連載
posted:2016.6.30 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
北海道・岩見沢の山間部にある8ヘクタールの土地を、私と一緒に購入した
林宏さん・睦子さん夫妻のことは、この連載で何度か触れてきた。
山の整備を「山活!」と称して仲間を募って活動したり、
睦子さんが企画している子どもの遊び場「プレーパーク」に一緒に参加したり。
いつもフットワーク軽く、そのとき楽しいと思うことをやっているのだが、
そのなかでも特に印象深かったイベントについて今回は書いてみたい。
それは、岩見沢の美流渡(みると)コミュニティーセンターで
6月11日に行われた睦子さんのトークイベントだ。
睦子さんは、子どもの自由な遊び場づくりやコミュニティづくりに興味を持っていて、
日頃からいろんなアンテナを張り巡らせている人だ。
全国のプレーパークの活動を見学したり、
ときには海外の子どもの学びの場を訪ねたりすることもある。
そして、今年のゴールデンウィークに彼女が参加したのは
「よく生きるツアー2016@イギリス」だ。
訪ねた先はイギリス北部スコットランドにあるエコビレッジ〈フィンドホーン〉と、
世界的な市民運動となっている〈トランジション・タウン〉発祥の地、
イギリス南部デボン州にあるトットネスだ。
このツアーでは、フィンドホーンやトットネスを単に訪ねるだけでなく、
ワークショップに参加したり、人々と触れ合ったりする
15日間のプログラムが組まれていた。
フィンドホーンには季節の花が咲き乱れる。このツアーを企画したのは、〈よく生きる研究所〉を主宰し、〈トランジション・ジャパン〉初代代表を務めた榎本英剛氏。2015年にも同様のツアーを開催し、エコビレッジやトランジション・タウンの取り組みを人々に伝えている。
北海道にエコビレッジをつくりたいと思っている私としては
なんともうらやましいこのツアー。
しかし、わが家は子どもが小さいこともあり参加できないので、
睦子さんに報告会をやってもらえないかとお願いしてみた。
彼女も報告会には乗り気で、いま私が空き家を改装して
ゲストハウスのような場所をつくろうとしている、
美流渡地区で開催できたらいいねと話し合った。
美流渡は過疎化が進み、学校の統廃合問題なども持ち上がり、
コミュニティをどう維持していくのかが課題となっている地域だ。
地域の今後について考えるとき、イギリスの事例が役に立つこともあるかもしれない。
また、この地域を活性化しようと活動を続けるNPO代表の菅原新さん(連載第10回)や、
地域おこし推進員(協力隊)の吉崎祐季さん(連載第16回)とのつながりも
生まれたこともあり、ふたりと相談するなかで報告会を具体化していくことにした。
「友人たちを集めて5、6人で話が聞けたらいいね」
最初私たちが考えていたのは、そんな小さな報告会だった。
そこで試しにFacebookにイベントページをつくって知らせてみたところ、
思いがけず反響が大きいことがわかった。
もしかしたら20人くらい集まるんじゃないだろうかということで、
ゆるいおしゃべり会よりは、もう少し報告会らしい企画に変えていくことにした。
「美流渡やその周辺の地区の人たちに参加してもらって、
今後について話し合える場にしてみたい。
さらに別の地域の人たちともつながり、
さまざまな視点でまちづくりについて考えられたら」
そんな想いから、この会を「東部丘陵地域未来会議」と名づけ、
第1部はイギリスの事例の報告、第2部は参加者でグループワークを行うことにした。
ちなみに東部丘陵地域とは、岩見沢の美流渡をはじめ、
朝日、毛陽、万字(まんじ)などの山間部に近い場所のことを指す。
いずれも人口減少の問題を抱える地域だ。
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報告会開催の日、会場には30名ほどの人々が集まった。
この地域の人だけでなく、札幌や富良野からも
やってきてくれた人がいたことはうれしい驚きだった。
睦子さんの話に聞き入る参加者。年齢や職業もさまざまな人たちが集まった。
