連載
posted:2016.4.14 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
4月3日、岩見沢の美流渡(みると)地区にある空き家のカギをもらい、
いよいよこの場所の改装計画が始まることになった。
そのために、なによりも先にやらなければならないのが除雪作業。
北海道内で有数の豪雪地帯として知られる岩見沢。
その中でも美流渡は山間部にあり、この時期になっても
まだまだ雪がたっぷり残っている。
カギを開けて中に入るためには、玄関先まで
とにかく雪かき(この地域の人は雪ハネという)をしなければならない。
……といっても、私は東京育ちで、まったくの素人。
下手にやっても迷惑なので、夫がひとり黙々と雪と格闘することになった。
さて、この連載で何度か書いてきたように、私はこの赤い屋根の空き家を、
エコビレッジづくりの足がかりにしようと考えている。
まずは、大工である夫にここを改装してもらって、
ゲストハウスをつくろうと思っていて、その計画がようやく具体的に動き始めた。
私は夫に、友人たちが宿泊でき、小さな子どもたちが遊べ、
そして私たちが暮らせるスペースにしたいと、大まかな要望を伝えているのだが、
細かな点はすべて夫にお任せというかたちになっている
(あれこれ首を突っ込みすぎると喧嘩になるので)。
夫は一応わかってはくれているようだが、改装方法について多くを語ろうとはしない。
あまり突っ込んで聞いても煙たがられるだけなので、
こちらも話題にすることはめったにない。
そんななか、友人との飲み会の席で、ご機嫌な夫が、
ついに改装計画を語ってくれたのだった。
その内容はこんな感じだ。
まず、壁などはすべて壊し、電気や水道の整備から始める。
あの空き家は、現在お風呂場に水道の蛇口がなく、
台所から水をホースで引っ張ってきており、無理な増築の跡があるようだ。
また、1階は台所と居間、その奥には床の間や
寝室として使えるスペースがあるのだが、全部壁を取払いワンフロアにするという。
2階のプランは検討中のようだが、夫としては吹き抜けをつくり、
ポールを立てて子どもたちが滑り降りる(消防士の出動シーンに出てくるような)、
そんなしかけも考えているらしい。
さらに、「イメージは〈アルテピアッツァ美唄〉のような内装」と友人に語った夫。
岩見沢に近い美唄(びばい)にある〈アルテピアッツァ美唄〉は、
彫刻家・安田侃(かん)さんがつくった野外彫刻公園で、
屋内の展示スペースとして旧栄小学校の木造校舎を利用している。
床は木、壁は漆喰で、懐かしい木造校舎の雰囲気を残しつつ、
洗練された心地いい空間をつくり出していて、夫は前々から気に入っていた場所だった。
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改修が終わるのは、夫の計画としては今年の雪が深くなる前という(11月くらい?)。
まあ、かなり時間はかかるが、はやる気持ちをグッと抑えて、
まずは好きなようにやってもらいたいと思っているのだ。
そう思うのには理由がある。
昨年の冬、夫は首のヘルニアのような症状をわずらい1か月ほど入院した。
頸椎を金属で固定する手術を受けてから、
それまで務めていた工務店の仕事をずっと休んでいる状態だ。
いまでは日常生活に支障がない程度まで回復したのだが、
ハードな現場仕事をこなしていくのは当面、難しそうだ。
こうした状況のなかで、空き家の改装ならば
自分のペースでできるんじゃないかと私は思っている。
また、これまで工務店で仕事はしてきたが、
自らデザインして内装をやった経験はない。
もともと美大出身ということもあり、美的センスにはうるさいほうなので、
ならばこの空き家を改装し、自分の仕事として
しっかりと残せるものをつくれたらいいんじゃないかとも思う。
そして、わが子に自慢できるような空間を
思う存分つくることができたら、きっといいはず。
ただ、こんな私の想いを、夫は知る由もなく……。
「2年前だったら、いくらでも改装なんかしてやる!
いまは簡単にはできないんだぞ!(手術をしてから力がなくなった)」とか、
「美流渡に移住するなんて、誰も賛成してないぞ。
お前がひとりやりたいって言ってるだけなんだ、わかったか!」
と、口を開けば文句が大半。
ときどき機嫌のいいときには、定期預金が満期になったので、
そのお金を家の改修費に当てようと思っていると前向きな発言もある。
また、以前から購入を計画していた2台目の車は、この改装があったために、
普通車ではなく軽トラックを夫は選択した。
また、足りない大工道具を買うために、ホームセンターで
10冊ほどカタログをもらってきたりもしている。
結局、改装を積極的にやりたいのか、できればやめたいのか、夫の本心はわからない。
しかも最近、機嫌のいいときと悪いときの差が激しくなっているのも気がかりな点だ。
それが、この1年間、あまり働くことができず、
家事と子どもの世話が中心になった生活のストレスからくるのか、
美流渡移住計画が不安なのかはわからないが、でも、きっと空き家の改装が始まったら、
そんな気持ちの揺れも徐々に落ち着いてくるんじゃないかと、楽観的に考えている。
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こんな風に空き家の改装は、わが家の一大事件となっているわけだが、
この家を拠点にすると決めてから、私の友人たちの間でも
美流渡で何かできるかもしれないという期待が高まっている。
そのひとりが、岩見沢で農家をする林睦子さんだ。
林さん一家とは、今度、山の土地を一緒に買おうとしているのだが(連載第9回参照)、
さらに睦子さんは、この空き家の裏に広がる森で、
森のようちえんができないだろうかという可能性を探っている。
彼女はこれまで岩見沢市内で子どもの遊び場をつくる
プレーパークという活動を続けてきた。
その活動場所は公園が中心だったが、
もっと自然の多い場所で子どもたちを遊ばせたいと、
森での遊びの場をつくりたいと思っているのだ。
睦子さんと一緒に空き家の裏の森を散策していると、
坂滑りができそうな斜面があったり、
倒木が折り重なって天然のアスレチックのようになっていたりと、
子どもたちが楽しめそうなスポットがいたるところにあることがわかった。
雪が解けたら下草を刈って整備をしつつ、
まずは森でのプレーパークの開催をしてみようということになった。
プレーパークを定期的に開催し、そこから徐々に森のようちえんへと広げていけたら、
そんなアイデアがわいてきたのだった。
また、少しずつではあるが、美流渡という地域で
人と人とのつながりが生まれていっている。
先日、美流渡の地域おこし推進員(協力隊)として活動する
吉崎祐季さん(連載第16回参照)や、
私の友人でともに美流渡に拠点をつくりたいと考えている
黒川文恵さん(いずれ彼女のことはこの連載で書きたいと思っている)らと一緒に、
ささやかな味噌づくりの会を開いた。
場所は、美流渡と同じ東部丘陵地域の毛陽(もうよう)地区にある
毛陽交流センター内にある調理施設だ。
ひとりではついついつくるのが億劫になる味噌づくりも、
こうして集まってつくれば楽しいはずと、みんなで声をかけあって実現した。
おしゃべりしながら味噌をつくる最中にも、
イベント開催など美流渡をめぐる次なるプランが生まれていった。
森のプレーパークをはじめとした新しいイベントが、
こんな風に友人たちと話をするなかで、少しずつかたちになりつつある。
頭をひねって何かの企画を考え出すというよりも、
人と人とのつながりから自然に何かが生まれていくというのが、とてもうれしい。
こうしたアイデアを大切に進めつつ、ゆっくりと
空き家の改装をしていけたらいいなと、いま考えている。
さて、次回は、空き家の改装とともに進行中の山の土地購入についてリポートします。
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