連載
posted:2016.1.28 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
エコビレッジをつくりたいと山の土地探しを続けるなかで、
ぜひ買いたいと思ったすてきな場所があった。
そこは、岩見沢の市街地から車で30分ほどのところにあり、360度の展望が広がる、
まるで『アルプスの少女ハイジ』に出てきそうな美しい場所で、
“ハイジの丘”と呼んでいる。
これまでもこの山については少しだけ触れてきたが、
今回はその購入計画の経緯について書いてみたい。
ハイジの丘にひと目惚れした勢いで、
昨年の秋から地主さんへのアプローチを続けたところ、
具体的な金額をこちらで提案するという話にまでこぎ着けることができた。
そこで、この土地を共同購入しようとしている農家の林宏さんとともに、
地元の農業委員会や森林組合へ行って、相場についてリサーチをしていった。
着々と準備を進めていったわけなのだが、そんななかである疑問がわいてきたのだった。
それは、本当にわたしたちがこの土地を買ってもいいのだろうか? という疑問だった。
地主さんは手放す意思があると言っていたが、おつき合いをしていくなかで、
この土地にとても愛着を持っていることがわかってきた。
そして、頻繁に自宅からこの山へ通って
畑の手入れや山の草刈りをしている様子を知るにつれ、
この土地を手放してしまったら山での楽しみがなくなってしまうのではないかと、
わたしたちのほうが心配になってきた。
そうした疑問を抱えつつではあったが、林さんと土地の値段について検討し、
あるとき地主さんに提案をしようとしたときのことだった。
「やっぱりもう少し、山で畑を続けたいんだよね」
地主さんは、わたしたちについにその気持ちを伝えてくれた。
この言葉を聞いたとき、もちろんちょっぴり残念ではあったけれど、
林さんもわたしも不思議に安堵した。
あれほど愛着を持って手入れをしているからこそ、あの山は美しいのだし、
このままであることがいちばん自然、そう思えたのだ。
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さて、ここで話は終わったかにみえたが、なんと新たな展開が起こった。
このとき地主さんが、別の山の土地を買ってはどうかと勧めてくれたのだった。
ハイジの丘のような眺望はないけれど、とにかく広くて
8ヘクタールくらいある場所だ(ちなみに、東京ドーム1個分が約4.7ヘクタール)。
広さは十分! そこで地主さんのもとを訪ねたその足で、
林さんと一緒にもうひとつの土地を見に行くことにした。
この土地は、木が伐採されていて、笹がびっしりと生えた草原だった。
ハイジの丘のように変化に富んだ地形ではなく、荒野のような土地が広がっていた。
木があり過ぎれば、中へ分け入ることができないが、
まったくないというのも、なんだか寂しい感じがするものだ。
この風景を前にして、林さんとわたしは、しばし言葉なく立ち尽くしていた。
少しの沈黙の後に、林さんがこうつぶやいた。
「ここでできることをやってみようかぁ〜」
そうですね! なんでもトライしてみることは大切。
うん、やってみよう。わたしも、そう思った。
家に帰って夫に事情を話すと、案外すんなり購入に賛成してくれた(驚き!!)。
その理由を聞いてみると「子どもに土地を残してやりたい」、
そんな気持ちがあるのだという(わたしはエコビレッジづくりのために
土地を買いたいと思っているんだけど、そういうことじゃなかったのね)。
夫としては社会が今後さらに不安定な状況になっていくと予想をしていて、
そんななかで親が子どもに渡せるものは、お金ではなく
土地なのではないか(本当は水源があればベストと言っていたが)
と思っているようだった。
夫婦の思惑はすれ違ってはいるが、まあ土地購入に異存がなければいいよね!
ということで、いま林さんと一緒に、
もうひとつの山の土地の購入へと動き出したところだ。
こちらは地主さんの意思も固まっているので、書類上の手続きを進めれば問題なさそう。
雪解けまでに手続きをするのを目標にしようと思っている。
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さて……、いよいよ山が手に入るかもしれないというところまで
話が進んだので、ここでまず何から始めようかと考えてみた。
土地の中央部分はハーブなどを植えて、はらっぱみたいにしたい。
草原のまわりにはクリやブルーベリー、リンゴの木など果樹を植えたい。
その奥には、この地域の植生にあった古来の森の姿を再生したい。
そして、いずれは、はらっぱに家を建てよう……。
う〜ん、木がないのは寂しいけれど、真っ白なキャンバスに絵を描くようで、
それはそれでいいのかも!?
すべてがまったくの机上の空論だけれど、雪解けから、
とりあえずひとつだけ必ずやると決めたことがある。
それは、第7回で紹介した山の達人、日端義美さんに週1回弟子入りすることだ。
日端さんは岩見沢に山をふたつ持っていて、
果樹を育てたりハーブを植えたりキノコづくりをしたりと、
山ライフを心底エンジョイしている。
そんな日端さんが日々行っている山の手入れや活用術を学んで、
ちょっとずつだけれどもやりたい方向へと歩みを進めていこうと思う。
前回の連載で紹介した、美流渡地区でスタートしたいと思っているゲストハウスと、
この山プロジェクトのふたつを春から動かしていくことになりそう。
ただ、本業の美術とデザインの編集の仕事も、もちろんですが手は抜きませんよ……。
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