連載
posted:2023.8.9 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。
https://www.instagram.com/michikokurushima/
7月28、29、30日、私が代表を務める地域PR団体が主催となって
『みる・とーぶフェスティバル』を旧美流渡中学校で開催した。
北海道もほかのエリアと同様に猛暑となっており、
開催には不安もあったが、無事に終了することができた。
今回、新しい出会いがあった。
屋外のテントエリアには、フードや作品、雑貨など17組のお店が並んだ。
そのうち12組は旧美流渡中学校のイベント初参加だったけれど、
なぜだか以前からずっと友だちだったような、そんな気持ちのするすてきなメンバーだった。
おそらく旧美流渡中学校という場に魅力を感じてくれていたことや、作品制作をしたり、
こだわりの品を販売したりと、互いに共感できる部分があったからだろうと思う。
そしてもうひとつ、準備期間中に顔を合わせる機会があったことも大きかったかもしれない。
このフェスティバルで出展者を募集するにあたって、みなさんにお願いしたことがあった。
開催の1週間前に行う校舎の清掃や、前日にテントを張る作業への参加だ。
さらに3日間、テントを立てたり畳んだりという作業を、
みんなで協力してやってほしいと呼びかけた。
運営スタッフの人数が少ないための協力のお願いだったけれど、
校舎の掃除をしているときに、出展者同士が話す機会も多く、
互いの理解を深めることができたんじゃないかと思う。
また、毎日のテントの上げ下げは、なかなかの重労働だったけれど、
みんなで力を合わせることで、心の通い合いもあったように感じられた。
まちの中心部で行うイベントと違って、集客はのんびりしたものだったけれど、
「とても楽しかった。また参加したい」や
「みなさんと知り合いになれたことが良かった」など、
やさしい言葉をかけてくれる出展者の方がいてくれて、それが何よりありがたいことだった。
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このほか私がとても印象的に感じたのは、3日間、毎日行われたライブ。
初日の28日は、美流渡在住の画家・MAYA MAXXさんと
美流渡より山あいへと入った万字在住のアフリカ太鼓の奏者・岡林利樹さんによる、
ライブペイントと太鼓演奏が行われた。
MAYAさんは横2メートル30センチほどのキャンバスに、
まず青と緑と黄色の線をハケで描いていった。
その後、オイルパステルで線をぐるぐると描き、今度は上から全体に黒い絵の具を塗った。
次に水を含ませたハケを上からかけると、黒が微妙に溶け出していった。
太鼓のリズムは、MAYAさんの動きに合わせて、さまざまに変化していった。
それはときには元気よく、ときには不安げな調子に聞こえ、
喜怒哀楽の感情を表しているかのように感じられた。
ハケに含ませた水によって黒が剥がれ落ちていくと、
豪雨のなかで森に佇んでいるような、そんな様相の画面となった。
そこにMAYAさんが思いっきり腕を動かし、パステルによる線が描かれていった。
ただ、パステルは削られてとても小さくなっていたので、
指で絵の具を押し除けていくような、白いラインが画面に浮かび上がった。
無限のマークのような、線が描かれたそのとき、
「もう、終わるよ」
とMAYAさんは呟き、右上にサインを描いた。
ライブペイントは30分ほどで終了だった。
MAYAさんは絵を描いているとき、別の世界へといっているような雰囲気がある。
誰とも目を合わせず、ほとんど声を発さなかったけれど、筆を置いた最後にこういった。
「このライブペイントは、利樹さんは嫌がるかもしれないけれど、藍さんの追悼として行いました」
岡林さんの妻・藍さんは1年半前に、第2子出産の際に帰らぬ人となった。
藍さんは〈みる・とーぶ〉の仲間だった。
藍さんの不在について、私は何をどう書いていいのか未だにわからないけれど、
今回、このような場を持てたことが心底よかったと思えた。
岡林さんは、ライブペイントが終わったあとMAYAさんに促され、ソロ演奏を行った。
このときの太鼓の音色は体育館にひときわ大きく響き、
それはまるで天まで昇っていくような透き通った音だった。
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29日はアンデス民族音楽〈ワイラジャパン〉のライブがあり、
30日は昼からずっとライブが行われた。
13時からは長澤まろいさん、14時からはじュんきとめいさん。
ライブ会場は体育館。
普段は「ミルトぼうけん遊び場」という名前で子どもたちの遊び場となっており、
今回はライブ中でも自由に遊べるようにした。
子どもがボールを投げたりおままごとをしたりするなかで歌った2組は、
いずれも自由な空気に包まれた空間でライブを行うことをとても喜んでくれた。
「なんだかとてもあたたかい雰囲気のなか、歌うことができてすごくしあわせでした」
長澤さんは2児の母。子どもがいるとなかなかライブに行けないので、
そういう人たちにも音楽を聴いてもらえる機会になればと思ったという。
じュんきさんは、以前に「森のようちえん」の活動をされていたそうで、
子どもが主体的に遊ぶ場をつくっている私たちの取り組みにとても共感してくれた。
「お祭りにきている地元の方々や子育て仲間の方々。
なんだかあったかい方ばかりで、僕らのLIVE終わったあとも
『よかったよー!』と言って涙ながらに声をかけてくださる方が
何人も何人もいらっしゃいました。うれしかったー」
子どもと人々の幸せな未来を願う歌は、体育館の雰囲気とピッタリとあっていた。
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そのあとには、LOVE & PEACE WEDDINGと題して、
みる・とーぶのメンバーであるふたりの入籍を記念した、
公開ウェディングライブを行った。
〈つきに文庫〉という古本屋を美流渡で営む吉成里紗さん(旧姓・寺林)と
岩見沢にある小さな居酒屋の店主・吉成厚人さん。
里紗さんはアフリカンダンサーとして活動していて、厚人さんもギターを弾いており、
どちらも音楽関係の友人が多いことから、5組のライブが行われた。
ステージの垂れ幕をつくったのはMAYA MAXXさん。
子どもたちと描いたシャボン玉の絵とともにLOVE & PEACE WEDDINGの文字をあしらった。
また、旧美流渡中学校の向かいにある安国寺の住職の立会いによる「人前結婚式」も実施。
さらには風船アーティストのベラさんが会場を風船のオブジェで飾ってくれた。
パーティーの料理は、みる・とーぶのメンバーであるスパイスカレーのお店
〈ばぐぅす屋〉が腕を振るった。
地域の仲間がそれぞれの才能を持ち寄ってつくった手づくりのウエディングとなった。
ふたりが最後に挨拶に立ったとき、なんだかじんわりと涙が込み上げてきた。
イベントを開催すると、いつでも入場者数や物販の売り上げが気になってしまい、
全体に少なかったりするととても凹む。
けれど、根本的にはいつも顔を合わせている仲間が喜んでくれるのが一番うれしい。
その顔が見たくて、いろいろ会を開いたりしてきたんだということを
再確認できて、本当にやって良かったと思えた。
フェスティバルの3日間は、強烈な暑さと、新しい出会いと、
ハッピーな空気に包まれた、忘れられない夏の思い出となった。
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