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原寸大の馬の置物をつくってみたい!
旧美流渡中学校で
『ミチクルのアニマル展2』を開いて

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.194

posted:2023.9.27   from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。
https://www.instagram.com/michikokurushima/


https://www.facebook.com/michikuru

毎年工夫を重ねて、教室での個展に挑戦!

2019年に閉校した北海道岩見沢市の旧美流渡中学校で、
私が代表を務める地域PR団体が毎年開催している『みる・とーぶ』展が、
9月16日から始まった。
美流渡とその周辺地区には、工芸家やアーティストなどが多く移住していて、
それらの作品を展示するのがこの展覧会だ。

スタート時は、ショップコーナーで手仕事の作品を販売することが主だったが、
年を追うごとにひとり、またひとりと教室一室を使って個展を開催するようになっている。

秋のみる・とーぶ展、1階のショップの様子。陶芸作品や布こもの、家具、ハーブティーなどが並ぶ。

秋のみる・とーぶ展、1階のショップの様子。陶芸作品や布こもの、家具、ハーブティーなどが並ぶ。

私自身も、美流渡で行っている出版活動「森の出版社 ミチクル」として、
制作した本の販売などを行いつつ、
今年の春に行われた『みる・とーぶ展』では個展を開催した。
個展のタイトルは『ミチクルのアニマル展』
着られなくなった毛皮のコートを素材に制作したのは動物マスク。
この展示では、来場者がマスクをかぶって、さまざまな写真を撮ってくれた。
マスク自体はリアルでやや怖い印象があったが、
みんなが楽しんでくれている様子が伝わってきてうれしかった。

春のみる・とーぶ展で開催した『ミチクルのアニマル展』。観客が実際に被れるマスクタイプのほか、オブジェも制作。

春のみる・とーぶ展で開催した『ミチクルのアニマル展』。観客が実際に被れるマスクタイプのほか、オブジェも制作。

このときすでに、次回の『みる・とーぶ展』が秋に開催されることが決まっていたので、
さらなる新作をつくって発表したいと考えていた。

春から数えて発表まで約4か月。
場所は、春に展示した2階の教室から移動して、3階にある元理科準備室で行おうと考えた。
理科準備室には中央に黒い大きな机があって、ここから動物たちの首が
いくつも生えていたらどうだろうというイメージが浮かんでいた。
それを美流渡在住の画家で、旧美流渡中学校の展覧会にも参加してくれている
MAYA MAXXさんに話したところ、

「それはちょっと怖すぎるんじゃない? 
毛皮を使うことがいいのか、もう一度考えてみたらどうかな?」

と提案してくれた。
MAYAさんによると、毛皮を使ってしまうと細部のつくり込みが
しっかりとできないことと、動物の毛であるということに
人が無意識に怖さや暗さを感じてしまうのではないかということらしい。
私は何かをつくると、無自覚に不気味な感じが漂ってしまうことがあるので、
本当に毛皮を素材にしたほうがいいのか、もう一度考えて見ることは大切だと思った。

春につくったニホンザル。「ちょっと怖い」と言ってあとずさりする人もいた。

春につくったニホンザル。「ちょっと怖い」と言ってあとずさりする人もいた。

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実家で思い出した、かつての夢とは?

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開催間近、追い詰められるなかで気づいた子どもの頃の夢

その後、本業の仕事が忙しかったこともあり制作はまったく進んでいなかった。
あと開催まで1か月というところまで追い詰められてしまったとき、
ちょうど東京出張があった。

数日間の滞在で武蔵小金井にある実家に泊まった。
そのとき居間に、私が小学生のときにお小遣いを1年前借りして買った
8体の馬の置物がいくつか飾ってあった。
陶器でつくられた高さ5センチほどのもので、どれも足が華奢で繊細。
おままごとに使っていたため足がほとんど折れてしまっていて、
ボンドで何度もつけ直しながらずっと遊んでいた。

40年くらい前?? 東京の馬事公苑で買った馬の置物。

40年くらい前?? 東京の馬事公苑で買った馬の置物。

「あの頃、この馬が原寸大になったらいいなあと思っていたな」

ふと、そんな思い出がよみがえってきて、
原寸大の馬づくりをやってみてはどうだろうと思った。

本格的に制作を始めたのは、展示の2週間前。
ボディの素材は、発泡スチロールを彫っていく方法も考えたが、
以前に山で採取した蔓で骨組みをつくって、そこに段ボールを貼り合わせ、
上から新聞紙を貼って強度を出していくことにした。
これなら重量も軽くできるし、蔓は針金のように自在に曲げられて丈夫。
馬のお腹からうしろ足にかけては、机の上に乗せるかたちにして安定感を出した。

