連載
〈 この連載・企画は… 〉
夫は中国・西安生まれ、妻は日本・東京生まれ。そんなペンギン夫婦が、いま暮らすのは沖縄・石垣島。
偶然訪ねた島で出会った人、モノ、風景に育まれ、ふたりはあの「石垣島ラー油」を生み出し、
毎日多くのお客様を満腹&笑顔にする「辺銀食堂」を営んでいる。
映画『ペンギン夫婦の作りかた』の台湾での公開を記念して、
夫・暁峰さんと友人の和知徹シェフが「石垣島ラー油」の魅力をあらためて紹介する特別編です。
photographer
Jun Kato
加藤 淳
styling
Misa Nishizaki
西﨑弥沙
writer
colocal
コロカル編集部
credit
撮影協力
チェリーテラス・代官山
TEL 03-3770-8728
(調理器具、器:jars)
辺銀暁峰&愛理夫婦がモデルとなった映画『ペンギン夫婦の作りかた』、
新石垣空港の開港を記念して、
暁峰さん役を演じたワン・チュアンイーさんの母国、台湾で公開中です!
題名はずばり中国語でペンギン夫婦を意味する『企鵝夫婦』。
台湾でも日本と同じように「観終わったら、おなかがすいた!」と
ハートだけでなく、胃袋を刺激される観客がたくさん。
映画館で見逃した方は、DVD&ブルーレイディスクをぜひともご家庭で。
家でならば、おなかがすいても、困りませんから。
さて、暁峰さんについて、大事なことを紹介するのを忘れていました。
3年前、農林水産省はシェフや料理人を対象にした
顕彰制度「料理マスターズ」を創設しました。
これは料理人としての技術・技能はもちろん、日本の食、食材、食文化の
素晴らしさに誇りを持ち、生産者や企業と一緒に、
その発展へ貢献している料理人を表彰するというものです。
暁峰さんは、愛理さんと一緒に
島唐辛子をはじめ石垣島産の食材を使った「石垣島ラー油」を開発したこと、
島内ではごく普通の食材を使った料理をペンギン食堂で提供し、話題となり、
島外からの注目を集めて、石垣島の食材の価値向上に貢献したことから
山形県鶴岡の「アル・ケッチァーノ」の奥田政行シェフなど6名と一緒に
平成22年に「第1回料理マスターズ ブロンズ賞」の受賞者となりました。
そんな凄腕料理人である暁峰さんに、
台湾での映画『ペンギン夫婦の作りかた』公開を記念して
「石垣島ラー油」を楽しめる一皿、おいしいレシピを教えてもらおうという特別編です。
楽しく賑やかにということで、友人の和知 徹シェフにお相手をお願いしました。
東京銀座のフレンチレストラン「マルディグラ」は豪快な肉料理でおなじみの店です。
和知シェフ、3年前にはペンギン夫婦を訪ね、“石垣島で食いしん坊”の旅へ。
暁峰さんと愛理さんに案内されさまざまな島の食材を味わったのですが、
その中で強く印象に残ったのが、この連載の第4回で
愛理さんが紹介していた川満養豚の「もろみ豚」でした。
滞在中に特別に許可を得て養豚場やハム、ソーセージの加工場を訪ね、
泡盛のもろみと川満さんの愛情をたっぷり受けて育っている様子や
肉質をその目で確認していた和知シェフ、
「それなら石垣島ラー油ともろみ豚で、スペアリブ作りますよ」と即決です。
ところで和知シェフ、映画『ペンギン夫婦の作りかた』いかがでしたか?
