連載
posted:2017.6.30 from:東京都中央区 genre:食・グルメ
sponsored by やまやコミュニケーションズ
〈 この連載・企画は… 〉
「和食」が無形文化遺産に登録され、世界中から注目されるようになりました。
その理由のひとつが、だしからとるうまみです。日本には、豊かな自然と風土に育まれた
天然の素材がたくさんあります。そのうまみをじっくり感じられるのがスープ。
おいしいものには目のない料理家さんたちに、さまざまな食材をだしにしたスープを教えてもらいました。
この食材からこんなうまみが……? まだ味わったことのない“うまみ”の世界にお連れします。
writer profile
Kaori Kai
甲斐かおり
かい・かおり●執筆・編集。長崎県生まれ、東京・熊本の二拠点生活にトライ中。日本各地を取材し、食文化やものづくり、地域コミュニティ、里山・郷土文化、農業をテーマに取材し、雑誌やウェブで紹介。著書に『暮らしをつくる』(技術評論社)。
photographer profile
Tetsuka Tsurusaki
津留崎徹花
つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。東京での仕事を続けながら、移住先探しの旅に出る日々。コロカルで「美味しいアルバム」「暮らしを考える旅 わが家の移住について」連載中。
毎日料理をするのは大変です。
ひとり暮らしでは面倒だし、働きながら子育てしながらの食事づくりは
毎日が綱渡り……なんて声も聞こえてきそう。
そんな日常で、だしをひくなんて到底無理とあきらめている方も多いかもしれません。
でも、疲れているときほど、じんわりだしの効いた汁ものが体に沁みるもの。
「そんな方にこそ、だしを引くことをおすすめしたいんです。
部屋がちらかっていても、疲れてボロボロでも、
10分でおいしい昆布だしのスープが味わえます」
と教えてくれたのは、料理家の山脇りこさん。
「前の晩から昆布をぽんと水に入れておくと簡単にいいだしが取れます。
加熱する場合は60度で30分から1時間ほど加熱するといいのですが、
じっくり水に漬けておくだけでうまみの出る昆布は、世界一手軽なだしだと思います」
ひと晩冷水に浸けただけ、という昆布水を味見させていただくと……「!」
これで充分いいお吸い物になるのではと思うようなうまみが口中に広がりました。
今回はこの昆布水を使って、心と体を整える精進スープをつくります。
精進と聞くと、ちょっともの足りない地味な味を想像しますが、
海苔にトマトとうまみの強い食材を加え、見た目も華やか、
しっかりした味わいの、体に沁みるスープができました。
ただし、おいしいだしを取るには、どんな昆布でもいいというわけではありません。
昆布には真昆布、羅臼昆布、利尻昆布など産地によって種類があり、
味わいも少しずつ違います。
産地まで出向き、昆布漁の船にも乗せてもらったことがあるという山脇さん。
「同じ真昆布でも浜によって味が違うんです。
真昆布の産地は北海道の南茅部(みなみかやべ)ですが、7つある浜のうち、
川汲(かっくみ)、安浦(やすうら) 、尾札部(おさすべ)の3つが
日本最上級品の採れる浜。昆布の善し悪しが浜だけで決まってしまうのは
生産者の努力が報われないようでちょっと悔しい気もしますが、
ワインなどでいうテロワールですよね。
いい浜の近くには山から川が流れ込んでいてミネラルが豊富。
すべては自然の摂理なんですね」
いい味の昆布はやはり値も張るもので、一般的に200グラム1500〜2000円ほど。
山脇さんの昆布水は、水1.5リットルに昆布30〜35グラムを使います。
確かにちょっとぜいたくではありますが、およそコーヒー1杯分。
それでスープ10杯のだしが取れると考えれば、存分に味わえる値段です。
長崎の旅館で生まれ育った山脇さんにとって、だしはソウルフード。
「毎朝目覚めると、厨房から一番だしのいい香りがふわ〜っと漂ってくるんです」
料理家になってすぐだしの教室を始めたのも、
自分の食べてきたものの中心にだしがあると感じていたからだと言います。
「日本人としてとか、料理の基本だからとか、そういう発想はないんです。
ただ自分で引いただしは特別においしい。おいしいでしょ?って伝えたかった。
料理って本当はとても楽しいもの。
でも今みんな忙しくてそれどころではないって生活を送っていますよね。
そんななかでもできることの楽しさを伝えたいなぁと思うんです。
今回のスープも、とっても簡単ですよ」
昆布は言わずと知れた、うまみの王者。さらに、うまみ成分の豊富な
海苔、トマトを加えてつくるのが今回の精進スープです。
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今回さらにもうひとつ、ご紹介したいうまみの食材が「海苔」です。
山脇さんのご愛用は、〈築地林屋海苔店〉の極上海苔。
通っている鮨屋で出会い、すっかりその香りと味に惚れてしまったのだそう。
この海苔屋のご主人、相沢裕一さんは
毎年福岡や佐賀などの本場から海苔を仕入れる、海苔の目利きです。
「まずはそのまま味わってみてください」と、
勧められた極上海苔をさっそく試食してみます。
アルミの袋を開けると、目の前にぱっと海が広がったような磯の香り。
ぱりっとした食感のあと、甘みとうまみがいつまでも舌に残ります。
海苔ってこんなにおいしいものだったとは……!