原寸大の馬、制作中。ダンボールでかたちづくり新聞紙を貼った。

原寸大の馬、制作中。ダンボールでかたちづくり新聞紙を貼った。

制作時間が限られてしまったなかで、かたちを彫り出すよりも、
この方法は画期的に早く作業が進んだ。
顔の部分は2日ほどかけて家で大まかなかたちをつくり、
そのあとは展示会場に持ってきて胴体を制作することにした。
まる1日かけて段ボールで大まかなかたちをつくり、翌日から新聞紙を貼っていった。
たてがみやしっぽなどは新聞紙を丸めて立体感を出し、細かい部分は紙粘土で補強した。

たてがみ部分は紙粘土で立体感を加えた。

たてがみ部分は紙粘土で立体感を加えた。

新聞紙を貼った上に、クラフト紙を重ねていった。
紙を10センチほどの短冊に切ってボンドをつけていく作業は、
なかなか手間がかかり、数日を要したが、なんとか乗り切った。
かたちができたら、その後、下地にホワイトを塗り、上から黒いペンキを重ねた。
今回はMAYAさんの提案も受け、毛皮を貼らずに、
陶器のようなツヤのある質感を目指すことにした。

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子どもの頃の欲求を叶えていくこと

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なんとか完成! スッキリした感じと、ポワンと幸せな気持ちがわいて

夜まで毎日作業をして、オープンの3日前についに完成(ギリギリ)。
途中、なぜだか体中に蕁麻疹ができてなかなか治らなかったり、
展覧会の告知や作業も重なって慌てたり、
夜の校舎にたったひとりで作業するのが怖かったりと困難なこともあったが、
とにかくできあがって安堵した。

黒いペンキを2度塗って完成! そのほか春に制作した動物マスクを展示した。

黒いペンキを2度塗って完成! そのほか春に制作した動物マスクを展示した。

陶器の馬の質感が出るようにとツヤを出した。

陶器の馬の質感が出るようにとツヤを出した。

馬の首の部分を手でそっとなでると、気持ちが満たされる。
子どもの頃にやりたいと思っていたビジョンとピタッと一致するような感覚がある。

実は最近、“子どもの頃の夢を終わらせる”のがとても大切な気がしていて、
折に触れ実践するようにしている。
例えば昨年につくった木彫り熊は「サケ脱着式」。
家にあった木彫り熊はサケを咥えているため、おままごと遊びの設定が限定されてしまって、
いつもサケを取ってしまいたいと思っていたことがきっかけとなっている。

サケ脱着式の木彫り熊。ブロッコリー、どんぐり、子熊もくわえられる。

サケ脱着式の木彫り熊。ブロッコリー、どんぐり、子熊もくわえられる。

幼少時代、絵を描くのが好きで、高校・大学と美術を専攻し、
その後は編集者となったけれど、心のどこかで作家として
制作活動をずっと行っていきたかったのではないかと感じることがあった。
でも、それはとても漠然としていて、つかみどころはなく、
社会人になって制作をしたかと思えばすぐに辞めてしまうことを繰り返してきた。

いまは「作家として」という気持ちは置いておいて、こうした子どもの頃の小さな夢を
ひとつひとつ実現させていくことが、心残りをなくしていくことに
つながるのではないかなと思っている。

縄文時代の土偶も好き。再現した土偶も展示した。

縄文時代の土偶も好き。再現した土偶も展示した。

これが何になるのかはまったくわからないけれど、夢をひとつ終わらせると、
肩の荷が降りたような、何かスッキリした感じと、ポワンと幸せな気持ちがわいてくる。
これからも、まだ心の奥底にある、やり残していることを思い出し、
それをかたちにしていきたい。

information

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みる・とーぶ展

会期:9月16日(土)〜10月1日(日)※火曜・水曜休

会場:旧美流渡中学校

住所:北海道岩見沢市栗沢町美流渡栄町58

営業時間:10:00〜16:00 

料金:無料

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