連載
posted:2016.8.4 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
今春、北海道に8ヘクタールの山を買って、そこで行う活動を「山活!」と称し、
週末になるとささやかな取り組みを行っているのだが、
今回は山につくった小さな東屋についてレポートしてみたい。
この山にいずれは家を建てたりして、
エコビレッジづくりの拠点にしたいと目論んでいるのだが、
インフラ整備や建築コストのことを思うと、具体化へは道半ば。
ただ、住めるレベルというのは脇においておくとしても、
日をさえぎるための小屋のようなものは、
なんとしても必要なんじゃないかと切実に思っていた。
買った山は木がすべて伐採されたあとなので、木陰というものが存在しない。
いくら北海道とはいえ、日中ずっと炎天下のなか、
山の整備をするのはなかなかしんどいもの。
ということで夫と相談し、即席で原始的な東屋をつくってみることにした。
「山活!」をやるときには友人たちが数名集まってくれることがある。
この日は、山の共同購入者である農家の林一家に加え、
DIYに興味のある友人家族も集まった。
まず、小屋づくりの始まりとなったのは笹刈り!
連載21回で紹介したように、山の整備の方法として
あるとき友人が、「笹を刈ると地面に日が当たり眠っていたタネが発芽して、
その土地の生態系が復活する」と教えてくれたことがあった。
その言葉を聞いて、刈り払い機は使わずに、
人海戦術で笹刈りをしようと意気込んではみたものの、この作業はかなり地味……。
せっかくおもしろがって来てくれる友人たちにも、
笹刈りだけでは申し訳ない気持ちもあり、今回はこの笹を屋根の素材として活用する、
一石二鳥、一挙両得(?)の取り組みにしようと考えた。
1時間ほど笹を刈ったら、いよいよ柱を建てる作業に入る。
この山には木を伐採したあとに残された、細い木が山積みになっているので、
これを柱に利用することにした。
土に30センチほど穴を掘って柱を建てたら、シュロ縄で梁を結びつける。
次に屋根部分に木を数本渡して留めれば、骨組みはできあがる。
そして、屋根に取りつけた木に笹を挟み込むように載せていくと、
見事に小屋が完成した!!
休憩しながらゆるゆると進めたが、かかったのはたったの4時間。
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「南国のリゾートホテルにありそう」とか、
「夏ならここに泊まれるんじゃないか」とか、完成してみんな大はしゃぎ。
東屋づくりって思った以上に楽しいし、
できあがったときの達成感がとっても高いことに気がついた。
そして、材料さえ手に入れば意外に簡単!
仮設でいいなら、もっとたくさんつくってみたいし、
自分なりに工夫もしてみたいという気持ちが高まった。
東屋をつくってふと思い出したのは、シュタイナー教育で
9歳の頃に家(小屋)づくりの授業を行うことだった。
シュタイナー教育とは、ルドルフ・シュタイナーが
1919年にドイツで始めた教育方法で、子どもの体と心の発達に応じた
12年間のカリキュラムが設けられている。
その特徴は、算数や国語などの座学と芸術とが一体になっており、
さまざまなものづくりや創造の体験を通じて、世界について学んでいくことだ。
なぜ9歳で家づくりなのかと言えば、この時期の子どもには自立心が芽生え、
精神的な成長の節目としてこの体験を行うという。
難しく考えなくとも、自分たちで秘密基地や隠れ家をつくってみたくなるのが、
この年頃からなのだそうだ。
シュタイナーでは9歳の子どもたちが家づくりを行っているが、
何歳になっても自分の手で小屋のようなものを建ててみるって、
すごく大切なんじゃないかと実感した。
東京生まれ東京育ちの私にしてみれば、どんなに簡単な小屋であっても、
まさか自分がつくれるなんて思ったことは一度もなかった。
それが、自分にだってできると思えたのは、大きな価値観の転換だった。
さて、いまもうひとつ、わが家の裏にも小屋が建とうとしている。
夫の仕事は大工なので、小屋くらいならすぐにできるようだ(たぶん)。
冬に使っている除雪機を入れておく場所がほしいのだという。
そして、この小屋に使っている廃材は、いま岩見沢の美流渡地区で
私たちが改装を計画している空き家から出たものだ。
……と、ここまで書いてきて、実は小屋の話よりも、
この空き家の改装計画のほうが重要なんじゃないかと、
自分でツッコミを入れたくなってきた。
4月に連載で書いて以来(連載17回)、
このことはずっと沈黙をしてきたのだが、それには訳がある。
夫は時間があれば、美流渡の空き家に通って、内壁を壊す作業を行っている。
どうやら壊しながら、ここをどうするのか構想を練っているようだが、
最低限の経費で内装を直すことにするか、あるいは一からすべて直すのか、
結論が出ぬまま時間が過ぎているような状況だ。
来年息子が小学校に上がるので、美流渡に引っ越すのであれば、
来春のタイミングを逃すわけにもいかない。
しかも北海道は11月には雪景色だ。
実質作業ができるのはあと3か月しかないんだけど……。
ただ、夫は空き家の壁をはがしている最中に、ホコリにやられて扁桃腺が化膿し、
点滴を受け1週間寝込むことに(体を張ってがんばってる??)。
こんな状態で気は焦るが、口を出せば喧嘩になることは明らかだし、
ここはグッと我慢、我慢。
いつかすべてがスッと流れていく日を、いまはただ待つのみである(かな?)。
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