そしていよいよ第1部のスタート。ちょっと緊張気味の睦子さんだが、
パワーポイントにまとめた資料をたくさんつくり準備は万端。
まずは、フィンドホーンの紹介から話は始まった。
フィンドホーンは、1962年にアイリーン&ピーター・キャディ夫妻と、
友人のドロシー・マクリーンによってつくられたコミュニティだ。
砂漠のような荒れ地で野菜をつくり、
スピリチュアルを軸にした暮らしを営む彼らに共感した人々が、
徐々に集まっていったという。
また、1980年代後半には、精神・文化・経済・環境といった
すべての面から持続可能な村づくり「エコビレッジ計画」をスタート。
現在、フィンドホーンは財団として運営されており、
自然と人との共存、人のあり方、つながり方を学ぶ場となり、
700〜800人近くがコミュニティに関わりを持っている。
また、研修を受ける人々も多く、毎年世界各国から
1万4千人の人々が集まってくるという。
睦子さんはこの地に1週間滞在し、自分、人、自然とのつながりを見直すための
さまざまなワークショップを体験した。
例えば目を閉じて声だけで仲間を探したり、手で喜怒哀楽を表現したり。
いずれも、自分という壁が消えて、みんなが一緒であるという感覚を
思い起こさせてくれるワークだったという。
「フィンドホーンにはさまざまな人々が集まります。
だからこそ、人と人とを意識的につなげる努力を常に行っているんですね」
フィンドホーンでワークショップを体験した睦子さん。スコットランドにあるフィンドホーンは、雄大な自然に囲まれた場所に位置する。
みんなの気持ちをひとつにするさまざまなプログラムが用意されていたという。
続いてトットネスのトランジション・タウンについて、睦子さんは紹介してくれた。
トランジション・タウンとは、パーマカルチャーの講師であったロブ・ホプキンスが、
2005年にイギリスの小さなまちトットネスで立ち上げた市民運動だ。
石油などの化石燃料に依存せず、自然と共生した持続可能なまちづくりを、
市民たちの想像力によって実現していく活動で、
現在ではヨーロッパや北米を中心に40か国以上、
約1200市町村のトランジション・タウンが存在している。
トットネスでは市民が中心となって、
さまざまなプロジェクトが展開されているそうだが、
なかでも睦子さんが興味を持ったのは「地域起業家フォーラム」という試みだ。
5年ほど前にトットネスで立ち上がったもので、このフォーラムには、
地域の起業家や専門家、市民など100人以上が集まるという。
フォーラムは丸1日かけてじっくり行われ、
前半はゲストによる基調講演や互いの関係を深めるためのグループワークを実施。
後半では起業を目指す市民が、自らのアイデアをプレゼンテーションし、
趣旨に賛同した人々から投資を募るという仕組みがつくられている。
「市民のアイデアに市民が投資するというシステムがおもしろいと思いました」
小高い丘から見下ろすトットネスの市街。人口8000人ほどの小さなまちだ。
第1回の地域起業家フォーラムでプレゼンテーションされたのは、コーヒーかすを使ってマッシュルームを栽培するというアイデア。マッシュルームの販売とともに、育てるキットもつくり、これが人気に。1年間で7000キット売れたという。
睦子さんの話を聞いたことで、エコビレッジもトランジション・タウンも、
地域のコミュニティをいかにつくっていくかを考えるうえで、
大きなヒントになる事例が本当にたくさんあることが実感できた。
これらの活動の一端がわかっただけでも、この報告会の意味は大きなものだったが、
さらに第2部では、トットネスで行われていた
「地域起業家フォーラム」を参考にしたグループワークを行い、
こちらもたいへん刺激的なものとなった。
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第2部で行われたのは、参加者を4名ずつに分けたグループワークだ。
自己紹介のあとに第1部の感想をポストイットに思いつく限り書き、
それをグループで発表。エコビレッジとトランジション・タウンの話の
どこに興味を持ったのかを互いにシェアしていった。