「海苔は見た目じゃないと私はよく言うんです。
表面が多少曇っていたり、小さな穴が空いていても食べてみておいしいのが一番。
多少穴が空いているくらいのほうが空気を含んでいておいしいくらいで。
あとは初摘みの柔らかい芽を使ったもの。細かく刻んであって、
板付するときに多く枚数を取ろうとせずにたっぷり海苔を乗せたものは、
焼くと厚みがあって、ぱりっとして、口の中ですっと溶けます」
同じ商品の海苔でも、毎年採れた海苔によって、味が微妙に違ってくるものなのだそう。
一年中身近にあるので忘れがちですが、海苔も、海の中で育てられる生きもの。
収穫できるのは秋から冬の間のみで、いい海苔は貴重です。
「昨年は不作でしたが、今年は量は多くないですが質がいい。当たり年なんです。
それも海の状態を見て漁期を遅らせるなど、生産者が調整した結果です。
お日様に当てる時間、採って陸に上げる時期など些細なことが、海苔の味に影響します」
寿司屋などプロにとっては、長く口に残るもの、割れにくいもの、
個性的な味のものとニーズはさまざまなのだそうですが、
素人の私たちが選ぶとしたら、何を基準にしたらよいのでしょう?
「敢えて言うならご飯とのコンビネーションじゃないでしょうか。
ご飯と一緒に食べておいしい海苔は間違いなくおいしい。
でも海苔だけでも充分おいしいので、まずはそのまま味わってみてほしいですね」
今回山脇さんのつくってくれた付け合わせの酢の物のように、
きゅうりやイカなど淡白な味のものにも海苔を加えるだけで気の効いた一品に。
スープにうまみと香りをプラスするものとしてもいい食材。
海苔の使い途がますます広がりそうです。
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◎材料(2人分)
昆布水(昆布だし) 300cc
プチトマト 12個
おくら 2本
海苔 1帖(枚)
塩 小さじ 3分の1
薄口醤油 小さじ2分の1(なければ醤油 小さじ2分の1強)
◎昆布だしのつくり方
昆布だしは、水1.5リットルにだし昆布30~35グラムを入れてひと晩おく。
または、なべに水1.5リットルとだし昆布30〜35グラムを入れ、再弱火で30分加熱する。
◎つくり方
1 プチトマト6個はヘタを取って、熱湯にくぐらせ、湯むきする。
2 残り6個は、へたを取り、1センチくらいにざく切りする。種は自然に取れる分は取る。オクラはよく洗い、ヘタを落として熱湯に1、2分つける。小口に切る。
3 鍋に昆布水、2、薄口醤油を入れて中火にかけ、ふつふつわいてきたら火を弱め、1を入れて、味を見て塩を加える。
4 器によそい、海苔を手でもんで加える(食べる直前が香りがいい)。
◎材料(2人分)
きゅうり 2本
いか(刺身用、そうめん状)50g
焼き海苔 1帖(1枚)
醤油 小さじ1
酢 小さじ1
◎つくり方
1 きゅうりは天地を落として、ピーラーでしましまにむき、4等分して、麺棒などでたたく。イカはざるに並べ、熱湯をかける。
2 ボウルに海苔をもみほぐして入れ、1を加えてまぜ、醤油、酢をくわえてさっとあえる。
◎材料(2人分)
温かいご飯 2膳分
新生姜 大きめのふたかけ(40gくらい)
ごま油 小さじ2
塩 ふたつまみ
◎つくり方
1 新生姜はよく洗って、気になるかたいところだけをこそげとり、千切りにする。
2 温かいご飯に、ごま油、新生姜、塩を加えてさっとまぜあわせる(海苔で巻いて食べてもおいしい)。
profile
山脇りこ
Riko Yamawaki
料理家。料理教室「リコズキッチン」主宰。長崎の観光旅館で生まれ、旬を大切にしたシンプルな家庭料理にモダンなエッセンスを加えて提案している。調味料は基本のものを最小限に、ひと手間を惜しまない、調理はシンプルに、という引き算の料理が得意。グルマン世界料理本大賞2014で昆布のだしとレシピをまとめた『昆布レシピ95』(JTBパブリッシング)がグランプリ受賞。『いとしの自家製』(ぴあ)『明日から、料理上手』(小学館)『一週間のつくりおき』(ぴあ)など著書多数。
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