「主役のふたりがたくさん食べる場面が、何度も出てくるけれど、
確かに愛理さんと暁峰さんはあれぐらい食べるなあと思って観てました。
それと野菜を炒める場面が多いのも面白かった。
本州の家庭料理では、野菜を炒めることって案外少ないんです。
でも沖縄の人はゴーヤ、オオタニワタリ、パパイヤとか野菜をよく炒めるし、
暁峰さんの故郷中国も同じように炒めものが得意だから、
島で初めて見る野菜にも、料理方法の“勘”があったんじゃないかな。
食べ物に貪欲な興味があったからこそ、はじめは何もわからなくても
島のお年寄りや友人に教えてもらい、もちろん自分たちでも手探りして
いろんな島の食材を自分たちで使いこなせるようになった。
その努力の結果で、香り豊かな石垣島ラー油が誕生したことも納得しました。
ピパーチ(島胡椒)をすりおろす場面で、粉の刺激がすごいじゃないですか。
ピパーチにはすごく興味があります。生でなっているのを見てみたい。
今度は自分でピパーチを作りに、石垣島に行きたいですね」
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では和知シェフ、「もろみ豚のスペアリブ」よろしくお願いします。
石垣島で育ったもろみ豚の魅力、あらためて教えてください。
「もろみ豚は、海の味がするんですよ。脂の付き方が理想的で、しかも皮が薄い。
だから、オーブンで焼いた時に水分がよく抜けて、皮がパリパリになります。
島の食材を食べて、しかも海辺で育っているから、
じっくり焼くと、南国の海の香りがすごく出てくると思いますよ」
重さ4kgはあろう巨大な皮と骨が付いた三枚肉を前に
シェフはなんと「石垣島ラー油」を1本まるごとドボドボと皿に空けて
大胆に肉に注ぎ、両手で撫でまわしては擦り込んでいきます。
「皮のほうにたくさん擦り込むと焦げるから、おなか側にはたっぷりと」
肉をこよなく愛する和知シェフ、至福のひとときです。
「手に入れにくい貴重なラー油だけれど、
これならば大勢で食べられるから、贅沢に使いたい。
ラー油でマリネして、優しくかつ大胆に揉んだら
軽く塩を振り冷蔵庫で一晩寝かしてください」
なんと準備はそれだけ、簡単ですね。
キッチンには、前日にたっぷりとラー油を擦り込まれた巨大な塊が登場し、
和知シェフは暁峰さんが石垣島の市場、農協売店から選んでくれた春の野菜、果物から
豚肉と一緒に焼く付け合わせを選びます。
「島バナナは密度が濃くバナナにしては珍しく酸味があって、火を通してもおいしい。
一緒に焼きたいけれど、まだ季節が早く、収穫できないのが残念です。
今回はピーチパイン、島ニンジン、サラダいも、タマネギを付け合わせにします」
肉の周囲に、カットした野菜、果物とまるごとの島ニンジンを置いていきます。
「肉のくさみを取り、ラー油のオリエンタルな香りを引き立てるために
スターアニス、チョウジ、コーヒービーンズも一緒に焼きましょう。
あとはオーブンを200度に設定し、じっくり焼いてください」
和知シェフがオーブンに「もろみ豚」を送り込むと、
和知徹流“擦り込むラー油”を楽しそうに見守っていた暁峰さんが
続いてキッチンに立ちます。
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「いやあ凄いね、和知さんのスペアリブ。こんな風にラー油を使ってもらって
作ってる本人も嬉しいし、擦り込んでもらった豚ちゃんもよろこんでるよ」
さて、暁峰さんの一皿はペンギン一家の定番メニュー、牛スジのチヂミです。
見るからにおいしそうな牛スジはもちろん自家製。
「牛スジは愛理のおばあちゃんから教わった作りかたで。
1時間くらい流水にさらして、水がきれいになった熱湯でもう一度洗う。
ニンニク、ネギの青いところ、泡盛、しょうが、実山椒、酒を入れた鍋に入れて
コトコトと柔らかく煮込みます」
続いて暁峰さんが取り出したのは、上の写真で手にしている「しりしり」。
沖縄人がこよなく愛する料理「ニンジンしりしり」作りにかかせない