次に、地域にこんなものがあったらいいなと思うものを
ポストイットに書き出して意見交換を行った。
わたしが参加したグループには、美流渡在住の男性2名と、
近隣の地域おこし協力隊の女性1名がいた。
田舎暮らしに憧れて東京から北海道に移住してきた協力隊の女性は、
第1部の話を受けて、フィンドホーンの自然の美しさは
美流渡にも共通すると語っていた。こんな話から、ポストイットに書いたのは
「美流渡でゆったりとした朝食を食べられるようなテラスがあったら」という提案。
また、美流渡在住の男性があったらいいなと思うものとして挙げたのは、
「地域の人々の知恵が学べるような寺子屋」だ。
ポストイットにこんなものがあったらいいなと思うものを書いていく参加者。考えをみんなでシェアすることでアイデアが広がっていく。
参加者の顔は真剣そのもの。東部丘陵地域の未来を考える会議ではあったが、どの地域にも当てはまるさまざまな課題が話し合われた。
たった数十分のグループワークの時間だったが、
この地域にこんなものがあったらというアイデアは大きく膨らんでいった。
トットネスの地域起業家フォーラムでは、
市民たちが「こんなことが必要だ」という紙を掲げると、
別の市民が「わたしはこんなことができますよ」という紙を貼っていくことで
ビジネスプランが具体化していくのだという。
今回は、そこまでの時間はとれなかったが、
会が終わったあとに参加者が書いたポストイットをまとめてみると、
過疎化が進むこの地域に新しい動きが生まれるかもしれない、
そんな予感にあふれていた。
美流渡においしいごはん屋さんがあったら。
空き家を活用しておもしろい場所がつくれたら。
みんなが集まれる場所があったらいいなあ。
こうした、欲しいものや場所の提案に加え
車をみんなでシェアする取り組みをしてみたい。
不要品を交換できる仕組みをつくりたい。
といった、暮らしに役立つ提案まであり、
企画をした私たちは、そのアイデアの多彩さに驚くばかりだった。
そして、「いまの集いがまさしく第一歩。50年後に今日を懐かしく思える日が来る」
というポストイットのメッセージが、強く心に響いた。
そう、今日の会は、地域が少しずつ変わっていくかもしれないという
希望のタネなんだ、そんな風に感じられた。
グループワーク終了後にポストイットを整理。場所に関することや食べ物に関することなど、さまざまなアイデアが集まった。
しかし、こうしたイベントを1回やるだけでは、
きっと次のアクションにはつながらないという想いも同時に抱いた。
何より大切なのは話し合いの場を継続させていくことだ。
トットネスの地域起業家フォーラムで行われているように、
前半は地域を元気にするようなインスピレーションを与えてくれるゲストを招き、
後半ではグループワークを行うような形式で、さっそく第2回の開催を企画した。
ちょうど7月に、私の友人で、NHKの番組『すてきにハンドメイド』などにも出演する
手芸作家の岩切エミさんが北海道にやってくるチャンスがあり、
講演を依頼することにした。
彼女はこれまでバリ島の人々や沖縄・宮古島の人々、
そして東日本大震災で被災した東北の人々と一緒に、
手づくりのアクセサリーやバッグなどをつくる取り組みを行ってきた。
手仕事を通じて地域に仕事が生まれ活気づくことを願う彼女の話をもとにして、
今度は美流渡ならではの手づくり特産品のアイデアなんかが生まれたら……。
そんな場になることを願って第2回目の東部丘陵地域未来会議を行いたいと思っている。
開催は7月3日。地域の人々だけでなく、この連載を読んでいるみなさんも、
ぜひ参加してもらえたらうれしいです。
岩切エミさんが編み図を提供し東北の人々が制作したブローチ。手仕事で笑顔がつながっていくというコンセプトをもつ活動〈EAST LOOP〉の取り組みだ。
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東部丘陵地域未来会議 vol.2 岩切エミトーク
自分でつくって自分で売ろう! 地域をまきこむ手仕事のチカラ
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