連載
〈 この連載・企画は… 〉
田舎へ移住を考えている人、すでに移住した人。
そんな方の、暮らしの参考やアイデアになるはずです。農業、狩猟、人とのつながり、四季のこと。
福岡県糸島で自給自足生活を営む〈いとしまシェアハウス〉の暮らしをお届けします。
writer profile
CHIHARU HATAKEYAMA
畠山千春
はたけやま・ちはる●新米猟師兼ライター。3.11をきっかけに「自分の暮らしを自分でつくる」活動をスタート。2011年より鳥を絞めて食べるワークショップを開催。2013年狩猟免許取得、狩猟・皮なめしを行う。現在は福岡県にて食べもの、エネルギー、仕事を自分たちでつくる〈いとしまシェアハウス〉を運営。2014年『わたし、解体はじめました―狩猟女子の暮らしづくり』(木楽舎)。第9回ロハスデザイン大賞2014ヒト部門大賞受賞。
ブログ:ちはるの森
こんにちは。
「食べもの・お金・エネルギー」を自分たちでつくる
〈いとしまシェアハウス〉のちはるです。
青々とした稲が黄色くなり、稲穂が垂れる頃。
ここ福岡県糸島は、稲刈りの季節になりました!
いとしまシェアハウスでは4年前から、
まちの人や企業さんたちと一緒にお米を育てる「棚田オーナー制度」を行っています。
オーナーさんは
・田舎に移住しなくても棚田に自分の田んぼが持てて
・お米が育つまでのプロセスを体験でき
・さらに自分が育てた棚田米を食べられる!
という里山体験プロジェクト。
日々の草刈りや水の管理などはシェアハウス住人や集落の人たちが行うので、
忙しい人でも気軽に参加できる仕組みです。
棚田オーナー制度の詳細は、コロカルの過去記事でどうぞ!
高齢化が進む私たちの集落で、
棚田を耕作放棄地にしないよう生み出されたプロジェクトですが、
参加者からは「知らなかったお米の豆知識が体験しながら学べる」と好評です。
今回は、オーナーさんから質問の多かった“お米”にまつわる小話を紹介します。
「なんでお米を干すんですか?」
今年初めてオーナーになってくださった方から、素朴な質問をいただきました。
諸説ありますが、我が家で天日干しをする理由は大きく3つ。
(1)お米の水分が多いとカビや虫がつき、梅雨を越せない
主食のお米を1年間保存するとなると、水分をしっかりと抜く必要があります。
収穫したてのお米は水分量20%程度ですが、乾燥させて15%程度まで減らします。
熟練のご近所さんたちは「お米をかじって、カリッとしたらいいけん!」
と教えてくれたのですが
夫はその感覚を習得するまでに5年くらいかかったそうです。
(2)お米を干している間に、稲藁の栄養が実に移る
稲刈りをしたら、稲を束ねて縛り、竹で組んだ「はざ」にかけて
数週間日光や風に当てて乾燥させます。
じつは、刈られてもまだ稲にはエネルギーが残っています。
稲は最後の力を振り絞り、エネルギーを次の世代に託そうと
藁の栄養を実に移していくのだそうです。
こうして天日干しの間にお米が熟成され、おいしいお米になるのです。
これについての科学的な論文は見つけられませんでしたが、
地域ではずっと昔からいい伝えられてきた手法です。
(3)ゆっくりと乾燥させることで、お米の旨みや栄養素を壊さずに収穫できる
高温で一度に乾燥させる機械乾燥方式は効率がよく、
お米を均一に乾燥させるメリットがあります。
ですが、急速乾燥の影響でお米の風味が落ちてしまうともいわれています。
一方、天日干しはお米にストレスを与えずゆっくりと乾燥させるので、
旨みがギュッと詰まったお米になります。
長野県や福島県の研究者の論文によると、
おいしさを数値化できる味度メーターなどを使用して両者を比較したところ、
光沢・口当り・粘りなどにおいて、天日干しのほうがすぐれている
という結果も出ています。
機会があれば、機械乾燥と天日干しのお米を
食べ比べてみるとおもしろいかもしれません。
Page 2
稲穂が熟すタイミングは地域ごとにだいたい同じくらいなので、
私たちが手刈りする田んぼの隣で、
ご近所さんが大きな機械を入れて稲刈りをしたりしています。
機械で収穫する様子を見たオーナーさんから
「機械刈りと手刈り・天日干しって、なにが違うんですか?」
と聞かれたことがあります。
稲刈りには、ざっくりと5つのステップがあります。
1.稲刈り:たっぷりと実のついた稲を刈る
2.はざかけ乾燥:刈った稲を束ねて、竹で組んだ「はざ」に引っ掛けて干す
3.収穫:乾燥した稲を収穫
4.脱穀・選別:実(お米)の部分と茎(藁)の部分を分け、
できのいいお米と、悪いお米を選別
5.藁をカットして田んぼに還す(または燃やす):藁を土に還すことで田んぼの肥料となる
我が家のお米づくりは、昔ながらの手刈り・天日干し。
稲刈りで数週間、天日干しで数週間、
さらに藁を切って田んぼに撒く過程を含めると、全部で数か月はかかります。
お天気頼みなので、稲刈りの季節は雨が少ないことを祈るのみ。
一方、「コンバイン」という大型機械で稲刈りをする場合、
稲刈り・脱穀・選別・藁をカットして田んぼに撒く作業を同時に行います。
お米は乾燥されていないので、あとで機械乾燥させます。
手作業では数か月かかるお米の収穫を、たったの数時間で完了させる文明の利器。
初めて機械収穫を見たときは、その圧倒的なスピードに衝撃を受けました。
コンバインはお米づくりを効率化し、大規模農業を実現させた革命的存在なのです。
こうしてお米づくりも機械化が進み、大量生産できるようになったため、
手間と時間がかかる天日干しをする農家さんはすっかり少なくなってしまいました。
大変ではありますが、天日干しにもいいところはたくさんあります。
ひとつは、藁についたまま天日干しすることで、藁の栄養素までしっかり実に移るところ。
コンバインだとその場で藁と実を分けてしまうので、
藁からの養分で追熟することができません。
もうひとつは、低温でゆっくり乾燥させることで、
お米の栄養素をそのまま残すことができること。
そして、手作業だからこそたくさんの人が関わるのが天日干しの特徴でもあります。
お米の味だけでなく、収穫の喜びをみんなでわかち合う楽しさ、
手間ひまかけてつくったお米を頬張る幸せも、かけがえのないものだと感じています。
この美しい棚田の風景を守っていくためにも、
これからもたくさんの人と一緒にお米を育てていきたいと思っています。
新米のシーズン、お店にはたくさんのお米が並べられている頃です。
みなさんが今日食べたお米も、誰かが一所懸命つくってくれたもの。
「お米を買う」ということは、その田んぼを守ること、そのものです。
そのお米がどうやって育てられたのか、その風景を想像してみると
いつものお米がもっとおいしく感じられるかもしれません。
我が家の稲は、まだまだ天日干し中。
今年の新米を食べるのが今から楽しみです!
糸島のお米を食べてみたい、一緒にお米づくりをしてみたい! という方は、
棚田のオーナー制度にぜひお気軽にご参加ください。
Feature 特集記事&おすすめ記事