千切りを作る調理器具です。
普通ジャガイモのチヂミは、ジャガイモをすりおろして作ります。
けれどもそこは食いしん坊のペンギン一家、「しりしり」を使うことで
どこにもない、おいしいチヂミを食べているはず。
ジャガイモは「しりしり」で千切りにして、しばらく水にさらします。
フライパンに牛スジ、ニンニク、島ラッキョウの茎、さらにこの冬に愛理さんが
韓国で漬けてきたキムチを入れ、軽く炒めます。
それを千切りにしたジャガイモに加えて再びフライパンへ。
「形を整えながら、蓋をして蒸し焼きにします」
チヂミを焼くフライパンからは、いい香りが流れだし、和知シェフは鼻先をヒクヒク。
「しりしりを使うと、ジャガイモがこんなにきれいにおろせるとは知らなかった」
「そう、パパイヤもこれでおろすと便利ですね」
「なるほど、いろいろな野菜で試してみよう」
などとおしゃべりが続くうちにスペアリブを焼くオーブンも、
なにやら風雲急を告げる様子。
焼け具合を見るべく、和知シェフがオーブンの扉を開けると、いきなり煙がキッチンに充満。
「おーすごいね」と暁峰さんからも思わず声が出ます。
この煙、じっくり焼かれた「もろみ豚」の旨味がギュギュッと凝縮していく証でしょうか。
「そろそろ中まで火が通ったようです」とシェフはニンマリ。
フライパンのチヂミもおいしそうに色づいてきました。
暁峰さん、チヂミをひっくり返して両面をしっかりと焼きます。
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オーブンから取り出した「もろみ豚」、美しい焼き色が見事で、その香りの凄いこと。
「出てきた、出てきた!いやあ、すごいものができたね!」
「豚肉は皮つきでは、なかなか焼かないですからね。
皮を残して、その味わいを生かせる料理にしたくてスペアリブにしたんです」
和知シェフが包丁を入れると巨大な塊が
「バリッバリッ!」と小気味よい音を聞かせてくれます。
「包丁の刃が折れそうな音だね」
バナナの葉を皿代わりに盛り付けるのを待ちきれず、暁峰さんの手が伸びます。
「皮がバリッバリッだけど、中がすごいジューシーで、脂もおいしい。
和知さんの言う通りだ。この豚は名蔵湾のすぐ近くで育っているから本当に海の味がするね」
「島バナナはなかったけれども、思いつきでパインを焼いてよかったですね」
「パインの酸味もちょうどいいよ。春先のパインの強い酸味が豚肉に合ってる」
「島ニンジンも丸ごと焼いたので甘味が残って、まるでサツマイモみたい」
「和知さんに送った豚肉が、こうなるなんて想像つかなかった」
「もろみ豚のコクとパインの酸味、それに石垣島ラー油の香り。
この3つが合わさって、きっとおいしくなると思ってました」
豚肉、野菜、果物のおいしさを楽しんで、ふたりの指はバナナの葉の上を忙しく巡ります。
ラー油をかけたチヂミをほおばった和知シェフから、
暁峰さんにこんな質問が。
「この料理は、もともとどこかにあったもの?」
「いやどこにもないですよ。これはわが家のごはんなんです」
「キムチの酸味とラー油の甘味の組み合わせもおいしいし、
ジャガイモのカリカリと牛スジのプリプリの食感の対比も楽しい」
「石垣牛の牛スジは、本当においしいですよ」
「しりしりを使うとジャガイモがこんなに上手に焼けるとは知りませんでした。
沖縄の食材をおかずとして食べるのにいい方法ですね」
和知シェフは、ペンギン夫婦の作る「石垣島ラー油」の魅力は、
“南国特有のあたたまる甘い香り”がすることだと教えてくれます。
「ふたりに島を案内してもらい、自然を体験し、いろいろな食材を食べてわかったことは、
この小さなボトルに、石垣島の自然が凝縮されているということ。
このラー油は、石垣島のいろいろな食材をおいしく食べるために、
石垣島のスパイスを巧みに組み合わせた、香り豊かな調味料なんです。
だから、豚肉や野菜といった島の食材と「石垣島ラー油」の組み合わせは
たとえスペアリブのように仕込みに使っても、チヂミのように仕上げに使っても、
