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労働と食べ物はお金では換算できない。
そばを育てた記録を小さな本に

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.175

posted:2022.12.14   from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

下書きなしで一気に書き上げる

11月のこの連載で、そばを育て、それを収穫し、
製粉して食べるまでの道のりについて書いた。

そのとき、私は
「まだはっきりとは言葉にできないのだが、お金には換算できない手作業の尊さや、
穀物を食べるということの重みを感じとっている」と締めくくった。
その後、この重みとは一体なんだろうと、おりに触れ考えるようになった。
そして急に、そばづくりのプロセスを1冊にまとめるアイデアが浮かんだ。

閉校した中学校の敷地でそばを育てた。秋にはたわわに実をつけた。

閉校した中学校の敷地でそばを育てた。秋にはたわわに実をつけた。

以前に私が刊行した『山を買う』『続・山を買う』のように、
文字も絵も手書きの、手のひらサイズの本をつくることにした。

A6サイズの小さな本。文字も絵もすべて手書きした。

A6サイズの小さな本。文字も絵もすべて手書きした。

いつものように、ページ構成をメモしたり、下書きはせずに、
頭からぶっつけ本番で一気に走り切る。
ページ配分を先に決めてしまうと、できたような気分になって
ワクワク感が半減するし、下書きから清書という段階を踏むと、
新鮮さが失われるように感じられるからだ。
鉛筆で書くので、間違ったところがあれば消しゴムで消して書き直す。

まずは、そばづくりを一緒にやってくれた美唄市の農家・渡辺正美さんの紹介から。
その後、4月からひと月ごとに行った作業について書いていった。
そばは、夏の間はほとんど手間いらずなのだが、
10月には脱穀、選別、製粉作業が待っていた。
電動機械はできるだけ使わないようにしたいと渡辺さんの提案があり、
昔ながらの道具で作業を進めることになった。

『そばの1年』より。

『そばの1年』より。

今回使ったのは、郷土資料館にあるような農耕器具で、それらは素晴らしく役立った。
これまでも、こうした道具を見る機会はあったが、触ったことがなかったため、
さして気にも留めてこなかったが、今回ググッと距離が縮まったように思った。
特に、タネとそれ以外の葉っぱや茎、ホコリなどを選別する
唐箕(とうみ)という道具には感動した。
ハンドルを回すと風が起こり、タネより軽いものを吹き飛ばすことができるのだ。

実は昨年、手でよりわけたり息を吹きかけたりすることによって、
タネとそれ以外を分けてみたのだが、
数時間かかって選別できたのは、手のひらにのるくらいの量。
しかも、息を吹きかけすぎて酸欠状態になって、完全にきれいにはできなかった……。
昔の人も、きっとそんな経験があったはず。
中国から伝来したという唐箕を初めて使ったとき、本当に喜んだに違いないと実感した。

『そばの1年』より。

『そばの1年』より。

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生きること・食べることについて語り合う

Page 2

穀物を食べることの重みとは?

今回の本では、そばの生育や農耕器具を使った実感などを言葉とともに
イラストでも表すことで、そばの作業工程が、リアルに伝わってくれたらと思った。
そして、最後に締めくくりのページに、
「穀物を食べるということの重み」について考えを巡らせた。
次第にはっきりとしてきたのは、労働や食品の価値を、
無自覚にお金に換算していたということだった。

今回の体験で、お金という尺度では測れない、ゼロ地点に自分が立たされたように感じた。
ゼロ地点とは、おそらく生きることと食べることが直結しているということ。
それは当たり前のことであると思うのだが、本当にはわかっていなかったのだ。

1日かけて製粉したが、粉にできたのはわずかな量だった。

1日かけて製粉したが、粉にできたのはわずかな量だった。

本の締めくくりに、何度か手直しをしながら、こう書いた。

そばを育てそれを食べることは、生きることそのものなのではないか。
労働と食べ物の価値はお金でははかれないと思った。
そばの味は畑そのものの味。おいしいから食べるというよりも生きることそのもの。

ただ同時に、これはあくまでも予想(仮説?)であって、結論ではないとも思った。
来年は、そばをできる限りひとりで育て、どうしても手作業だけでは追いつかない
脱穀以降の作業を渡辺さんに協力してもらおうと思った。
それを何年か続けていかないと、まだわからないことがあるように思えてならないからだ。

『そばの1年』より。

『そばの1年』より。

ゴールを決めずに書き始めた『そばの1年』だが、24ページぴったりで終わった
(8の倍数が印刷には都合のいいページ数)。
30年弱、編集という仕事に携わってきたからなのか、
自分のなかに8ページ単位のリズム感が備わっているような気もしている。
原稿をスキャナでデータ化して、パソコン上で色つけをして完成。

そば屋の看板やそばのパッケージは、毛筆体の文字で渋好みのイメージがあるけれど、
表紙はあえてピンク色にしてみた。
どんな人が本を手に取ってくれるのかは、まだわからないが、
この本をきっかけに生きること食べることについて語り合えたらうれしいなと思っている。

『そばの1年』(A6サイズ、24ページ) 500円(税込)。

『そばの1年』(A6サイズ、24ページ) 500円(税込)。

注文は森の出版社 ミチクルのFacebookから。

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