓の唐揚げは下味をしっかりつけるのがポイント。冷めてもおいしいおつまみに。

肝臓についている「胆嚢(たんのう)」。
かつて猟師たちの間では、乾燥させたものは二日酔いに効果があるとされ、
「昔はみんなお酒の場では胸ポケットに忍ばせていたんだよ」と
漢方のように飲用していたと聞きました。
とても苦いので、爪の先くらいをちょっと削って飲んでいたそうです。

一方で、2016年にはイノシシの乾燥胆嚢が感染源と予想されるE型肝炎の発生例があり、
猟師間のユニークな文化だとは思いつつも、我が家では飲用していません。

漢方では熊の胆嚢を原料にした「熊の胆(くまのい)」が有名ですが、これは「猪の胆(ししのい?)」でしょうか。

漢方では熊の胆嚢を原料にした「熊の胆(くまのい)」が有名ですが、これは「猪の胆(ししのい?)」でしょうか。

ソーセージをつくりたいときは、「腸」が切れないように気合いを入れて洗います。
しかし、これがなかなか骨の折れる作業……。

腸内の汚れをきれいにしたあとは、仕上げに塩でもみ、
ぬめりをとってから真空パックにして保存。
ソーセージをつくるときは、イノシシ肉のミンチを中に入れてつくります。

丁寧に洗った腸。

丁寧に洗った腸。

イノシシの腸を使ってソーセージづくり。腸を切らないように丁寧に洗うのは、この作業のためです。

イノシシの腸を使ってソーセージづくり。腸を切らないように丁寧に洗うのは、この作業のためです。

できあがったソーセージ。スパイスたっぷり。

できあがったソーセージ。スパイスたっぷり。

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イノシシの頭の食べ方とは?

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風味豊かな部位から珍味まで! イノシシの「頭」

そして、一般的には処分してしまうイノシシの「頭」。
こちらにもおいしい部位はたくさんあります。

一番おいしいのは「頰肉」。
小さな部位ですが、ねっとりとして風味豊か。少量ながらも食べ応えがあります。
骨につけたまま調理すれば、骨の旨みが肉に移って、お肉も縮みません。
我が家では、イノシシの頭に塩・胡椒・オリーブオイルを塗り
アルミホイルで包み、オーブンで焼きます。
火の通りを確認して、最後はアルミホイルを剥がして加熱、
表皮をパリッと焼いたら完成。

また、イノシシの「脳みそ」もなかなか食べられない貴重な珍味です。

イノシシの脳みそ。見た目も白子にそっくりです。

イノシシの脳みそ。見た目も白子にそっくりです。

フワフワでやわらかく、色は白と肌色の間くらい。
体の大きさによりますが、とれる量は大きなスプーン3杯ほど。
魚の白子に似た風味で、ポン酢やネギなどと一緒にいただきます。
バーナーであぶると香ばしくなって絶品。

ただ、おいしいのは焼きたてほっかほかの数分間だけで、
冷めると一気に生臭くなるので、賞味期限は3分程度。
脳みそは、とったその日しか食べられない特別な珍味です。

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お肉はもちろん、骨までおいしくいただく方法とは?

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数日間熟成させ、おいしくなる「肉」

内臓とは対照的に、「肉」は熟成させることでタンパク質が分解され、
旨み成分であるアミノ酸が増加して、おいしくなるといわれています。
イノシシがとれた日は内臓をメインで食べて、
お肉は後日食べるということも少なくありません。

もも肉はスライスしてしゃぶしゃぶに、
ロースはステーキに、バラ肉は煮込み料理やグリルに。
どこの部位にも属さないお肉たちはまとめてミンチにして、
ソーセージやハンバーグなどに活用します。
お肉も一度に全部は食べきれないので、
これも部位ごとに真空パックにして保存しておきます。

イノシシしゃぶしゃぶ。スープに旨みが溶け出して、箸が止まらなくなるほどのおいしさ。

イノシシしゃぶしゃぶ。スープに旨みが溶け出して、箸が止まらなくなるほどのおいしさ。

イノシシ肉ってどうやって食べたらいいの? と思う方もいるかもしれませんが、
調理方法も味わいも、だいたい豚と同じです。
もともと豚はイノシシを家畜化した生きものなので、風味は似ていますが、
豚は脂が乗ってジューシーで、
山で走り回るイノシシは豚に比べて赤みが強いお肉の印象です。

ほかのジビエ肉については、シカ肉は牛肉、
アナグマ肉はラム肉に近い風味だと感じます。

最後まで食べ尽くす「骨」のスープ

猪骨スープのラーメン! イノシシならではのエネルギッシュな風味があとを引きます。

猪骨スープのラーメン! イノシシならではのエネルギッシュな風味があとを引きます。

内臓、お肉をいただいたあとに残る「骨」。
これを大きな鍋に水と臭みとりのネギや生姜を入れ、
薪ストーブで数日コトコトと煮れば、豚骨スープならぬ猪骨スープのできあがり。
大きな鍋になみなみとできるので、保存用袋などに小分けにして冷凍し、
ラーメンをつくるときなどに使用しています。

最後に残った骨や肉のカスは、雑食性である鶏たちの餌になります。
イノシシの肉を食べた鶏たちは、次の日羽がツヤツヤに。
こうして、最後の最後までありがたくいただきます。

イノシシを一頭丸々手に入れる機会はなかなかないと思いますが、
もしそのチャンスがあれば、今回の記事が参考になればうれしいです。

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