島の恵みをトータルで、いただいているなと実感させてくれるんです」
連載第2回で「石垣島ラー油」をこんな風にご紹介しました。
“ おじーやおばーの愛情と、ペンギン夫妻のあったかーい気持ちが
たっぷり入った、まさに「ぬちぐすい」(命の薬)。
細胞の隅々にまで行き渡る、幸せの味です。”
映画『ペンギン夫婦の作りかた』では、小さなスナックで
たくさんのおばーの力を借りて誕生していた「石垣島ラー油」ですが
いまでもラー油工房では暁峰さんとスタッフたちが、コトコト煮える寸胴鍋と格闘し、
ネーネーたちが手作業で楽しくラベルをはり、全国に送っています。
(ペンギン夫婦と歩く「石垣島百景」#002)
そんな「ぬちぐすい」をあなたの台所、食卓にぜひ。
どこにもない香りと奥深い味が、料理の仕込みや仕上げに大活躍してくれます。
そしてなによりも、石垣島に足を運び、美しい自然、
そして豊かな島の暮らしに触れて、見てください。
この連載で紹介された自然、食べ物、笑顔を訪ねて、
ペンギン夫婦のように、石垣島をゆっくり歩いてください。
それが一番の「ぬちぐすい」なんです。
movie information
ペンギン夫婦の映画
『ペンギン夫婦の作りかた』
流行語にもなった「食べるラー油」の原点「辺銀食堂の石垣島ラー油」。その誕生の背景にあったペンギン夫婦のきずなとふたりを取り巻く人々の優しい気持ちを描く物語。
辺銀暁峰さん・愛理さん夫妻の自伝本『ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし』を原案に、国際結婚カップルの帰化申請、食べるラー油の誕生エピソードを『八日目の蝉』『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』の小池栄子と台湾の人気俳優ワン・チュアンイーが演じる。
広くて美しい“空”と“海”、石垣島の健康で美味しい“料理”、そして“優しい気持ち”がたっぷり詰まった物語。“笑顔と満腹”が待っています。
DVD&ブルーレイ発売中、DVDレンタル中。
発売元:バップ
Web:公式サイト
book information
ペンギン夫婦の本
『ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし』
辺銀愛理著 1575円
http://magazineworld.jp/books/all/?gosu=1900
『石垣島ラー油と、おいしいペンギンごはん』
辺銀暁峰 辺銀愛理著 1365円
http://magazineworld.jp/books/all/?gosu=2091
映画『ペンギン夫婦の作り方』の原案となった本が『ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし』。「ラー油は餃子にかけるもの」という日本人の概念を変えたラー油誕生の秘密がわかります。また映画では描かれなかった夫婦の出会い、そして子ペンギン誕生のエピソードなども紹介されて、読めばますます“笑顔と満腹”に。その続編ともいえる本『石垣島ラー油と、おいしいペンギンごはん』はラー油を使ったレシピはもちろん夫婦が石垣島で出会ったヌチグスイ(命の薬)のおいしいレシピを紹介。あなたの食卓が、変わります!
profile
辺銀暁峰&愛理
辺銀暁峰
中国・西安生まれ。映画監督チャン・イーモウのもとでスチールカメラマンを務めた後、日本へ。この連載の写真も担当。
辺銀愛理
東京生まれ。米国育ち。食べ歩きの本を編集していた父の影響で、血統書付きの食いしん坊に育つ。二人は1993年に結婚し、1999年に石垣島へ移住。現在、石垣島ラー油を製造販売し、石垣島で『辺銀食堂』、那覇で『こぺんぎん食堂』を手掛ける。2010年には『ギャラリー&雑貨カフェ 石垣ペンギン』もオープン。この連載のキャプションも担当。
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